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05  王子はどこにでもやってくる


2日後、晴天の中、ルフィナを乗せた馬車がロペス領地に向けて走り出した。


王都よりずっと南にあるその領地は、雰囲気もそこに住む人も開放的だった。


領地に着くと観光は後回しで、祖父の屋敷に向かった。

屋敷に着くと祖母から熱烈な歓迎を受けた。

祖母の服は肩を出した大胆なドレスだ。白髪をショートカットにして、大きなピアスが揺れている。南の地方と言っても、この世界で女性のショートカットは珍しい。しかも、白地に大柄の花がプリントされたプリーツフレアーワンピースなど、王都では滅多に見られない。


祖母はこの領地の最先端のファッションリーダー的存在なのだ。奇抜な格好も機能性があり、働く女性にも支持されている。


そんな彼女はルフィナの背中をバンバン叩き「良く来たね」と労ってくれた。


ルフィナはこの豪快な祖母が大好きだった。母と仲良くしてくれたら最高の祖母なんだけど、母とは壊滅的に気が合わなかった。


「倒れたと聞いて心配していたけど、顔色も良くて元気そうで何よりだわ。悩みや嫌な事、心配事は全部忘れてここでは楽しい事だけを考えて過ごすんだよ」


「はい、そうします」

祖母の迫力に押されて大きな声で返事をした。


「さぁ、それじゃあ。ババ様特性ウェルカムドリンクを飲んでちょうだい」

祖母から受け取ったドリンクは虹色の綺麗な飲み物だった。

ルフィナが一気に飲み干すと、爽やかな風が通りすぎてすっきりした。


ここではレオトニールの事は忘れられる。

ルフィナの気持ちは途端に爽快になった。




ロペス領に来て、2週間が過ぎていた。暑いこの領地でルフィナは快適にそして自由を楽しんでいた。

(私、ここでずっと暮らしていけば、厄介な婚約者候補からいずれ外されるかも知れない。いくらレオトニールがストーカー体質でも、このまま離れていれば諦めてもっと素敵な女の子を選び直すだろう)

ルフィナは開放的な領地で、すっかり楽天的に物事を考える様になっていた。




暑い季節にぴったりのアイスクリーム屋さんが海岸沿いに並んでいると聞き付けて、ルフィナは祖母と出掛けた。

「ルフィナが元気になって良かったわ。少し前まで真っ青な顔で幽霊が歩いているのかと思ったわ。ここの気候はあなたの身体に合ったようね。どう?このまま暫くここで暮らす?」


領地に着いたルフィナを見た祖母は、血の気の失せた顔を大層心配していた。

それが、どんどん健康的に変わっていき、今では領地を駆け回っている。祖母は元気になったルフィナを嬉しそうに見ていた。


ルフィナも祖母が、どんなに心配してくれていたのかを知っている。

そして、自分が帰ると寂しくなるだろう。そう思うともっとここで過ごして祖父母を喜ばせてあげたいとも思っていた。


「はい、ここの気候は私にぴったりで、ずっといたいですわ。それにおばあ様と一緒にいると毎日が楽しくてワクワクします」


孫からのこんな言葉を聞いて、喜ばない祖父母はいない。

祖母は私の返事を聞くとすぐに私の両親へ、私の滞在期間をさらに延長する旨の手紙を出した。


殿下と婚約をしなかったら、いずれ一人娘の自分は婿をとってこの領地を任されるかも知れないと思うと、やる気が満ちてきた。祖父に領地経営について学んだり、領地の観光と言って視察したりと毎日が充実してあっという間に半年が過ぎていた。


