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01  傍に来ないで!


あーとても良く寝た気がします。

・・・って私確か、高ーい塔から落ちて死んだと思ったんだけど、もしかしてあの高さから落ちたのに助かったの?


折角聖女として選ばれて、陛下の御前に上がる前の日に、塔の上から突き落とされた。


でもこうやって生きているなんて、今回は幸運だったわ。


・・・? 今回?


あれ?どういう事?


誰か呼ばないと・・


「おぎゃー・・?」


え?


もう一度呼んでみよう


「おぎゃーおぎゃー・・」

手を見る。

スッゴク小さい。


これは赤ちゃんに転生なのでは・・・?

冷静に考えてみましょう。


遠い記憶を手繰り寄せる。

えーと・・私はこれまでに4回死んで、今は5回目の人生の最初のようです。

今まで全然思い出さなかった前世を、今回は全て思い出せた。

これは、きっと神様が今回は長生き出来るように応援してくれているに違いないわ。


そう、私のこれまでの早死にの影には、ストーカーのように付きまとっていたあの男がいる。


絶対に今回はあの男から逃げまくって見せますわ。



「奥さま、お嬢様が起きましたよ」

「マリー、ありがとう。まぁ、起きているわ。うふふ、ご機嫌で良かった」

マリーと名の侍女に続いて、私の前に薄紫の髪の毛の優しい女の人が覗き込んだ。

この人が私のお母様ね。


優しそうだわ。

とても、私を愛してくれている事が、温かな手の温もりを通して感じる。

私も一生懸命に手を伸ばして、母に愛情を伝えようとした。


「ほら、殿下ご覧ください」

お母様の顔が目の前から消える。次に現れたのが、青銀髪でグリーンのお目々ぱっちりの男の子。


(ここ・こ・こいつだー。ストーカー男がいる!!)

途端に私の怒りや恐怖やらが、沸き起こった。

この男です。これまでの人生の死に直結したのは、全部この男が原因です。


避けようと思っていた矢先に、もう遭遇してしまった!!


奴は私のほっぺをつんつんと触る。

「この子が僕のお嫁さんになるんだよね? じゃあ、僕が名前を決めてもいい?」


なんと仰いました?

すでに婚約者と?


「まぁ、殿下ったら気が早いですわ。まだ生まれたばかりです。候補というだけで婚約者ではございませんよ」


良かったまだ候補だった。それでは、何とか逃げ道はあるはず。


「殿下はずいぶんと気に入ってくれたご様子ですな。殿下が名前を付けて下さるなんて名誉なことだ。是非にお願いしたいですな」

低くて渋い声が会話に加わる。

この男の人は私の父親らしいが、こんなに小さい赤ちゃんを売り込むなんて許せない。

今は愛らしい殿下と呼ばれてる子が、大人になって悪魔みたいな奴に変貌するのよ。


「ワー嬉しいな。僕のお嫁さんにするんだもの。可愛いお名前がいいよね」

男の子はぐっと私の顔に近づく。

「君は今度も(▪▪▪)ルフィナがいいよね?」


え?

今確かに『今度も』って言った?

この子ももしかして転生して前世の記憶を持ってるの?

それとも聞き違いなの?



「ルフィナ・ロペスか。良い名だ。殿下に付けて貰った名前が嬉しいようだ。ほら、ルフィナも大喜びしていますよ」

この父親は馬鹿なのですか?

私が反対の意味を込めて大声で「おぎゃーおぎゃー」と泣いているのに、『何が喜んでいる』ですか。

名前も前世と同じなら、また同じ早死にの人生を送りそうで嫌ぁぁー!!

名前は他のにして欲しい!!

