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異考三国志  作者: サトウタイジ
黄巾の乱
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09西華

   09西華




 曹操達が後詰を迎えたその時刻、皇甫嵩・朱儁両中郎将は西華という、だだっ広い荒れ果てた耕地の拡がる緑野に陣取っていた。

 西華は頴川郡の東南に当たる汝南郡の端に位置し、街道沿いにある為、物資──租税徴収された穀物や命令で調達された様々な需品──の中間集積地であり、比較的堅牢な城郭がある。その為に黄巾賊に狙われているのだ、が、百数里《40km》四方に何の障害物もない為、いくさに酷く不向きな場所である。


 西華城周辺──街道上に麾下の部隊と都からの新たな増援を配して、勢力を増しつつ街道を西進してくる彭脱軍を迎え撃つ準備をほぼ整え終わっていた

 その最中枢、南方黄巾討伐軍本営で布陣完了を報告した幕僚達に渋顔で応ずる両中郎将がいた。


 「やはり間に合わんか曹騎都尉は……。」


 「大当たりの次は貧乏(くじ)ですか。どうにも扱いに迷う男ですなぁ……優秀な男なのでしょうが。」


 「たった一・二回の遅参で決めつけるものでもないでしょう?此度こたびは押し付けられた男が男ですからね。あんな(・・・)の誰に当たっても無理でしょう。」


 「フフン、まぁ、豫州刺史もお人が悪い、自分の貧乏籤を他人ひとに押し付けるのですからねぇ。やむを得ん”英雄”のいない戦いをしましょう。」

 曹操との連絡を買って出た孫堅の”曹騎都尉遅参”の報告を受けた、皇甫嵩と朱儁は曹操のいない(・・・)作戦を練り始めた。


 「お言葉ですが、曹騎都尉は間に合う可能性が高いと本職は愚考します。その為に連絡をより密に……。」


 孫堅は曹操とその副官を非常に高く評価していた。その為、いつもなら決してしない差し出口を挟んだ。


 彼の上官達は顔を見合わせ、何事かを確認するかのように頷き合い、ニヤリと苦笑した。


 「間に合ってくれるというならそれも(・・・)重畳。その時は君の遊撃隊にまわってもらおうか。」


 「そうだな、どうせだから君が指揮を取りたまえ。まぁ、官位は彼の方が高くてにくいだろうが。そんなツマラナイ事に拘泥する君等きみらでもあるまい。伝使に行って随分と意気投合したようじゃないか?宜しくやってくれ。」




