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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第4章「謎を追う王、支える男」
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独族の町3


「まとめると……町の異変は本当に最近……二週間くらい前からってことになるね〜」

 恐らく町の広場だったのであろう場所に座り込み、私達は得た情報を整理していた。本当ならベンチや井戸、花壇などもあったのかもしれない広場は、やはり瓦礫が散乱したり穴が空いていたり踏み荒らされていたりと、ひどい有様だった。それでも残っていた壊れかけの木のベンチや石の上に腰掛けて、私達は話し合っていた。

「異変の原因は不明、しかし指示しているのは独族の王であることは間違いなさそうだな」

 ウリュウの言葉を継いでミズミが視線を地面に落としたまま続ける。従者の男は頷いてまた口を開く。

「独族王の従者はほとんどが術士みたいだけど、そいつらがいつも人を攫っていくって話だったね。見た人の話によれば、同族以外の女も連れられているのを見たって言うから、恐らく姦族から奴隷として売られた女性達も、独族王の所にいると見ていいだろうねぇ〜」

「……でも……」

と珍しく暗い声で続けるのは長身のハクライだ。

「もし独族王が喰族みたいに人を喰うなら……奴隷として売られた人達……多分生きてないと思う……残念だけど……」

 長い手足を折るようにして座り込み、暗い声で小さく話すのは、正直彼にしては珍しい。その言葉に私は思わず唇を噛むけれど、迷いなく続けたのは彼の相棒の美女だ。

「まだ助けを必要としている者がいる可能性はないわけじゃない。それにこのまま放っておいても犠牲は増えるだけだ」

 その言葉に、俯いていた男が黒髪を揺らして顔を上げた。

「……そうだね……。じゃ、やっぱりここは独族の王様に会いにいくしかないかな?」

 そう答える長身の男の表情が少しばかりいつもの調子に戻って、私はホッとした。でもそれは相棒の方もそうだったようで、険しかった表情を緩め、薄っすらと笑って頷いていた。

「とはいえ、警戒はした方がいいでしょ〜。独族王の従者は術使いだから危険だって、町の人みんな言ってたわけだし〜。それに」

と、口を挟んだ細目の男はそこまで言って、今度は珍しく真顔で主に釘を差した。

「その術士、スティラ様を一度追い詰めているわけだから。同じ術使いの女に会って、スティラ様も確信したでしょ〜? これは警戒必須ですよ?」

 その言葉に、流石のミズミも言い返さずに無言で地面を睨みつけていた。


ウリュウが言う術使いの女というのは、町で他の人々と同じ様に隠れていた一人の女性だ。町の子どもに数人出会った時、彼らから聞いたのだ。「王様の部下と同じ術者が一人、同じ様に町に隠れている。術使いはみんな危険だから、街の人は誰も近づかない」と。その話に、早速ミズミは女術士がいるという廃墟に向かったのだ。そこでその女性に出会った途端、ミズミははっと息を飲んで一瞬構えていた。その様子は、明らかに敵に対して警戒するような険しい雰囲気だった。私もミズミの後ろから噂の術使いの女性を見たけれど、この独族特有の褐色の肌をした思ったよりも小柄で若い女性だった。黒っぽい布をかぶり、その布には奇妙な文字のような刺繍が施され、裾の広いゆったりしたローブのような服を着ていた。ミズミが警戒するほど危険そうな人物には見えなかったけれど、妙に虚ろというか達観したというか、嫌に落ち着き払った瞳をしていて、それが無表情に見えて不気味ではあった。廃墟の奥で私達を見つめ返していたその女性は、意味深に呟いていた。

「……貴方も術者ね……。分かる? 私達の虚無が……」

 そのセリフを吐いて、それっきり女性は何も語らなかったのだ。私達はその後、すぐに廃墟を出たけれど、ミズミだけはずっとその廃墟の前で立ち止まり、しばらく動かなかった。そんな彼女の様子を心配した相棒のハクライが声をかけて、ようやく彼女は私達に話してくれた。ミズミとその女は同じ術使いだったからこそ、心での会話をしていたと。その時に詳しいことまでは知れなかったけれど、独族王の従者である術者のこと、そしてやはり彼らがエンリン術というミズミと同じ術を使うということがハッキリ分かったのだった。


「ミズミ、独族王に会うってなったら、今度は無茶しないで。俺も手伝う」

 ウリュウに続いてハクライからも心配するような発言を聞いて、ミズミはようやく地面から視線を上げ、私達を見て一つ頷いた。

「……手強い相手なのは間違いないだろうからな……。俺も自分を過信する気はない。いざとなればお前達の協力は欲しい。その時は頼む」

 ミズミにしては珍しく素直な態度に、ハクライもウリュウも微笑んで頷いていた。

「うん、勿論そのつもり」

「しょうがないなぁ〜、スティラ様〜……っていう冗談はこのくらいにして、本当に無茶は禁物ですよ?」

 二人のセリフにミズミはまた口の端を歪めて笑うけれど、その表情は意地悪さよりも柔らかさと意志の強さがにじみ出ていて、それが彼女の感謝の気持ちの表れのように見えた。

「……じゃあ、やっぱり独族の王様のところに向かうのね」

 私が口を挟むと、ミズミはその瞳に紫色の鋭い光を宿しながら、立ち上がって答えた。

「ああ、向かう他ないだろうな。それに、道中きっと例の術者に出くわす筈だ。敵の強さを知るには丁度いい。ハクライ、ウリュウ、それにティナ。気をつけて行くぞ」

 そう言ってすぐに歩きだす美女の後ろ姿に、ハクライもウリュウも立ち上がり、私も彼女の後を追って走り出していた。



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