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04  殺さないで


お互いの思いは変わらないまま、ルフィナが12歳とレオトニールは14歳になった。相変わらず数ヵ月に一回しか会わないのに、レオトニールはその機会を大切にしていた。


明日また、レオトニールと会う日がくる。今回こそルフィナは婚約者候補から外れるように、計画を実行しなくてはならない。


メイドのマリーにはルフィナの作戦を伝えてある。

彼女はルフィナの望みを理解してくれてそして、いつだって手伝っている。


今回のルフィナの計画はこうだ。

父のロペス侯爵の情報網から、レオトニールと同じ年頃の可愛い女の子を集める。そしてみんなで楽しくお話をする。

名付けて『ハーレム合コン』。


優しい系、可愛い系、綺麗系、妹キャラ、お姉さまキャラを集めた。

ロペス侯爵にはレオトニールと二人だと、会話が尽きた時に心臓が苦しくなると訴えた。するとお願いした彼女達を早速レオトニールとの会見に合わせて、連れてきてくれると約束してくれた。


準備は万端。


レオトニールが屋敷に現れると、彼女達は一斉にレオトニールを取り囲んでお話を始めた。

・・・凄い! ご令嬢はハイエナのように獲物(レオトニオール)に群がる。

マリーがレオトニールをテーブルに促すと、まるで椅子取りゲームのように、その横を素早く強い者から座っていく。


もちろんルフィナは、レオトニールから一番離れた場所になった。


女の子に囲まれたレオトニールは、笑顔を絶やすことなく対応していた。

実際にレオトニールの顔はどの前世でも本当にイケメンだった。大人になったレオトニールは勿論の事かっこいいが、おじさんになった時もイケオジ風で本当に見映えだけなら100点満点だとルフィナは心の中で褒める。


でも、あの笑顔の裏に・・・ルフィナは自分の最後を思い出すと怖くなった。

その時レオトニールが「ルフィナ!! 大丈夫?」と立ち上がってこっちに歩いてくる。


(何で? せっかく綺麗所をお父様に頼み込んで集めたのに、こっちに来ないでよ)

笑顔がひきつった。

「私は大丈夫です。殿下は皆さんとお話していて下さい」

ルフィナは逃げようとしたがあっと言う間にレオトニール掴まった。

そして、横抱きに抱えあげられて、ルフィナは自分の部屋に運ばれた。


「ねぇ、今回もずっと前から僕は会えるのを楽しみにしていたんだよ。なのに、あの彼女達は何? 僕は君に会いに来たのに、どうして関係のない子達を沢山呼んだの?」


この質問を聞かれている体勢が、レオトニールの膝の上なのだ。

ルフィナはカッチコチに固まる。

心臓が大きく鳴り出す。

これはときめきのせいではない。今までレオトニールと話をした事はあるが、室内に二人っきりなどなかった。侍女もいない。

ヤバイ。恐怖が全身を覆い尽くす。


「あの殿下、私は大丈夫なので一人でも座れます」

動こうとするが、がっちりと腰をホールドされている。

ルフィナは諦めてそのままの体勢で答えた。声は震えないように喉に力を込めた。

「殿下も沢山の子達とお話した方が楽しいのではないかと思い、みんなに来ていただいたのですわ」

当初の予定していた通りの嘘を付くと、クスッと笑われた。


「ルフィナは嘘をつく時に、必ず鼻を触るんだけど、今も変わっていないね」

レオトニールが至近距離で私を見つめる。


やっぱり、レオトニールも転生して以前の記憶を持っているんだ。

ヤバイ。こんなに近くなら一瞬で殺されるわ。逃げないと・・


怖い怖い怖い。


どんどん青ざめて震えるルフィナに、殿下も異常に気付いた。そしてルフィナを椅子に座らせて離れた。


レオトニールが向かった先には、ロペス侯爵のコレクションの剣が飾っている場所だ。


殺される。そう思ったルフィナはドアに向かって逃げ出した。

「助けて! 殺される!」

掠れた声を聞き付けた護衛の騎士が、慌ててドアを開けて入ってきた。


が、誰も怪しい人物はいない。

しかもレオトニールが持っていたのは膝掛けだった。

勢い良く入って来た騎士は、あちこち見回した後、剣を下ろした。


「ルフィナお嬢様、不審者はどこにいるのですか?」


まだ、恐怖に支配されたルフィナは、回らない頭でレオトニールを指してしまった。

指されたレオトニールは一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔に戻す。


騎士もこれには困惑し戸惑っている。

「ルフィナはどうやら寝ぼけていたようだ。大事ない。皆は下がっていてくれ」

この状況でも素早く収めてしまうレオトニールの頭脳に、一瞬感心したが、こちらを見ているレオトニールの目は冷たく光っていた。


頼みの騎士もレオトニールの言葉を信じて部屋を出ていってしまった。


二人になった室内は静まり返っている。

言い訳を考えていたが、その前にレオトニールが口を開いた。

「ルフィナは本当に寝ぼけていたのかな?」


(もしかして私が本当に寝ぼけていたと思っている?)