こんなに頑張って泣いたのに、今回もルフィナに決定してしまった。


「じゃぁ、ルフィナ。また来るからそれまでいい子にしててね」


殿下と呼ばれた男の子は、私の頭を優しく撫でて帰っていった。


最悪の始まりだ。

もう奴に見つかった挙げ句、こっちはまだ動けないなんて。


私は動けない代わりに頭を働かせた。

よし確認をしましょう。私は前世を思いだして整理する。


一度目は花屋の娘として生まれた。優しい両親と何不自由なく暮らしていました。ある日、花好きの領主の息子が彼の母にお花をあげる為に花屋にやってきた。


当時7歳のレオトニールは小さい手にお金の入った小銭入れを持って、御付きの人に傅かれながら元気良く挨拶をした。


「こんにちは、ピンクのバラを下さい」


今でも恥ずかしそうに笑うレオトニールを、はっきりと思い出す事が出来る。


「はい、いらっしゃいませ。レオトニール様。お母様へのお誕生日プレゼントですか?」


私の母が応対していると、レオトニールは店の片隅で人形を抱っこして遊んでいた私に目を付けた。

「・・・あの子は?」


私は知らない男の子に、見られているのが恥ずかしくてお父さんの後ろに隠れた。


「あの子は私の娘でルフィナと申します。レオトニール様より一つ年下なのですが、恥ずかしがり屋で挨拶もせず、お許し下さい」


母がレオトニールに挨拶をするように手招きをするが、レオトニールの後ろに立っている侍従が怖くて父のズボンにへばり付いて挨拶すら出来なかった。


その時の私の印象は今思い返しても、挨拶も出来ない不出来な娘だったと思うが、レオトニールはその後何度も花を買いに、店に立ち寄ってくれた。


そのうち人見知りの私でも挨拶が出来るようになり、話をするようになった。

そのまま成長し、幼馴染みの二人は16歳になるとお互いを意識して、いつの間にやら何度かデートするようになっていた。


領主様もお優しい方で、幼馴染みの二人がゆっくりと育つのを、息子に貴族の娘をあてがう事も、婚約もさせずに待っててくれた。

何度目かのデートで、野原で摘んできたスミュオレの花をレオトニールは私にくれた。

その時私はスミュオレの花言葉を知らなかった。

『あなたを閉じ込めたい』

それがスミュオレの花言葉だった。


私にはもう一人幼馴染みがいた。

同じ年齢の男の子で仲が良かった。

ある日、その子と一緒に買い物に行った事で、レオトニールと喧嘩になった。でも、その男の子の彼女のプレゼントを一緒に探しに行っただけだったのだが、レオトニールが口もきいてくれない程怒ってしまった。


そんな中、レオトニールが仲直りをしたいから廃墟の屋敷で待っていると手紙を寄越した。

私はなんとか仲直りをしたいと思い、そこに行くといきなり後ろから、剣で突き刺された。

薄れゆく意識の中で、レオトニールの青銀髪が見えた。


「どうして?」

と声も出せずに死んだ日は、ちょうど私の17歳の誕生日だった。


儚く終わった最初の人生を振り返って、悲しみよりも悔しさが心の中の90%を占めた。


スミュオレの花言葉(おぎゃ)だって、あなたを閉じ込めたい(おぎゃーー)ってストーカーじゃない」

ぐっと手を握り絞めて、思い出した前世のレオトニールの顔にパンチをした。


「まぁまぁ、お腹が空いたのかしら? 随分と暴れているわね。ふふふ元気があって良かったわ」

私のお母様らしき人が天女様のように頬笑む。


「そうですね、先ほどレオトニール様にお会いしてから、動きがとても活発になられて・・レオトニール様を気に入られたご様子ですわね」

侍女のマリーがとんでもない事を言い出す。


違う断じて違う(おぎゃーーーー)


「ふふふ、気に入ったと仰ってますよ」


こらッマリー。勝手な解釈をするんじゃない!!

