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混濁した音3
暗がりから悲痛な声が響いていた。
「やはり逃れられないんだ……呪われた運命からはな……」
暗くて彼の姿はよく見えないけれど、それでも分かる彼の愛おしい声。でもその声には怒りとも悲しみとも取れる響きがあって、聞いているだけの私まで胸が締め付けられる。両手で私が掴んでいるのは、彼の大きな手。でもその手が震えて、そして緊張からか冷えているのが皮膚に伝わってきて、やはりそれに胸が苦しくなる。
「やっぱりアイツらを説得するなんて、初めっから無理だったんだ……。……ティナ……お前はここから逃げるんだ。アイツらが俺に気を取られているうちに」
そう言って私の手を握る彼の手が、力の割に優しく握っていて、それだけで彼の気持ちが伝わっていた。本当に本気で……私の身を案じてくれているんだ……。
そう思ったら、私は首を振っていた。
「駄目よ、貴方も逃げるの。二人で生き延びなきゃ。私は貴方が生きる選択を選んでくれなきゃ嫌。私……必ず貴方を守る」
強い声で答える私の声は、迫りくる危険に緊張で少し震えていた。