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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第3章 偽れる王、救出の女
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侵入1



 目的の街にり着き、一人の女と二人の男は薄汚れた布をかぶったまま街の中を歩いていた。

 時刻はまだ早朝。街の中も人はあまり歩いておらず、街で商売を営む姦族が何人か、店の準備をしようとしているところだった。砂漠地帯の小さなオアシスと隣接するこの街は、街の中心に奴隷商人の巨大な屋敷があり、その屋敷の周辺に様々な店が作られていた。しかし姦族の街だけあって、どの店も性に関するものが多い印象だ。そのためか早朝に動いている店も人も少ない。繁華街の通路脇では、惰族と思しき女がほぼ半裸の状態で転がるようにして眠っていた。

「ここまで遠慮なく性風俗ばっかりだと、逆に清々しいくらいですねぇ」

 街の様子を眺めながら、呆れるように目を細めているのはメイカだ。

「酒場は勿論、妓楼みたいなものありますねぇ……。こっちはそういう方面のお薬のお店かな〜」

などと、冷ややかな視線で店を見ている男の隣では、長身の男が首を傾げてばかりだ。

「やたら女の人が道で寝てるね。気持ちよさそうに寝てるからいいけど……」

「惰族は姦族とは相性がいいからな……。彼女らがそれでいいならいいだろ」

 暗い声色で返事をする女に、黒髪を揺らして長身の男は足を速めて隣に並ぶ。

「怒ってるの、ミズミ?」

「……姦族にはな……。この町で働かされている女は、全員が納得の上ではないだろう……。惰族はさておき……辛い目に遭っている女たちは、できれば助けたい」

 小さく呟く女に、長髪の男は同じく声量を落として答えた。

「ティナ助けた後、ここにまた来る? 力業でいいなら俺もやるよ?」

 その申し出に女は静かに微笑んだ。

「……奴隷商人を潰せば、ここでの商売は成り立たなくなる。そうすれば鬼族辺りの商人と一部の姦族と惰族でなんとか平和にはやれるようになるだろ。ハク、気持ちだけで十分だ」

 その言葉に、女を覗き込むようにして男も笑顔を見せた。

「さてと……例の倉庫を探すか……」

 三人は乾いた朝の街を静かに通り過ぎていった。


 目的の倉庫はすぐ見つかった。奴隷商人の大きな屋敷は探さなくても分かるくらい、町の中心にあって目立つ。探していた倉庫は奴隷商人の屋敷に隣接しており、その上近くには大きな岩石が倉庫の壁のようにせり立っていた。岩が日陰を作り、倉庫のようにものを保管するには丁度いい立地のようだった。白いレンガと切り取った岩を積み上げたような倉庫は、建物としても非常に大きく、近くに店も構えられていた。恐らくその店の倉庫なのだろう。朝だと言うのに見張りの男までつけて、倉庫は厳重に守られているようだった。そんな倉庫を、岩陰から三人は見ていた。

「見張りをわざわざ置くなんて、倉庫には貴重品でも入ってるんですかねぇ」

 見張りに気付いて肩を落とす従者に、主の女は冷徹に吐き捨てる。

「恐らく酒……それと薬だろ。姦族にとっては金より食い気より色気だ」

「俺、食い物だったら確かに漁るかも」

「そりゃあ、お前はな」

と、相棒に一つツッコミをいれ、女は辺りを見回した。倉庫の見張りはその男一人のようで、他には人の気配はなかった。

「さてと……早速女である武器を使わせてもらうか」

 頭まですっぽりかぶった布をわざと乱すように崩し、ぽつり女は呟いた。

「え、ミズミ……またその姿、男に晒すの?」

 不機嫌丸出しで唇を尖らせるのは相棒の男だが、その言葉には茶髪の女は不機嫌に一瞥くれるだけで答えない。

「スティラ様、どんな手段を使うの?」

 主の女の言葉に興味津々で従者が問えば、冷笑を浮かべるくらいにしてミズミは答えた。

「見張りに鍵を開けさせる。中に入ったらお前達も続いてくれ」

 言うが早いが自分の薄着を布で軽く隠して、フラフラとわざと疲労したような歩みで倉庫の方へと歩いていった。ボロ布の隙間から、女の白い肌が覗き見える。白い足、かぶった布がはだけて見え隠れする首から肩のライン、それだけでも十分男の気を引く姿だ。

 倉庫の見張りが反応したのはすぐだった。フラフラと歩み寄る白い肌の女に、即座に反応して舌なめずりしていた。

「どうした女、随分フラフラじゃないか」

 言いながら既に女に歩み寄ってきた男は、わざとらしく女を気遣うように体に触れてくる。男が肩を抱くようにして女の顔を覗き込むと、茶髪の隙間から緑色の瞳を細めるようにして男を見上げてきた。その顔の美しさと表情の艶めかしさに、男の方は既に興奮気味に目を光らせている。

「……主から……逃げてきた……ところで……。匿って……」

 わざと息を上げ、切れ切れにか細い声で話すその声色だけでも艶めかしい。そんな女の様子に男はニタリと笑い、女の背中を押すようにして倉庫の方へ歩き出した。

「おお、おお、いいぜ。この倉庫の中なら誰も入れない。さあおいで」

 見張りの男は、そのまま自分の持っていた鍵で倉庫を開けると、その薄暗い中へ女を誘い込む。そして自分も倉庫の中に入り、薄暗い倉庫の中で扉を閉めて鍵をかけていた。

「……さあ、ここなら追手もこれないぜ。どうだ、これで安心だろ?」

 言いながら女の肩に手を置き、見張りの男は抱き寄せるようにして体を寄せてくる。

「匿った分のお礼は、期待していいんだよなぁ?」

 耳元で鼻息荒く尋ねる男に、女はそのボロ布から頭を出して横顔を向けた。

 絹糸のようなサラサラとなびく髪、色白の肌に、垂れ気味で色気のある瞳、艶っぽい唇、男を誘惑するような美しい横顔だったが、女は冷たく微笑んで男を下から睨むように見上げていた。

「……勿論。お礼にここで眠らせてやる」

 見た目の美しさからは想像もつかないような怖い声色で女が答えた直後、鈍い音が一発、男の体に響いていた。


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