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当たって、砕けて

ウェルター侯爵side



 私はウィルヘルム・ウェルター。国王陛下よりこの国の宰相というお役目を頂いている。

 私はいつも通り陛下の側近として王城にて仕事をしていた。すると突然、面会中だった陛下が部屋に入ってこられ私に告げた。


「ウィルヘルム、今日はもう良いから今すぐ帰れ。命令だ」


 そんなことを今まで一度も言われたことがなかったから、驚いた。そして、滅多なことでは命令しない陛下のお言葉にも驚いた。


「な、何故でしょうか? 何か、してしまいましたか」


「いや、ミルフィリアと話しなさい。これも命令だ」


 そう言われ、有無を言わせず転移陣に乗せられて自宅に送られた。いつもは陛下が私に魔力を使ってくださったことが気になってしまうのだが、今回はそんなこと、思い浮かびもしなかった。

 ミルフィリアと話せなんて……。溜め息をついた。何故なら、ミルフィリアとは、彼女の母親が亡くなって以降全く話していないからだ。


 私の前妻であるロザリー・ウォルト公爵令嬢は、ミルフィリアが9歳のときに亡くなった。私と彼女はいわゆる仮面夫婦だった。彼女があまりにも完璧すぎて劣等感を抱いたからだ。まあ、私の金髪に銀色のようなグレイの瞳という色彩が自分を冷たく見せているらしく、ミルクティー色の髪に赤褐色の目という暖かい色を持つロザリーに似合わないと、釣り合わないと思っていたのもあるのだが。それでも、そんな私にも彼女は尽くしてくれた。でも、私は彼女を邪険にした。それが原因なのか、彼女は心労で病気にかかり若くして亡くなった。


 私のせいなのだろうが、どうしても向き合えなかった。彼女が倒れたと聞いた時、私は帰らなかった。どうせ回復するだろうと思ったのだ。その前にも彼女は倒れていたから、そんなわけがないのは分かっていた。けれど、自宅に足が向かなかった。そして、ミルフィリアを遺して逝った。呆気ない最期だった。


 今まで関わってこなかったたった一人の娘と、二人で暮らすのは息が詰まった。ミルフィリアは、顔は私に似ていたが性格はロザリーに似ていたからだ。髪も彼女と一緒で、後ろ姿が酷く似ていた。あまりにも似すぎていて、ロザリーを求めてしまいそうで、狂いそうになった。


 そんな精神が安定していないときに出会ったのが、後妻であるミレイユだ。元々彼女とは母親を通じた幼馴染みであったのだが、もちろん恋愛感情は抱いていなかった。そして、彼女は隣国に留学し、その存在を忘れかけた頃に再会した。

 妻を和解せずに亡くし弱っていた私に漬け込んできた彼女は、私に媚薬を盛り既成事実を作った。避妊こそしたものの、事実は変わらない。結婚することになったが、そこで発覚したのがロミアの存在だ。彼女は未婚だと言っていたが、どうやら隣国に留学していた時に既婚者と不倫してできた子らしい。その相手は隣国を支える伯爵家の当主の弟で、公爵家のご令嬢と結婚している。それほど重要な人物と彼女は不倫し、子まで成していたらしい。ここで侯爵としての権利を使い、拒否することもできたが、ロミアのことを考えて結婚することにした。


 式を挙げ、自宅に帰ってきた私たちを見たミルフィリアの顔が、『何でお母様以外の女を連れてきたの』と呟いた顔が、今でも忘れられない。ロザリーが全てだったミルフィリアにとって、ミレイユとロミアの存在は許せなかったのだろう。何よりも私のことを許せなかったのだろう。それから話す機会もなくなり、ミルフィリアの状態を知らなかった。だから、陛下に「話し合いなさい」と言われて溜め息をついてしまった。


「お父様……」


 四年ぶりに話す娘。不安そうにこちらを見つめている。それもそうだろう、比較的色彩の淡い私の目は少しつり上がっていて相手に悪い印象を与えるから。


「ミルフィリア、部屋で話そう」


「はい」


 部屋についてからも、話を切り出せない。それだけ五年という歳月は長かったのだ。

 沈黙が続き気まずい中、話を切り出したのはミルフィリアだった。


「お父様、申し訳ありませんでした。私は、お母様の存在に甘えて、直接お父様と話すことをしてきませんでした。何よりもいけなかったのは、お父様の妻であるお義母様やその娘である義妹を邪険にしたことです。貴族として、上に立つものとして、王太子殿下の婚約者として、恥ずべき行為です。お父様の顔を汚してししまいました。」


 謝ることじゃないのに、謝るのは私の方だ。けれど、上手く言葉にできない。それが、四年と言う歳月がたったということで、娘が成長した証なのだろう。それを、私は見届けることなく無視していたのだ。なんともったいないことであろうか。

 ミルフィリアが生まれた時ロザリーと約束した、「ミルフィリアの成長をお互いが相手の分まで見守る」という約束を破ってしまった。


「謝るのは私の方だ。すまなかった。……和解できるだろうか? 今でも、間に合うか?」


 不器用な私なりに歩み寄ろうとした時、ミルフィリアはいきなり顔を真っ青にさせて叫んだ。


「っあ、やだっ!」


 倒れた娘を咄嗟に抱き止めた時、その身の軽さに驚いた。消えてなくなってしまうのではないかと思ってしまうほど、淡くて儚い存在だった。





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