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02  赤ちゃんですが・・


ルフィナの死因に限りなく近い人物。

それは今、殿下と呼ばれるレオトニール王子。

以前もレオトニールはそのままの名前だった。

ルフィナもルフィナと呼ばれている。

因果関係は分からないが、とても嫌な組み合わせの名前だとルフィナは思っている。


ルフィナが嫌がっているにも関わらず、回りの大人達は、にこにことレオトニールが彼女の傍にいる事を喜んでいる。


前世の記憶が戻ったばかりで、この世界の全容が一向に掴めない。この要因はルフィナの行動範囲が、この狭いベッドだけだからだ。

たまに抱っこされるが、部屋の中から出た事がない。そして、もう一つは赤ちゃん特有の睡眠時間。


(・・ほら、もう眠くなってきた。どんだけ寝るの?)

ルフィナは自分で突っ込みをいれながらも、また寝てしまった。


起きるとレオトニールはいなくなっていた。

レオトニールがいない今、すこし落ち着ける。


ここでルフィナはベッド内で集めた情報で、人間関係を総ざらいした。


(侍女の話を総合すると、私、ルフィナ・ロペスはロペス侯爵家の一人娘。この部屋だけでもかなり裕福な家だ。家具や調度品は流石侯爵家と頷ける一級品ばかりだ。


その肝心の両親の名前は、未だに分かっていない。


そしてレオトニールは、今回コルト王国の第一王子にして、すでに王太子。

この王国の大きさは全く分からないが大国だと思いたい。小国で他国に脅かされている、なんて事はないように願いたいのだ)


現在のおさらいをして、ルフィナはため息をつく。

またレオトニールの身分が自分よりも上なのだ。つまりレオトニールに強く出られたら、断れない。


ふと3度目の人生を思い出す。

3度目の時は二人とも平民だった。

あの時は魔王が復活した異世界に転生したのだった。


裕福ではない村にある、教会が運営している孤児院でルフィナは暮らしていた。ルフィナの魔力が人より遥かに多く、丁度通り掛かった魔導士の訓練を受ける事になった。


その教えてくれた魔導士は有名な魔導士で、力を付けていったルフィナもそこそこ有名になった。

ダンジョンに入るのも、指名が多くて引く手数多だった。


だが、魔王が復活して世界は一変した。小さな村は自衛が難しく、村人は村を捨てて大きな町に逃げて行った。

国が滅び行く方向に進んでいる時に、強靭な肉体と魔力を保持した勇者が現れた。


勇者はレオトニール。ルフィナは魔導士として彼と顔を会わせた時に、言われた事が印象的だった。


「君はこの戦いから抜けた方がいい」

ルフィナは自分の力不足を指摘されたのだと思って反発した。

でも理由を聞くと全く違った。「君を失いたくないからだよ」

あの時はレオトニールに蕩けるような顔で言われて舞い上がってしまった。


でも、魔王を目の前に抜ける事なんて出来ない。だから、勿論逃げる事なく旅を続けて戦っていた。


レオトニールと一緒にパーティーを組んでいたが、二人だけでなく全部で7人でのパーティーだった。その他にも騎士団が一緒に戦ってくれていた。


魔王城まであと少しという所で沢山の魔獣に囲まれた。

そこで、その魔獣に襲われた・・・のではなく、ルフィナは仲間に裏切られたのだ。


ルフィナはレオトニールと他のパーティーのメンバーを守ろうとバリアを張るために前に出た。

必死でバリアを張っていた為に、後ろの様子を気にしていなかった。

しかし、後ろを守ってくれているはずの仲間が突然、一人もいなくなっていた。騎士団もいなくなっていたのだ。

呆然としたが、襲い来る魔獣は増えるばかり。でも、いつかレオトニールは戻ってきてくれるとルフィナは信じて戦っていた。


ルフィナは魔力が続く限りバリアを張りながら、攻撃をしたがどんどん這い出てくる魔獣にバリアが破られた。

そして魔力の尽きたルフィナは一人、魔獣に囲まれて死んだのだ。

あの時転移魔法を使えたのは、レオトニールだけだった。


(・・っく、思い出しても腹が立つ。勇者の癖に卑怯な奴)

レオトニールに裏切られたんだと悔し涙を流しながら絶命したあの時の気持ちは、次の転生で少し覚えていたのかもしれなかった。




4度目は、小さな王国の村娘に生まれた。ルフィナは成長するに従って魔力が多くなって来た。そのうち、癒しの力があると分かり、聖女に選ばれた。本来聖女に選ばれるとその国の王子と結婚する流れなのだが、その国には当時王女様しかいなかった。


そこで、宰相様と公爵様と何人かの貴族様から結婚相手を選ぶように言われた。

しかし、ルフィナには聖女となってからずっと守ってくれていた騎士様と恋仲になっていた。

騎士様に会うと頭が熱くなって、何も考えられなくなるくらいに、彼の事が好きだった。・・・と思う。

だから、国王陛下にこの国のために尽くすので、騎士様と一緒になりたいと願い出るつもりだった。


陛下との謁見の前日、宰相様が会いに来た。

ルフィナは以前から、宰相様を見る度に足が震えたりと、拒絶反応が出ていた。

今ならその理由が分かる。

宰相様はレオトニールだった。


神殿の塔の最上階の部屋に入って来たレオトニールは、恐ろしい形相でルフィナの肩を掴んだ。


「どうして俺を選ばないんだ」

レオトニールは激しく怒っていた。

その後暫く捲し立てていたけど、「絶対に許さない」とかなんとか言って帰っていった。

んで、その後ルフィナは何者かに塔から突き落とされた。


もうここまで思い出したら、犯人はレオトニール、一択ではないのか? とルフィナは考えていた。


(今回はこんなに早く会ってしまったけど、前世でレオトニールと会っていた事が思い出せたのは僥倖よね。全力で奴から逃げるわよ)


