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異考三国志  作者: サトウタイジ
黄巾の乱
18/24

17三人の鬼

   17三人の鬼




 時を少し遡る。

 曹操を殿上に送り出して大門をさっさと出た夏侯惇は、先程見かけた三人の異形の者達に近づく。正直、鬼気の大男と、太いが肥満ではない男の二人はどれほどの力を秘めているか予想も付かない、だが、何故か心が踊る。夏侯惇とて国許では手縛──相撲に似た格技──や刀槍術では曹操を除いて負け無しなのだから。


 「お前達まえら、離宮とは言え今上の安在近くで篝火など焚いて大丈夫かよ。お前等だろ?北中郎将の麾下で奮闘したってのは。」


 篝火を囲んでいた男達の視線が一斉に夏侯惇を睨んだ。ゾクリとする程の脅威が夏侯惇を襲う。どれも死地をくぐり抜けた猛者もさの目である


 「何処かのの方でしょうか?確かに盧北中郎将に付き従った者達でございます。我等は論功行賞をお待ちしている身なのですが、何分、寄る辺なき身ゆえお沙汰に時間がかかっている様子。待つ間はこのようにして良いと近衛の方のお許しを得ている次第。申し遅れましたワタクシは劉玄徳と申します。」


 キンキンキラキラの軍装を纏った、おそらく義兵の長なのだろう男が如才なく愛想の良い笑顔で応えた。


 一瞬、夏侯惇は目を背けそうになった。正直、失笑しそうだったのだ、悪趣味を通り越して”イタイ”、同情を覚える程。かろうじて、「へえ、なら良いんだ。済まなかった」と言うのがやっとだった。


 「御身おんみ我身わがみの主は礼を越え名乗った。御身も名乗られるのが礼ではありませんかな?」


 集団の中でどこか浮いた存在であった鬼気迫る男が夏侯惇に不満げに異議を述べる。何かを問うなら”礼儀として”自ら名乗れと、舐められる事を許容しないと言う表明だ。


 「あ、ああ、スマナイ。小官は河南尹のぶかにして長社派遣騎都尉のふくかん、夏侯元譲と申す。」


 夏侯惇は素直に非礼を侘びた。劉玄徳に頭を下げ、それでいて、鬼気迫る男をにらむ。


 夏侯惇の様子から何か(・・・)を感じとったのだろう太い男がピクリと眉を上げた。もろ肌脱ぎの太い腕が更に一段太くなる。


 「夏侯どん、この辺りは朝晩冷えますなぁ。アッシのこさえた白酒を一献どうですかい。チッタァ温まりますぜ。」


 人懐っこい性格なのだろう。妙に馴れ馴れしい態度で脇に抱えた酒甕さけがめから巨大な手に似合わなぬ小さなわんに注いだ酒を差し出した。

 手製の白酒と聞いて少しそそられた夏侯惇だったが……。


 「……ゴクッ、いや、一応公務中なんでな。この場では遠慮しておく。その甕ごとくれると言うなら有難く頂くが?」


 夏侯惇は思わず生唾を飲み込み、苦笑して断りつつも思わず酒甕ごと要求してしまう。


 「そりゃぁダメだ。ここの野郎どもから集めた食いもんでやっとこ、こさえたもんだからなぁ。真面目なお役人は損だよなぁ。酒も好きに飲めねえんだから、ウメェんだけどなぁ。」


 ガハハと碗の酒をあおる太い男。その後、当然のように隣の兵に酒甕をひょいと回していく。


 「飛!!夏侯殿が名乗られて居るのに、答礼を怠るな!……我身の義弟おとうとが失礼した。我身は関長生。この酔いどれは此等義勇兵を率いる我が主君を共に長兄あにとする我が義弟、張益徳と申す。失礼の段、ご容赦を。」


 関長生と名乗った男が生真面目に拱手きょうしゅ──両手を胸前で組んで頭を下げる礼──をして軽く侘びた。


 ──くそ真面目過ぎて話の合わない手合てあいだな。こりゃ──。


 自分も同僚達から堅すぎて敬遠されている事を知らない夏侯惇は苦笑しつつ、答礼の拱手を返した。ふと、キンキンキラキラの男が劉姓である事に気付く。


 「劉……殿ですか?」


 「おお!!お気付きですか!我が義長兄あにはかの景帝が一子、中山靖王の末孫であらせられるのです!」


 食いついたように関長生を名乗った男がくだくだと説明を始めた。先程迄の無愛想さは何処へやら、話し始めると止まらない手合であるようで、話題が彼方此方あちこちに飛び散らかり、太い男・張益徳が掛け合いのように合いの手を入れてくる為、何を話したいのか正直判じかねてしまう程である。


 半ば混乱した頭で夏侯惇がかろうじて理解したのは、キンキンキラキラの男が皇帝と同じ姓の劉玄徳の名は備であること、鬼気迫る男・関長生は名を羽、太い男・張益徳の名は飛という事。劉備を長兄として義兄弟のちぎりを義勇軍として賊軍討伐の戦いの中で結んだ事。そして、義勇兵達の殆どは義侠として劉備に付き従っていた者達であり、富裕な商家出身の張飛やその縁者の支援を得て決起したと言った所である。


 長過ぎる関羽の話をどう切ろうか、困惑しきっていた夏侯惇の後ろから声が掛けられた。


「おい、惇。帰るぞ!」




 渡りに船とばかり、そそくさと夏侯惇は義兄弟達の元を辞去した。


 「いや、助かった。無口で無愛想かと思ったら、まぁ話が長え長え。」


 「そうか?随分楽しそうだったじゃないか?」


 「楽しい思いをしたのはあいつらだけだろ。取り留めもない話が止まんねえんだ。まぁ、お陰であいつらの事が大分分かったけどな。」


 曹操も知りたいであろう。劉備達の事をざっと教える夏侯惇。


 「フーン、義侠で義兄弟ねぇ。居る所には居るんだな、そう言う連中」


 「実はちょっと羨ましいだろ?」


 「馬鹿言え。契りなんか結ばなくとも俺らは兄弟で、同胞はらからだ。」


 「なら、今度は投げ出すなよ?”済南国相さいなんのこくしょう”殿。しかし済南とはな。」


 「……。」


 若い頃の様に暴走した挙句に壁にぶつかりへそを曲げて郷里くにに引っ込むな、今度の仕事は勤め上げて出世しろ、我等兄弟・同胞達の為にも、と言う夏侯惇の叱咤に黙ってしまう曹操である。


 ──俺の決めることじゃねえし。──


 本音を言うと怒られるので話題を変える。


 「あの三人の鬼の事は本初兄と大将軍にちょっとはかっておくか。放っておくとずっとあのままだぞ。」


 「お、珍しいな、なんか気に入ったか?」


 「まぁな、危機の時の”劉氏”のしぶとさが面白いと思ってな。」



劉備達が好きな人には申し訳無いのですが。

可也、飛び飛びでしか出ないです。

後は劉備くんがどう垢抜けていくか……考え中。

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