囚われた奴隷2
「ここが地下室?」
私が問いかければ、ミズミは振り向きもせず答えた。
「恐らくな。見張りもいるだろう。ハクライ、頼んでいいか」
「いいよ。瞬殺得意」
と、ミズミに答えた途端、ハクライはミズミの前を歩きだし、ふと一瞬だけ立ち止まると――音も立てずに駆け出し、あっという間に暗がりにその姿を消してしまった。私が驚いている間に、次の瞬間、鈍い音とともにドサリと何かが倒れる音が二回聞こえた。
「……二人か。少なかったな」
ミズミが表情一つ変えずに呟く様子に、私は顔を覗き込むように尋ねた。
「二人って……見張りの数?」
「そうだ。ハクライ、即座に仕留めたようだな」
ミズミの言葉が終わると同時に、私達は階段を降りきっていた。地下は日の光も届かないから、壁につけられた松明の炎がゆらゆらと赤く地下室を照らしていた。その光に揺らめく長い影に気がついて視線を送れば、立っている長い影は案の定ハクライ。そしてその足元には、真っ赤に床を濡らして崩れている二体の亡骸があった。どうやら本当にハクライが瞬殺したようだ。
「見張りこいつらだけみたい」
「そうか。牢屋はここだな」
そう言って足元の死体を全く気にすることなく、ミズミはハクライに歩み寄る。私も足元の血の池を踏まないようにそっとハクライの方向へ歩み寄る。ようやく二つの亡骸を通り過ぎれば、ザワザワと人の声がかすかに聞こえた。視線を上げれば、茶髪の美女と男が鉄格子の方へ視線を向け、話しかけている様子が見えた。
「お前たちは……この強族共に捕まった女だな?」
ミズミの問いかけに、怯えるように身を寄せ合う女の人達が探るような視線を向けていた。怯えてなかなか声が出ない中、ようやく一人の女性が頷いて声を上げた。
「無理矢理……ここに連れて来られたの……。奴隷として売るのだと……」
その言葉に、ミズミは目を細め険しい表情を浮かべたが、それも一瞬。すぐに真剣な眼差しに戻ると、牢の女性たちに優しい声色で話しかけていた。
「心配するな。俺たちはお前たちをここから出すために来た。この牢は鍵があるな。鍵は誰が持っている?」
その言葉に、一気に牢屋の中の空気が変わる。少しだけ安堵したような表情を誰しもが浮かべ、まだ身を寄せ合ってはいたが、ミズミに彼女たちは少し近づいた。
「鍵は、この城の長、トッファという強族が持っています。時折、自分の食い物にするために私達から数人、自室につれて行くので……」
その言葉に、ミズミの表情がまたも険しくなるのを横目で見て、ハクライはため息を付いていた。
「流石、強欲な民だね。自分が楽しんでから売ろうってわけだ」
「……その強欲を満たせるのもここまでさ。もうしばらくの辛抱だ。また来る」
ミズミがそう伝えると、折角助けに来た人物が離れるのが怖いのだろう。不安げに手を伸ばす一人の女性がいた。ミズミはそれに気がつくと、その女性の手をそっと握り、優しく頷いてみせた。
「心配するな。必ず助ける」
その力強くも優しい雰囲気は、見ていて惚れ惚れするほどかっこよかった。恐らくミズミが女性であることに全く気がついていないであろう女性たちも、それは同じだったようで、ミズミのその仕草とセリフに、彼女たちが思わず瞳を潤ませていた。