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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第3章 偽れる王、救出の女
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束の間の休息4


「ただいまー」

 オアシスの夜の街を出回っていた男性二人が部屋に戻ると、私は入り口で二人を待ち構えて微笑んで見せた。

「あれ、ティナちゃん、お出迎え〜?」

 それに気が付いて首を傾げる細身の男に、私はわざと部屋の奥に進まぜずにその場で留まらせて口を開いた。

「おかえりなさい。さあ、ここで問題です。今からお見せする人は誰でしょう?」

 その言葉にウリュウはニヤリと微笑み口を開いた。

「ははーん、スティラ様、何かしたのかな〜?」

「え、だれかお客さんがいるの?」

 一方のハクライは本気でそんなおとぼけな返事だ。私はもったいぶるようにして大げさに踵を返し、部屋の奥に二人を案内した。

「さ、これほどの美女とは初対面かな?」

と、部屋の中に男二人を連れてくれば、そんな二人に呆れるように視線を横目で向けている茶髪の美女の姿がある。でもその姿は今までの彼女とは全く違う。茶髪の髪を飾るように頭にかけられたガラス細工の飾り紐、そして白いドレスを身にまとい、その細くしなやかな体のラインを強調するドレスの紐飾り。表情こそは呆れているけれど、それでも部屋に立つ彼女の姿は、我ながら流石美しく仕上がったという他なかった。

 そう、ミズミをこれだけドレスアップさせたのは勿論私だ。ミズミが私に着るよう促していたあのドレスを、逆に彼女に着せてみたのだ。初めは嫌がったミズミだったけれど、私が強族の城で落とし穴に落ちた事を引き合いに出して、なんとかここまでたどり着いたのだ。

「うわ〜、コレ、本当にスティラ様?」

「…………え、ミズミ⁉」

 本気で男性陣二人が驚いていて、私はその言葉に誇らしい気持ちになっていた。よかった、やっぱり彼女の綺麗さは女性らしい格好をさせればより輝く。こんなミズミになら、色んな男の人が言い寄ってきても、当然仕方ないと言えるだろう。

「どう? 私が着替えさせてみたんだけど、流石ミズミ、すっごく綺麗でしょ?」

 私の言葉にウリュウはニヤニヤと楽しげに笑って、わざとらしくあごをさすっていた。

「いやぁ〜、まさかここまで変わるとは〜。いつもの凶暴で強引で恐ろしい面影は一つもないねぇ〜」

「メイカ……今ここでお前の言った姿を晒してもいいんだぞ」

 やはりたちまち怖い声色で怖いことをいう美女に、従者の男は後じさりながら手をパタパタしていた。

「ヤダなぁ、褒め言葉ですよ〜」

「でもミズミ、どうしたの? こんな綺麗な格好初めてみた」

 切れ長の瞳を丸くして、喜ぶよりは何処か驚いたふうな相棒に、茶髪の美女はぶっきらぼうに答えた。

「ティナに聞け、俺はコイツに勝手に着替えさせられただけだ」

「いいじゃない、ミズミ、普通にしていてもすごく美人だけど、改めておめかししたらやっぱりめちゃくちゃ綺麗!ってことを証明したかったの! ほら、狙い通りじゃない」

 興奮で声が大きくなる私とは裏腹、低い声でミズミはため息交じりに答えた。

「……俺は狙ってない」

「でも、そう考えると、このドレス贈ってくれたあのお兄さん、やっぱりミズミが似合うことまで分かって贈ってくれたのね。ちょっと感謝してもいいくらいじゃない」

と,私が続けた言葉に、途端男性二人が食いついた。

「へぇ〜、スティラ様にドレスを贈ってきた男性、ですかぁ〜。なんだか愛を感じますねぇ〜」

などと軽口を叩くのは勿論あのウリュウだ。即座にミズミが目を細めて苛立ちげに返す。

「メイカ……その言い方気に食わん」

「ミズミ……その男、一体誰?」

 一方の黒髪の男は、何だか急に怖い声色でミズミに問いかけていた。急なその変わりようには、流石に問われた方も驚いたのか、ようやく細めた瞳を大きくして瞬きしていた。

「……ハクライ……? ……なんかお前……怒ってんのか……?」

「その男、何処の誰?」

「い、いや……別にお前に関係ないだろ」

「なくない」

 なんだか急に険悪な空気でミズミに詰め寄る長身の男に、私は呆気にとられて二人を見ていた。もしかして……あの様子だと、ハクライ……ヤキモチしてる……?

「ありゃりゃ〜、これはハクライの機嫌損ねましたねぇ〜」

 ニヤニヤとまたしても楽しそうな従者の目の前で、男女二人の言い合いは続いていた。

「なんでそんなドレス贈られたの?」

「俺が知るか」

「いつ何処でその男、知り合ったの?」

「いつって……結構前になるが……」

「俺より前、俺より後?」

「……何だその基準……」

 そんな二人のやり取りを見ながら、私とウリュウはニヤニヤと口元が緩むのを必死に抑えていた。

 こんな平和な夜は本当に久しぶりだ。またこんな日々が続くのなら、記憶探しの旅も、悪いものじゃないなぁ……なんて思いながら、私は今この瞬間を目一杯楽しもうと思っていた。



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