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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第3章 偽れる王、救出の女
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束の間の休息2


「やあ、あの時の美人なお姉さん」

 その呼びかけにミズミは口の端を歪めて笑い返していた。

「あの時は世話になった。感謝する。鬼族の行商人さん」

「あれ、ミズミ。この人知り合いなの?」

 問いかければ茶髪の美女は私に振り向き小声で答える。

「ああ、あの女達を助け出す際に、このオアシスまで運んでくれた恩人さ。なかなか危険な仕事だったが……その分の礼もする、と伝えていたからな」

 彼女のその言葉に、行商人のお兄さんは頬杖つくようにして笑っていた。

「へへ、いいって、美人さん。こうやって優秀な働き手を得られたのは、正直お礼として十分さ。それに何より、またお姉さんに会えたのも嬉しいしね」

 そう言ってにかっと笑う商人にミズミが薄っすらと微笑んで返していた。

「世辞がうまいな、変わらず」

「お世辞じゃないって」

「だが、ちゃんと礼の品は持ってきた。俺達が扱うには難しいが、きっと行商人さんなら、良い商売道具になると思ってな」

 ミズミはそう言って、背後に居た従者に声をかけていた。

「メイカ、例の転送魔法で物を飛ばしてくれ」

「成程ね、仕事の一つ目がこれね〜。はいはーい、行商人さん、キミんちの倉庫何処? そこに送ってあげるよ〜」

「ん? 転送魔法なんて使える人がいるのか。すごいな。こっちだ」

 そんなやりとりをしている二人を見て、私はミズミに耳打ちするように尋ねていた。

「なあに、何をお礼として渡すの?」

 するとミズミは意地悪な笑みを一つ浮かべて小声で答えた。

「あの奴隷商人が集めていた品さ。主を潰した今なら、アイツの資産はいくらでも奪い放題だ。必要な品は必要とするものに返したり、与えたりすればいいと思ってな」

 その言葉に私も思わず笑っていた。

「ふふ、人のもの勝手に取っちゃ駄目だけど、あれだけ酷い人なら、されても仕方ないわよね」

 そう思ってクスクス笑う私に、ミズミは更に悪どい顔をして口の端を歪めていた。

「俺はこの闇族の王だぞ。王の命令は絶対だ、そうだろう?」

 なんて彼女は言うけれど、それが本当の本心でないことを私はよく知っている。彼女は闇族王という権威はあるけれど、それを私利私欲のために利用している節はない。寧ろ王という権威を隠して、自分の実力で全てねじ伏せて、虐げられている人を助けている。そんな自分の善行を偉そうに言うのではなく、わざと悪ぶって言っている彼女に、好感と少しばかりの可笑しさを覚えて、私は肩を震わせていた。

「でも、一体何をあげたの?」

 再び問いかければ、闇族王は穏やかな表情に変わってあごでウリュウを指していた。

「気になるならティナも見てみたらいい。女なら喜ぶ品だと思うぞ」

 その言葉に素直に気になってウリュウの後を追う。行商人の倉庫は簡易的なテントだったけれど、そのテントの床に書かれた魔法陣から、次々何かをウリュウが引っ張り出していて、私はそれに手を伸ばしていた。引っ張ればそれは布、そしてそれを広げてみれば、それは刺繍が施されたり、輝くガラスのようなものがつけられていたりと、どれもがきらびやかな綺麗な衣装だった。

「わあ、素敵……! こんな綺麗な服も、闇族の大陸にあるのね!」

「祝の席で着るドレスだったり、踊る時の衣装だったり、いろいろだな。どちらにせよ女も喜ぶ品だ。これらをお礼として受け取ってくれるか?」

私の背後に現れてそう言う美女に、行商人は嬉しそうに頷いていた。

「いいんですか? これをタダで?」

「それくらいの働きをしてくれただろ。遅くなったが、あの時の礼だ。本当に感謝している」

 ミズミはそう言って頭を垂れると、行商人のお兄さんは少しばかり恥ずかしそうに頭をかいていた。


その日の夜は、このオアシスの町で平和な時間を過ごしていた。一緒に奴隷商人の館から町に来たあの女性を、無事転送魔法で故郷に帰した後、私達は町の宿に一泊することとなった。ハクライが探してくれた宿は、ミズミが助けた女の子たちが働く宿屋だったため、彼女たちがお礼にと、あのきらびやかなドレスを着てもてなしてくれたのには驚いた。彼女たちが美しく踊る姿を見ながら、私達は食事を摂らせてもらった。久しぶりのみずみずしい果物にお野菜、時々じゃりじゃりいうパンはいまいち美味しくなかったけれど、それ以外は美味しい夕食で、私は久しぶりにホッとしていた。

「たまには、こういう優雅な夕食もいいですねぇ」

そう言うウリュウは既に三回目のおかわりをしていて、凄まじい食欲だ。

「踊ってる女の子たちも綺麗だし、こんな平和に食事が取れるなんて、私も嬉しい」

立て続けに私が言えば、向かい側の長髪の男が頷いている。

「うん、いい食事だね」

「……そういうお前は、踊りなんて見てないだろ」

思わずツッコミを入れるのは私の隣に座るミズミだ。彼女の言葉に、ハクライはようやく顔を上げ、口周りを一なめた。

「踊り……? あ、ホントだー。すごいね」

「ええっ⁉ ハクライ今気が付いたの?」

「ハクは食うことばかりに集中するから、まあ仕方ないがな……」

「ハクライは食いすぎですよぉ」

「お前もな、メイカ」

 そんなやり取りが出来るのが本当に嬉しくて、奴隷として運ばれていたあの心細かった時間を忘れるように、今の空気をこの時間を私は目一杯意識していた。きっと、今こうして踊る彼女たちがあんなに生き生きしているのは、あの苦しさをあの辛さを知っているからだ。今この瞬間、笑えるこの今が、どれだけ幸せなことか、知っているからなんじゃないかって私には思えた。そんな事を考えながら、私はこの平和な時間を噛みしめるようにジャリジャリパンを噛んだ。

「……ふふ、このパンが砂入りでなければ、完璧だったのになぁ」

 思わず漏れる愚痴に、細目の男が更に目を細めて頷いていた。

「ホント〜」

「確かにな」

「俺、気にしない」

「そりゃお前はな」

 相変わらずハクライにミズミはツッコミ返して、そのやり取りを見て私は笑っていた。



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