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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第2章 戦う女、相棒の男
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雪国の集落1



 長い雪道を進んで、二、三時間はたっただろうか。ミズミが言ったとおり、雪の森の中に唐突に集落は現れた。森を切り開いて開拓したような小さな集落で、その集落のすぐ隣には小さな川が流れ、雪を避けるように所々植物が育っていた。見れば小さな畑だ。人が住むような小屋はなく、どちらかといえば農作業に使う道具をしまうような、そんな簡易な小屋ばかり。ぱっと見た感じ、家はなさそうだったけれど……

「大木の家、だな……」

 木を見上げるようにしてミズミが言う。その言葉に、私は集落の中の木々を見た。どの木もとても大きくて、樹齢数百年はありそうなものばかり。それが十本に満たないほど生えているのだけれど、よく見るとその木の真ん中辺りに大きな穴が空いている。

「ああ、あの大木の中に部屋を作って住んでるんだね。すげー」

 ハクライの言葉に私もようやく腑に落ちる。確かに目を凝らせば、大木の真ん中にあるのは大木の皮をくり抜いて作った扉、そして窓だ。

「あんな高さにあったら、扉があっても入れないと思うんだけど……」

 私がそう言うと、ミズミは思いがけず笑った。

「だからいいんじゃないか。あの高さなら安易に敵も手を出せない。あの大木を壊すのも骨が折れるし、焼こうにもこの辺りは雪でそうもいかない。生きるための知恵だな。こんな場所に集落を作れるのは稀だぞ」

 その言葉に私は感心すると同時に、胸が締め付けられた。そうだ、ここでは生きていくだけでも大変なんだ。雪道の途中で出会った強族のように、弱者は強者に襲われ奪われ喰われる。だからこそ、生きていく上でこういった生活の知恵が必要なんだ。

 きっとそんな私の気持ちが顔に表れていたのだろう。ミズミはぽんと私の肩を優しく叩き、あごでその大木の家を指した。

「心配するな、この集落は比較的平和そうだぞ。ほら、人が出てきた」

 ミズミに言われ目線を向ければ、一つの大木の家の扉が開いた。そしてしゅるしゅると紐で作られたはしごが降りてくると、それを伝って降りてくる人物に気がついた。ふかふかの毛皮を身にまとった、手足の短いその人物は……

「おかあさーん!」

 叫びながら私達に近づいて来たのは、年端もいかない小さな女の子だった。女の子は懸命に走って来たが、道の途中で気がついたのだろう。私の顔を見て、明らかにはっと動揺した表情を見せた。

「あっ…………お母さんじゃ……ない……」

 道の途中で立ち止まってしまった女の子に、ハクライがしゃがみこんでにかっと笑って見せた。一瞬、警戒して硬直した女の子だったが、彼の無邪気な笑顔に安心したのか、逃げ出さずにぺこりとお辞儀して見せた。

「お前の母親じゃなくて、すまなかったな。安心しろ、俺たちは強族じゃない。隣の領国、鬼族の土地から来たものだ」

 そう言って、ミズミはハクライにあごで何かを指図したようだった。ハクライはそれに気がついて、自分の瞳を指さして少女に見せた。すると女の子は恐る恐るハクライに近づいて、しゃがみこんだハクライに顔を寄せ、その瞳を覗き込んでいた。

「ホントだ、お目々が鬼の目……。怖い奴らじゃないんだね」

 そこでようやく女の子は笑顔を見せてくれた。それを確認して、ミズミは薄っすらと微笑んで見せた。今まで見たことのない表情に、思わず私は瞬きしていたに違いない。だってあのミズミが優しく微笑んでいたんだもの。ホントに美人なあの表情で微笑む顔は、同性の私が見ても思わず目を惹く。ミズミでもこんな顔するんだな……なんて、そんなことに感心してしまう。

「お前の母親のことや、この辺りの強族について聞かせてくれないか? もしかしたらだが、俺たちでお前の母親を助けられるかもしれんぞ」

 その言葉に、少女が興奮気味に目を大きくしていた。



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