 「おやおやぁ?いくさのしたくもそっちのけで何か悪だくみですかなぁ?」


 いやに甲高い声とともに、ずかずかと許しも得ずに天幕に入ってきた存在がいる。

 その場に居合わせた誰もが眉根を止せて”嫌な奴がきた”事に警戒するが一瞬で平静をよそおう。


 「悪巧みとはひどう(・・・)御座いますなぁ。既定の作戦に変更を加えねばなりませぬ故、善後策を話し合っていたのですよ。」


 「先駆さきがけを任せる筈の曹騎都尉の隊が遅参確定と相成りそうでして、な。」


 困った事だとばかり朱儁は困惑顔をして皇甫嵩と顔を見合わせる。実際の所は目の前に現れた男に迷惑を感じているのだが。


 「ほ?ほうほう、いけませんねぇ、曹騎都尉がねぇ、ちさんですかぁ。いけませんねぇ。えいゆうたる者が戦場にちさんとは。」


 男は曹操の遅参と聞いて殊更に惜しんで見せる。だが、喜色を隠し切れない。


 孫堅のピクリとこめかみに青筋が浮かんだ。


 ──味方の遅参を喜ぶとは、どれほど愚か者なのか。──


 孫堅が男に怒りをぶつけようとした瞬間、それを抑えるように皇甫嵩が言った。


 「いえいえ、本陣の先鋒に()、間に合わないというだけで、遊撃にまわってもらおうか、と検討していたのですよ。」


「なんですとぉ!?それはぁいけません!いかぁにえいゆうと言えどぉちさんした者をもちいるなどぉ、きりつにかかわりますぅ。」


 男は遅参してもなお曹操を、用いようとする将達の話を聞いた途端に激昂して反駁した。余程、曹操に含む所があるのだろう、甲高い為に語尾が響く声が更に耳障りだ。


 「そうは言われましても、”英雄”の居ない戦場では兵達の士気に関わります。決して楽に勝てる相手ではないのです。勝って、生きて帰りたいでしょう?小黄門殿。監軍であられるからは当然、無事・・に勝利を都へ報告したいのでは?そこをお含み下さい。」


 朱儁も話を皇甫嵩に合わせてくる。つい先程までの”曹操の遅参”前提の話は何処かに行ってしまった様だ。


 「ムグゥ……それはぁ……。」


 小黄門と呼ばれた男は言葉に詰まる。元々学のある人間ではない。”無事に”という言葉に命の危険を感じ取りもしたのだろう。


 「勝てるのでしょうなぁ。いやぁ、勝ってもらわねばこまりますよぉ。全くこんな危険な所くるんじゃなかったぁ!!おい!早馬はや!早馬をよべぇ!!」


 指揮官達の計画に了承をせずに恐らくは帝都へのかせるのだろう早馬を呼びに天幕から足早に飛び出していく小黄門氏


 「……まるで駄々っ子だ。聞きしに勝るものですな……宦官とは……と言うか何をしにきたんでしょう?」


 話を混乱させるだけ混乱させて去った、小さな嵐の後の静寂。孫堅は眉間を押さえて、溜息混じりに呟いた。

 皇甫嵩と朱儁は戸惑い混じりに顔を見合わせる。そして苦笑して。


 「その内に嫌でも分かるよ。君なら、ね。」


 「全く、これまでどどれほどふんだくられたことか。」


 「いや全く。今年の奉録が飛びましたよ。もう鼻血も出ませんわ。」


 「……やはり、曹騎都尉を目の敵にするのは。」


 「ふむ、隠居したとは言え、祖父の元大長秋殿の影響力はいまだだいですから。ね。」


 憚るように何事かを仄めかし。曹操の話題から、いま、という時代に対する不満、不安、願望が滝のように雑談となる。

 人という生き物は、自分ではない誰か、人、について話すのが好きなものである。

 孫堅は自らの上官・朱儁が、本来は、手柄を競う対抗者・皇甫嵩と睦まじく語らう情景を半ば呆れ、半ば感心しつつ、ふと、疑問を持った。


  ──あのもの──宦官として皇帝の左右に付き従い影響力を行使する職掌・小黄門──は、早馬で何を伝えるのだろう?──


 


 小黄門──姓名は宋典という──の送った文書は皇帝宛ではなかった。




 三日後。


 「賊軍およそ8万、此方こちらまでは一刻程いっときほど!!」


 物見にっていた兵達の急報に接し、気だるげにしていたそれまでの様子が一変した両中郎将は居並ぶ部下達に鋭い目で合図する。「け!」と。

 部下達は極一握りの副官・従卒を除き、脱兎の如く本営を飛び出していった。


 「報告通りだな。やっこさん、此処の糧秣が欲しくて堪らんようだ。」


 「さっさと片付けて波才とやらを追い詰めたいですな。」


 皇甫嵩と朱儁にとってこの戦いの主将・彭脱は、雑魚ざこに成り下がっていた。戦局の見極め、駆け引き、情報の管理、全てに於いておそれる所が無かった。


 それだけに烏合の衆を率いながら2度の大敗を喫して、未だに生き延びている波才と言う男の得体の知れなさが不気味であった。


 二人は揃って本営を出た。自らも陣頭に立つために。


 「「銅鑼どらならせ!!!」」



いらない話し、要る話。

区別が難しい……。

このエピは一見するといらない。でも、後々に係る……。

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