それならそう言う事にしようと頷きかけた時、レオトニールが追い討ちを掛けてきた。

「そんな訳ないよね? だってルフィナは僕が近付くと体を震わせていたし・・」

レオトニールが一歩近付くと、ルフィナは反射的に一歩下がってしまった。


「やはり、今回の君は何かが違う。いや、前回からも少し変だった」

レオトニールはカツカツカツと素早くルフィナの横に立ち、凍ったように動かないルフィナの顔をぐっと自分に向ける。


怖すぎて声も体も動かない。

固まったルフィナの顔を覗き込み、レオトニールはフッと笑いを漏らした。

「なんだ、今回(▪▪)の君は以前の自分を覚えているんだね? そうだろう」


嬉しそうに笑うレオトニールが、ルフィナには死刑執行人のように見えた。


震える声で言えた一言は

「殺さないで・・・」

だった。


意識が遠退いた。



意識を取り戻したルフィナの耳には、両親とマリーに・・・なぜかレオトニールの声が聞こえる。


両親を安心させる為にも、目を開けた方が良いに決まっている。しかし、心中複雑なルフィナは目を閉じたままだった。目を瞑っているがレオトニールの声が聞こえる時点で起きたくない。


「ルフィナは一体どうしたんだ・・」

心痛なロペス侯爵の声。

「昨日まではあんなに元気だったのに倒れてしまうなんて」

母シェリーの声は、心配で震えている。

ごめんなさい。倒れた理由は分かっているけど、言えないんです。


「僕が傍に付いていながら、申し訳ない。もしルフィナが思い病気ならば王宮の僕の主治医に診てもらう方が安心です。一度王宮に来てもらえないでしょうか?」


(ひー、このまま寝た振りをしていたら、レオトニールに王宮に連れ去られてしまう。

どうしよう。でもここで目を覚ますのはあまりにもあざとい)


「そうだ、今日は王宮で一番大きな馬車で来ているから、今すぐルフィナを王宮に運んで王宮医に診てもらいに行こう」


ルフィナは驚き目を開けてしまった。

レオトニールはにんまりと笑っている。

(しまった。私の狸寝入りを知っていて揶揄ったのか)


「ああ、良かった。ルフィナが目を覚ましたわ」

母が抱きついて、何度もルフィナの背中を撫でている。


こんなにも心配させてしまったのかと、申し訳なく思った。

「ごめんなさい。お母様。でももう大丈夫です」


ロペス侯爵もホッとしている。


横目でレオトニールを見ると、片方の口の端をくっと上げて笑っている。茶番劇を見透かして薄ら笑っているのだ。


居心地の悪さを感じながらも、一応レオトニールにも謝罪を言わなければいけない。しかし、このまま何の進展もなかった数ヵ月に一回の顔合わせを終わらせる好機と考えた。


「殿下には大変お見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした。私はこのように未だに体調も安定しない体です。どうか婚約者候補から外して下さい」


レオトニールは眉を寄せたが、その顔を利用して、眉を寄せたまま悲しげな顔を作った。


「そんな悲しい事を言わないで。婚約者を決めるのはまだ先です。これからはもっと密にお会いして、その辺りの話し合いをしていきたいな。それには数ヵ月に一回では少なすぎると思うよ。これからはもう少し頻繁に会う機会を増やしますね」


そう言うとルフィナの母と父に笑い掛ける。するとその笑顔に両親はすっかり騙されて頷いてしまった。

やられた・・・。

やってやったつもりが返り討ちにあってしまった。



皆が私の部屋から出ていき、レオトニールを送りに行った。


一人ポツンと日が傾き始めた夕暮れの窓を見ながらため息をついた。

あれだけ用意した顔合わせだったのに、さらに事態を悪化させてしまった。

いつも通りにふんふんとレオトニールの話に相槌を打っておけば、また会うのは数ヵ月後だったのに・・・。


(私を諦めない執拗さにうんざりする)

ルフィナの気持ちを知っているメイドのマリーは慰めに来てくれた。


「お嬢様、殿下はもう帰られましたよ。朝から何も召し上がられていないので、スープだけでも召し上がられませんか?」


そう言えば、レオトニールが来ると思うと何も食べられなかった。お昼の食事も倒れたせいで食べていない。


ぐうううう。


マリーがクスッと笑う。

「殿下がお帰りになったので安心されたのですね? すぐにお食事をお部屋にお持ちします」


優しいマリーはすぐに用意をしてくれた。

食事は料理長がルフィナの事を考えた、胃に優しい食事で構成されている。

この屋敷全ての人が優しい。だから、この人達が不幸になる道を選べない。一人逃げたなら、あのストーカーの事だ。何をするか分かったもんじゃない。


スープが気落ちした心に染み渡った。

「美味しい・・。そうだ、こんな事で後ろ向きになってはいけないよね。私頑張るよ」


マリーがうんうんと頷いてくれた。

「でも、お嬢様。なぜそんなにレオトニール殿下をお嫌いになられるのですか?」


マリーが疑問に思うのは仕方ない。レオトニールはルフィナにはいつも寛大で優しく接してくれる。たまにしか会えないのに律儀に守ってその間には手紙にプレゼントにいつも心を砕いてくれている。