もうすっかりレオトニールの事を忘れていた。そんな私にマリーがレオトニールを思い出させる質問を投げ掛けた。


「お嬢様、以前レオトニール殿下を嫌う理由を、私にお聞かせ頂けると仰っていましたが、よろしいでしょうか?」


急な質問に言うのを躊躇したが、マリーに今言っておくべきだと決意した。

「・・・・そうだったわね・・あのね・・私は殿下が怖いの・・」


「怖い? 殿下がお嬢様に何かなさったのですか?」

マリーがいつになく迫ってくる。


それに押されるようにルフィナは意を決して話をした。

「私は前世の記憶があるの。そこで私は何度も殿下に殺されているのよ。だから、この世界でもまた殺されるんじゃないかと思うと怖くて・・」


マリーは暫くルフィナの顔を見て、言葉を失っていた。きっとこれが真実なのかルフィナの夢物語なのかを考えているようだった。

やがて、何かを納得したように「うんうん」と頷いて私の手を握る。

「分かりました。お嬢様の言葉を信じます。私はお嬢様をお守りします」


きっとバカにされるのだろうと思っていたから、マリーの言葉が嬉しかった。

そして、一人で悩んでいた時より相談出きる人がいる心強さは、護衛騎士団に勝るとも劣らない存在感だった。


しかし、『絶対に秘密よ』と言って次の日にみんなに知れ渡っている事が往々にしてある、という事をルフィナは思い知る事になる。



数日後、ロペス領地で午後のティータイムを楽しんでいたら、執事が飛び込んできた。


「火急のお知らせです。レオトニール殿下が近くを通りかかったのでご挨拶に当家をご訪問されると、たった今連絡がありました」


「なんと急な事でしょう。粗相があってはいけません。お迎えの準備をして下さい」

祖父母は使用人を総動員して、お迎えの準備を始めた。


近くを通り掛かるって、王都から遠いこの南の領地に、どうやったら都合良く通り掛かる事があるのでしょうか?・・とルフィナは一人遠い目になった。


お陰でのんびりムードのこの屋敷の人達が、大慌てだ。

ルフィナは、この大騒ぎのどさくさに紛れて屋敷から一時の時間、逃げる事にした。

裏門から数人の護衛をつれて出て行こうとしたが、マリーに強く引き留められて連れ戻されてしまった。



そして、久方ぶりの殿下とのご対面となってしまう。



ソファーに腰掛けたまま私に微笑み掛けるレオトニールは、一枚の絵画のようだ。

顔だけなら本当に好みなのに、と心の中でがっかりする。


「良く戻ってくれたね」

レオトニールの言葉に、ルフィナが逃げ出そうとしていた事は既にバレている。


祖母はルフィナとレオトニールの事を知らないものだから、仲のいい婚約者(候補)同士の様子を微笑ましく思っている。

そんな訳で、殿下が孫のお見舞いにわざわざ来てくれたのだから、二人きりの時間を作った方がいいだろうと不必要な気を使ってくれた。


「レオトニール殿下、どうぞごゆっくりお過ごし下さい。ルフィナ、ホスト役をしっかり頼むわよ」とウィンクして部屋から出ていった。



この事態に言葉も出ない。

そんなルフィナに思いもよらない事をレオトニールが告げる。


「君は前世で私に殺されたと思っているらしいね」


「・・・!!」

ルフィナの回りの空気が薄くなった気がした。息が出来ない苦しさ。

ルフィナはここにいないマリーを探す。

本来なら来客時にはいつも笑顔でそこにマリーは立っている。

そして、振り返って微笑むとルフィナのお気に入りの紅茶をいれてくれる。

しかし、人払いしている今この部屋にマリーがいる筈はない。


いる筈のないマリーを探したのは、この話の出所はマリーしかいないからだ。


「マリーを探しているのかい?」


レオトニールの口からマリーの名前が出て、再び正面に座る人物を睨んだ。


「そんなに睨まないでくれ。僕は君が生まれた時、その容姿を伝え聞いてすぐにルフィナが私の元に来てくれたと分かったんだ。だから、すぐに君をすぐ傍で守ってくれる者を付けたんだよ」


「それがマリーですか・・?」

(私が生まれた時に、どうやって幼いレオトニールが侯爵家に刺客を送り込めたの?)


「ああ、やはり君と僕は一心同体なのだな。君が考えている事が手に取る様に分かるよ。教えてあげるね。マリーは落ちぶれた伯爵家の末娘で酷い父親によって好色なジジイに売られる所を僕が救ったんだ。それから、君の家のメイドに紹介したんだ。それだけの事だよ」

レオトニールは足を組み替えて、ティーカップをテーブルに置いた。

「それって恩を売って、私の監視をさせるためにロペス侯爵家に送り込んだんでしょ?」


「監視じゃないよ。見守るためだ」


(ふん。物は言いようね。結局は監視で、私の動向を探らせていたんじゃない。スパイとは知らずにマリーをお姉さんのように慕っていた私は・・・本当にバカだ)


ルフィナはギュッと唇を噛み締めて、自分がベラベラとマリーに話ていたことを思い出し、涙が出そうになった。味方が出来たと喜んでいた自分に本当に腹が立った。


ドサッとレオトニールがルフィナの横に座った。

さっきまで向かい合っていたのにいつの間に移動したの?


