囚われの美女、救出3
それからは、ミズミやハクライよりもウリュウの方が忙しかった。屋敷の中にいたあの奴隷商人の使用人などをハクライが一掃して、ミズミはウリュウに何かを命令していたようだった。その命令の後、細身の男はせわしなくあちこち走り回って何か魔法を使っていたようだったのだけれど、ミズミはそんな従者に屋敷の中は任せっきりで、自分は助けたあの女性につきっきりだった。館の中の客間のような場所に移動して、ミズミはそこにあの女性を座らせて話をずっと聞いているようだった。そんな二人の様子を、私は部屋の入口付近でただ見守り続けていた。
「そうか、故郷はあの大木の町か……。俺も一度行っている。帰る手段はこちらで準備しよう。安心しろ、あの強族どもは懲らしめておいた。そう簡単に奴隷狩りはできんだろう」
不安で泣き続ける女性に、ミズミは優しくも力強い言葉をかけていて、そばで聞いている私ですら、安心して頼りたくなる、そんな雰囲気だった。
「ミズミ……っと、まだ慰め中だったか」
部屋に入ってきた長髪の男は、相棒に声をかけようとしてすぐにその声を小さくし歩みを止めた。そんな彼を椅子に座った状態から見上げれば、目のあった男はわずかに微笑んで見せた。
「ミズミって、やっぱり優しい人なのね」
彼女の様子をずっと見ていた私が感想のように男に言えば、彼はその穏やかな表情のまま頷いていた。
「うん、特に女の人にはすごく優しい。きっとお家に送るよって話してるんでしょ?」
「正解。でもあの雪国まで行くとしたら、ちょっと時間かかりそうね」
素朴な疑問を口にすれば、黒髪の男はにかっと笑って答えた。
「そこは大丈夫。今はメイカが居るから、転送魔法ですぐ行ける」
「へぇ、ウリュウってそんなすごい術使いなんだ?」
素直に驚いてそんな言葉が口を付けば、いつの間に後ろにいたのか話題の男が答えた。
「そりゃあね〜、こう見えてボクの一族は優秀ですから〜」
「メイカ、仕事終わったの?」
黒髪の男の問いかけに、細目の男はさも当たり前のように腕を組んで頷く。
「あれくらい、ボクにかかれば朝飯前でしょ〜」
「揃ったな」
今度は部屋の中から、茶髪の美女が私達の方に歩み寄ってきていた。
「メイカもハクライも居るということは、仕事は完了だな。早速だが、次の目的地に急ぎたい。外の砂トカゲで移動するぞ」
その言葉には私達全員が目を点にしていたに違いない。
「え、ミズミ。まだ行く所あるの?」
「意外。これで終わりかと俺も思ってたのに」
「もう仕事は嫌ですよぉ〜。ボクだってそろそろ休みたい〜」
思い思いのことをいう私達に、ミズミは目を細めて意地悪に微笑んで見せた。
「安心しろ、次の場所は仕事じゃない。いうなれば……ちょっとした休息さ」
その言葉に、私達はやはり意味が分からず顔を見合わせているのだった。