本来なら、ありがたいご縁だ。


しかし何度転生しても追いかけてくるストーカーだし、そして人殺者だ。


「マリー、誰にも言わないって約束してくれる? 他の人はこれを言うと気が狂ったとしか思わないでしょうから・・」

私はマリーに一連の出来事を話す決心をした。

マリーはルフィナの手を両手で握って、自分の胸に当てる。


「私は何があってもお嬢様の味方です。お嬢様がおっしゃる事なら全て信じます。どうか私にお話下さい」


やっぱりマリーはこの世の誰よりも信頼出きる。

ルフィナはマリーの気持ちに感謝した。


「マリー。私は昔・・」


コンコンコン。「ルフィナ入るよ」

覚悟を決めたのに、ロペス侯爵が急ぎの用事があるのか、珍しく返事もしていないのに部屋に入ってきた。


「急にごめんね。ルフィナが倒れた事を魔電報でついうっかり父に伝えたら、すぐに返事が来て母を連れて王都に来ると言って聞かないんだ。それを避ける為にルフィナは元気だからそちらに遊びに行かすと言ってしまった。本当にすまないが体の調子が良くなったら、すぐに領地にお前の顔を見せに行ってくれないか?」

ロペス侯爵が焦った様子で話す。


魔電報とは魔石を使った贅沢な往復郵便電報で、送れば数時間で相手に届き、相手の返事もすぐに送り返される貴族が非常時に使う高額な電報だ。それが父にとって運悪くこの日に届いた。しかし魔電報がルフィナを救う事になる。


当のロペス侯爵が、憔悴した表情でルフィナに頼んできたのには訳がある。なぜこんなにロペス侯爵がぐったりしてると言うと、用は嫁と姑問題なのだ。

おっとりしている母と、ハキハキと活発な祖母は気が合わない。

だから、二人が顔を会わすと衝突は避けられない。この二人の間で板挟みになるロペス侯爵は、祖母がこの屋敷に来る事は絶対に避けたいのだ。


ロペス侯爵は申し訳無さそうにお願いをしているが、この話はルフィナにとっては渡りに船だ。


レオトニールがいる王都から離れられるなんて、とても有りがたい話だった。しかも、ルフィナは元気だ。すぐにでも行きたい。

飛び上がって喜びたいが、ここは『私は大丈夫』ってところをそれとなくアピールしつつ、急がせるように促すのがポイントだ。


「先ほど食事を取ったらすっかり元気になりました。きっと領地に行けば私もリフレッシュできると思います。それに、早く元気なお顔を見せに行かないとおばあ様達が痺れを切らして王都に来てしまわれるかもしれません。だから早く準備をしますね」


「それもそうだな。明日中には用意して領地に行ってくれるか? せっかちな母の事だ。早くしないとこちらに来てしまいかねん」


(お父様を煽って良かった。早く出発出来そうだわ。あちらに着いたらゆっくりと過ごせそうね)


問題が解決した訳でもないけれど、今はその原因から遠ざかりたかった。

さっきまでの暗い気持ちは忘れて目の前の解放感溢れるロペス領に心は飛んでいた。


「では、用意が出来次第、領地に向かうのでおじい様とあばあ様に連絡をお願いしますね」


ルフィナは念のために再度急がすように仕向けた。


「身体が辛いなら、無理をしなくていいからね」

ロペス侯爵は嫁姑戦争回避のために、娘に無理をさせたのではないかと罪悪感を持っているが、ルフィナは父を安心させる為にも元気に返事をした。


「はい、無理はしません。久しぶりの旅行ですもの。楽しみだわ」


安心した父が部屋から出ていった後、マリーが話の続きを聞いてきた。

「お嬢様。殿下の件のお話ですが、お聞きしても宜しいですか?」


勢いで話したかった内容だったので、どうも今から話すには気が削がれてしまった。また領地に着いたら話すと言うとマリーは微笑んで「ではその時に」と言ってくれた。


マリーは早く出発できるように、今晩から用意を始めると言って旅行用の鞄を探しに部屋から出た。

そのマリーがどこに向かったのか知らないルフィナは、働き者のマリーを有りがたく思っていた。


階段下倉庫で、

「せっかく情報が取れそうだったのに・・」

と爪を噛んでいるマリーの姿を知る(よし)もなかった。

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