ルフィナはお餅みたいな柔らかい手をぐっと握った。




数日間の行動で、レオトニールが生まれたばかりの赤ちゃんを、前世のルフィナと認識している事は間違いない。確証はないけれど。

それと、彼はずっと前世の記憶があったとしか思えない行動が沢山あった。


(・・・もしかして、レオトニールは私を追いかけて転生している?)


時を越えたストーカー・・って本のタイトルならいいけど、当事者になれば唯々怖い。


暫くはレオトニールに気がついていない振りをする方がいいと、結論に至ったルフィナだった。

故に、そのままレオトニールが来ても、にこにこ赤ちゃんを装う事にしたのだった。


昼過ぎに再びレオトニールがロペス公爵家を訪れた。

皆一様にレオトニールを褒めそやし、ルフィナが泣いても笑ってもレオトニールに懐いていると持ち上げた。


「そうか、やっぱりルフィナは僕が傍にいると機嫌が良くなるんだね」

レオトニールも満更ではない顔で頷いている。


(駄目だ・・このままじゃ、おしゃべりが出来る前にレオトニールの婚約者にさせられてしまいそうだわ。ここはレオトニールは嫌だとアピールした方がいいようね)


「おぎゃーーおぎゃーー」

ルフィナはレオトニールが近付くと火の付いたように泣き出した。


母親や乳母ならば赤ちゃんの意思を少しでも汲んでくれるに違いない。

始めはレオトニールに懐いていると言っていた母も乳母も流石にこう泣き続けると、レオトニールをルフィナの傍に寄せ付けないように、取り計らった。


レオトニールも初めのうちは私が泣いていてもベビーベッドから離れようとしなかったが、母や乳母の連携を前にそうそう私に近付けなくなった。


そのうち、レオトニールが遊びに来る回数が減ってきた。


(やった。私とロペス家の勝利だ)


ルフィナは喜んでいたが、ロペス侯爵だけは一人気を揉んでいた。


「シェリー、なんて事をしてくれたんだ。殿下が名前を付けてくれる程、ルフィナを気に入ってくれていたのに、君達のせいで殿下の足が遠退いてしまったではないか」


忙しくて、あまり顔を出さないロペス侯爵が、珍しく昼間に帰ってきてため息をつきながら、皆に文句を言っている。

「ですが、アルフレッド。殿下がいらっしゃるとルフィナが泣き止まないのです。見ている私も辛くて・・それにあれだけ泣いてばかりいては、病気になってしまいますわ」


(おお。お母様。政治的駆け引きより、娘の健康を考えてくれるお母様の娘に生まれて良かったです。お父様もお母様を見習って下さいよ。そうそう、二人が名前を呼び合ってくれたので名前が分かりました。

お母様はシェリー。お父様はアルフレッド。

ふむふむ。メモしときましょう。

書けないけど・・)


「どうしてだ? ルフィナ? 殿下の何が気に入らないんだ?」


(お父様ったら本気で私に質問をしているけど、答えられるまでにはまだ時間がかかりますよ)


ロペス侯爵ががっくりとため息をつきながらも、ルフィナを優しく抱っこした。


まだ首が座っていない子の抱っこは難しいのに、上手だった。良くできたご褒美にルフィナは満面の笑みをプレゼントしてあげた。


「ははは、私の抱っこはそんなに嬉しいのかい? ルフィナは私の事が大好きなんだね? 見たかい? ルフィナは私が抱っこをするとこんなにも嬉しそうだ」


(ふふふ、イケオジの落とし方は簡単だわ。天使の笑顔に勝てる者はいないのよ)


「こんなに笑う子が、泣くなんてやはり殿下の婚約者は嫌なのかな? 私がもっといい男の子を見つけてあげるね」


(やった。お父様、そのお言葉を忘れないで下さいね)


安心したせいか、ルフィナはうつらうつらとお眠になってきた。


「みんな、静かにしておくれ。私の天使が私の腕の中で眠りそうだ」

我が子が自分の腕の中で寝そうなのは、どの親にとっても嬉しいようで、ロペス侯爵は嬉しそうにルフィナが眠るまで優しく抱いていた。



ルフィナが次に起きると、どうやら昨日の出来事は夢ではなく本当にあった話だと確信した。

なぜなら、ルフィナの体の調子が悪いと言う事になり、屋敷には人の出入りが極端に少なくなったなったのだ。


ロペス侯爵はルフィナを政治の道具に使うよりも、のんびり育てる事にしたようだ。

体調を考慮してレオトニールがルフィナに会うのは一ヶ月に一回になった。

しかし、一ヶ月に一度の約束も、その日に私の具合が悪くなる事が多く、中止や延期になった。


(私って女優に向いているわ)


でも、こんなに頑張っているのに、レオトニールの婚約者候補からは外れる事はなかった。

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