驚いて立とうとしたが、肩に回された手に力が込められて立てなかった。


「さぁ、ここから本題に戻ろう。ルフィナは前世の記憶を持っている。その君はなぜ僕に殺されたと思っているの?」


蛇に睨まれた蛙とは良く言ったものだ。本当に動けなくなる。握った掌は汗で湿っているのに、喉はからからに乾いていた。


「・・前世で4回ともレオトニオール殿下に呼び出されたり、裏切られて殺されたのよ。今回は違うなんて信じられる訳がないじゃない・・」

レオトニールの顔を見れず俯いたまま、ヒリついた喉で絞り出す様に声を出した。


「・・4回? 君が思い出したのは4回だけなんだね? どれを思い出したの?」


え?

まだあるの?


ルフィナは驚いてレオトニールの顔を見た。


「やっと僕の顔を見てくれたね」


レオトニールの顔は前世で愛し合っていた頃の愛しい瞳だ。

でも、毎回このグリーンの瞳に騙されているんじゃないのか?

また、同じ過ちを犯さない為にも、気合いを入れて背筋を伸ばし、レオトニールの顔を見返す。


そして、自分が覚えている4回の転生を話すとレオトニールはじっと考え込んだ。


「君が思い出したのはルフィナと呼ばれた時の事だけだね。それとも死因が怪しいものだけ思い出したのかな?」


一人納得しているレオトニールに、ルフィナは疑問をぶつける。

「どうしていつも、私を追いかけ回すの? あなたがいなければ私は今回こそは長生きして、幸せになれるかも知れないじゃない」


「出会ったら手に入れたい。それこそ他の選択肢はないよ。それにいつも今度こそ二人で幸せになるって信じている」



ルフィナを見るレオトニールの目に熱を帯始めた。

急いで本題に戻る。

「殿下の転生を教えて下さい。私が知っているのは殆ど殿下が原因としか思えない物ばかりだもの・・・」


ふーと息を吐くとレオトニールは話しだした。

「一度目、君はアルリーナ・モニック・バルテレミーという名前の女王様で、僕は位の一番低い歩兵部隊の一兵士だった。敵国が攻めて来て僕達の小さな国はなす術なく大敗を喫した。二度目は麻里という名前の会社員。君は社畜で・・つまり働き過ぎで亡くなったんだ。3度目は君が思い出した花屋の君とその後宿屋の君に会った時だ。あの時は駆け付けた時には君は亡くなっていた。4度目の勇者の時は君が前に出てバリアを張っている時に足元に魔方陣が現れて、君を残して全員が違う場所に転移された。僕は誓って裏切っていない。5度目、聖女の君は僕以外の男を選んだ。本当に殺したいほど憎かった。でも、殺したのは僕ではない」


レオトニールはこの話をどう捉えたのか、じっとルフィナを見つめる。


「いずれにしても、今の所、一度も幸せになっていないのね・・」

ルフィナはあまりの悲惨な人生にがっかりした。


「私は何度も死んでるけど殿下はどうされたのですか? 

私がいなくなった後、誰かと結婚されたのですか?」


この質問になぜかレオトニールはとても気分を害したようで、何か言い掛けて口を開いたが、黙ってしまった。


何を怒っているのか知らないけど、私はその後の事知らないんだから、教えてくれてもいいじゃないと思ったが、押し黙ったレオトニールが怖くて言えなかった。


レオトニールが黙っているので、ルフィナは彼の話をもう一度考えた。

彼の一度目の人生では戦争が起きたのだから、私の死に彼は関係ない。二度目の働き過ぎならこれもそうだ。残りの人生が全てレオトニールが怪しい。


でも、レオトニールの横顔を見ていると『信じたい』と心が強く惹かれていく。


ダメだ。まだはっきりと真実が分かっていないのに、同じ事を繰り返してしまう。

ルフィナのもう一つの心がレオトニールに傾きかけるのを、全身全霊でストップさせた。


             

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