怒りたくても赤ちゃんだとどうする事も出来ない。


あの人殺しがまた来たって、何も出来ないじゃない。赤ちゃんてなんて弱い生き物なんでしょう。悲しくなるわ。

じたばたしていたら、眠たくなってきた。

あー・・目蓋(まぶた)がー。・・zzzz





お腹が空いたーーー!!!の「おぎゃー」に夜中の授乳。乳母さんご苦労様です。

優しい顔の乳母のお乳を貰いながら、また再びうつらうつら夢の中。


朝再び2度目の人生をハッキリと思い出した。

2度目の人生は前世を思い出す事なく生きていた。

だから、1度目の人生終了後、すぐに同じ世界で死後すぐに生まれ変わったのですが、全く知らなかったのです。


今度は宿屋に生まれ、父と母と一緒に宿屋を手伝っていた。

先も言いましたが生まれ変わった事を知らずに生きていたのです。しかし、なぜか見晴らしの良い丘に足が向いていつもスカラビオーサの花とスミュオレの花に埋め尽くされた墓の前にいつも立っていた。


この墓に来ると何故だか悲しくて胸が痛くなる。なのにいつも来てしまった。今ならわかる。私の墓だったんだ。


今度はレオトニールに会わずに大人になった。

しかし、18歳になった冬の大雪の日に会ってしまった。雪の為に動けなくなった領主様が我が家の経営する宿屋に泊まりに来た。その時の領主様の感想はくたびれた感じのおじさんと言うのがぴったりな表現です。それがレオトニールだった。


でも何も知らない私は、私の顔を見た途端、急に私の手を取って泣き出す領主様にビックリして戸惑うばかりだった。


落ち着いた領主様からよくよく話を聞くと、領主様が若い頃に結婚を約束していた女性に似ていたと言うのです。

そして、『彼女を殺してしまったのは私の落ち度だ』と懺悔と犯行に近い告白をしていた。


領主様が屋敷に遊びにきて欲しいと懇願するので、ついつい屋敷に出入りするようになりました。


始めは年が離れた領主様に愛情はなかった。ただ、私が行くと領主のレオトニール様は、いつも心の底から喜んでくれる事が嬉しかった。くたびれたおじさんだと思っていたけど、喜んだ時のクシャッとした顔がなんだか可愛かった。


レオトニール様は私に沢山のドレスをプレゼントしてくれた。でも、ダンスの時はいつも躊躇いながら私の手を取った。


『触れると壊れそうだ』と言いながら、私の事を大切にしてくれていた。


良く見るとイケオジ風の領主様はかっこ良くて、私は年の差なんて気にならないくらいに好きになっていた。


レオトニール様が呼んでいると言われ、いつものように屋敷に行き応接室で待っている間に出されたお茶を飲んだ。

喉を通った瞬間に食道が焼けただれた痛みを感じ、すぐに吐き出そうとしたが、口から吐き出したのは大量の血だった。

私は息を引き取る前に、いつもレオトニール様が履いている靴が近づいて来るのを見て死んだのです。


毒殺された時の様子を思い出した私は、安心して乳母のミルクを堪能できる事をありがたく思う。

いくらレオトニールが来ても、この屋敷で乳母の乳に毒を盛る事は難しいでしょう。

この美味しいお乳は安全だ。

とごくりと喉を潤す。


「おいしい、最高です」


母乳に舌鼓を打ちながら、結論を出した。

やはり私の死因の影にいつもあいつがいる。

レオトニール。

今思い出したが私の1度目の墓にあったスミュオレの花はレオトニールが供えてくれた花だ。

もう一つの花、薄紫のスカラビオーサの花言葉は『私は全てを失った』だ。

きっと私の1度目の家族が供えてくれたに違いない。

そう思う私を慈しんでくれた家族に会いたくなった。


「おぎゃーー」

ついつい声をあげて泣いてしまった。


「あはは。ルフィナってば、僕が来たのが分かったみたいだな。僕が来たら泣いてくれたよ」


私が今一番会いたくない人物。そうレオトニールが朝一番でやって来た。


どうかお母様、乳母さん、侍女のマリー。

私の傍を離れないでぇぇぇ。



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