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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第2章 戦う女、相棒の男
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雪国の集落3


 その日の夜、私達はその女の子の家に泊めてもらった。大木の中は、昼間のあの寒さからは想像つかないような暖かさだ。部屋の中心でまだいろりは静かに炎を保っていた。そのか弱い炎の光を浴びながら、私は、ミズミの隣で長い上着とボロ布をかぶって横になっていた。

「ちょっと意外だったな。ミズミのことだから、もうすぐにでも出発しちゃうのかと思ってた」

 小声で話しかければ、寝る準備を終えたミズミがチラと私を盗み見る。

「急ぐ必要はない。まだ今日は『金』の頃だからな」

「キンノコロ……?」

 意味が分からず問いかければ、ミズミは私の方を向いて囁くように言った。

「暦さ。日、水、金、地、火、木、土、とあってな。今日はまだ金の頃。奴隷の輸送船は地の頃に強族の土地に寄り、翌日の火の頃に出向する。そこまでは調査済みのことだからな。慌てずとも、アイツの母親を助け出せる可能性は高い」

「奴隷の輸送船……。ミズミ、そんなの調べてたの……? いつの間に……」

 驚く私を他所に、ミズミは目を閉じてすまし顔だ。

「俺は以前から奴隷商人を追ってたんだよ。その時に北の収穫地についても調べていてな。この雪国での強族の奴隷狩りが、まさにそれだったというわけさ」

 その言葉に、私は色々なことが腑に落ちた。ミズミは私と出会った時、俺には前からやるべきことがある、と言っていた。それがこの奴隷狩りのことだったんだ。それならやたらと詳しいのも頷ける。

「そういうことだったのね……。じゃ、じゃあ、明日奴隷狩りにあった人を助けに行けば、まだ間に合うってことね!」

「ああ、強族の城は、山から行けばそう遠くないと、あの夫婦も言ってたろ。明日、早朝に動く」

 その言葉に私は小さくうんと答え、大きく頷いた。でも疑問が一つ解けると、次の疑問が思わず口をつく。

「ところでミズミ、一つ気になってたんだけど、ホントにこの辺り支配下に治めるつもりだったの? 闇族の王様だったら、この国全部支配下にあるんじゃないの?」

 昼間の老夫婦との会話が気になって問えば、ミズミは素っ気なくああ、と続けた。

「口実だ。ああ言えば老夫婦も協力的になるだろ。実際強族を追い払えば、鬼族が商売を広げにやってくるだろう。鬼族は俺に最も協力的な四大種族だ。奴らに任せておけば一番平和だからな」

「そういうものなの……。てっきりミズミが命令すれば、王様の命令でしょ。みんな言うこと聞くのかと思ってた」

 素直に感想を述べれば、ミズミはもう瞼を閉じて口の端を歪めた。

「俺はただ、この国で一番強かっただけだ。だから王の証を手に入れることができた。ただそれだけだ。俺を恐れていうことを聞くヤツも居るが、強欲な民はそうでもない。俺を殺して、王の証を手に入れようと考えているヤツなんざ、ごまんと居るさ」

 闇族の王になるとはどういうことなのか、それを初めて知って私は改めて驚いていた。確かにミズミは強い。この細い体で、こんな綺麗な女性で、あんなに強いんだもの。ギャップがだいぶ凄いけど、この闇族の中で一番強いっていうのも、あの戦いぶりを見ていれば頷けるな……。

 そう思って無言でいれば、いろりの薪がパチパチ音がする以外、後はみんなの寝息が聞こえてくるばかり。ミズミの隣でハクライも丸くなって眠っている。それだけなら、どれだけ平和な沈黙だろう。でもいろりを挟んで反対側からは、鼻をすするような音がして、悲しげな嗚咽が時折響いていた。

「……お母さん……」

 女の子の悲しげな呟きが聞こえて、私は思わず唇を噛んだ。

「ホント……なんて酷いことを……」

 私の呟きに、ミズミは薄っすらと瞼を開けて、呟くように言った。

「奴らに人の痛みに共感する力などない。あるのはただ己の欲望だけ。容赦なく戦わなければ、こちらが殺されるからな。……ティナ、お前はここで待っていても」

「いいわけ無いでしょ。私も一緒に行く」

 ミズミの言葉を勢いよく遮って私が言うと、思ったとおり、ミズミはため息を付いた。でも私の返しは想定内だったようで、それ以上反対することもなく、彼女はボロ布をかぶって横を向いた。そのまま無言かと思いきや、ミズミは私に背を向けたまま言った。

「戦いは覚悟しておけ。回復は任せる」

 その言葉は、今までにないセリフだった。ミズミ、私を戦力として認めてくれた……!

「勿論、任せといて! ミズミもハクライも万全に戦えるよう、サポートするんだから!」

 思わず声に力が入る私に、ミズミは笑ったような声が漏れた。尤も、顔は見えないけれど……。

「早く寝ろ、ティナ。寝坊したら置いてくからな」

 その言葉に、私は思わず口元がにやけていた。そんなこと言ったって、ミズミ、ホントはそんな冷たいことしないんだ。ミズミはそういう人だ。彼女が背を向けているのをいいことに、私が思わずにやけた口元を押さえていると……

「何笑ってやがる」

「笑ってないってば」

 声も出していないのに、何故かミズミには見抜かれるのだった。






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