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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第2章 戦う女、相棒の男
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生き様1



 視界を真っ白にしていた光が消えると、たちまち凄まじい冷気が体中にしみる。周りを見回せば、何処かの小さな小屋の中にいるようだ。丸太をつなぎ合わせた簡易な小屋は、隙間風が酷い。丸太と丸太の間からは外が見える。どうにも真っ白な景色が広がっているようだけど……。

「凄い寒さだね、流石雪国」

 この中では一番薄着のハクライが、マントの中で腕を組む。服は多少鬼族のお城でもらってきたけど、ハクライってば袖なし服の上に、厚手の長袖を一枚もらったくらいで、さほど厚着をしなかったんだもの、寒いのも無理はない。ミズミはといえば、皮の鎧の上にまとった黒いマントをさっと前で閉じただけで、寒がる様子もない。服装的には、鎧の下に硬い布の服を二枚は来ているように見えるから、ハクライよりは多少暖かそうではあるけれど。私は多めにもらってきていた上着を引っ張り出して、上に羽織る。前は閉じられないけど、長さもある分足元までちょっとは暖かい。

「無事飛んだようだが、目的地までは距離がある。近くの集落に寄ろう」

 小屋の扉を開けるなりミズミはそう言った。小屋を出れば一面銀世界。木々が生い茂る森ではあるようだが、どの木々も真っ白に雪化粧して、寒々しい。見渡しても人影はおろか動物すら見えない。まさに雪国という名にふさわしい光景だ。美しいけれど、やはり寒さはこたえる。思わず身震いする私に、ミズミは低い声を発した。

「お前は俺の後ろについてくることだけに集中しろ。遅れないようにしろよ」

 言うが早いが、膝丈はあろう雪道を迷いなくザクザク進み出す。慌てて私が追うと、ハクライもあの長い脚でひょいひょい進んでいってしまう。

 た、確かに……追いかけることに集中してないと、あっという間に置いてかれる……!

「やたら急ぐね、ミズミ」

 私の前ではハクライとミズミが会話を始めていた。

「ああ、既に強族の縄張りだ。この山道までは心配ないだろうが、しばらくすればすぐに奴らに出くわす。足止めを避けるためにも、急いだ方がいい」

「出てくるとしたら、強族だけ?」

「いや……魔物の気配がある。悪霊型に近い。お前や、今の俺では骨が折れる」

「ああ、物理攻撃に強いタイプね」

「そいつらに狙われる前に、陰の気が弱い集落に移動しよう」

 二人の会話に私は成程、と思った。やたら急ぐのにはワケがあったのね。

 本当は悪霊型の魔物はどんなのか、とか、陰の気ってなんだろう、と疑問はあったし、そもそもどうしてミズミはそんな気配をすぐに感じ取れるのか、とか不思議に思ったけど、会話に混ざる余裕が私にはなかった。足早に進む二人に追いつくだけで、息が切れ切れなんだもの。

 そんな調子で小一時間もたっただろうか。木々を抜け、ようやく道らしき場所に出た。道と言っても雪が積もっていてはっきりとは見えないけれど、人々が歩いたような跡があった。よく見れば轍もある。雪道を手押し車でも押していったのかしら。

「これで集落までは近いな」

 それを確認して、ミズミはマントの雪を払う。続けてハクライも足をバサバサと振っていた。

「と、なると、後は強族に気をつけるくらいかな?」

「ああ」

 そんな二人の会話を聞きながら、私は道に出て乱れた呼吸を整えていた。二人に追いつくために結構急ぎ足だったから、もはや体が暑いほど。汗もじとっと出ているくらいだ。

「大丈夫か、ティナ。もう息が上がってるじゃないか」

 見かねてミズミが声を掛ける。

「だ、大丈夫……。でも、二人とも速いー……」

「仕方ないだろ。ゆっくりしてたら日が暮れる。雪山で野宿は間違いなく死ぬぞ」

 その時だった。

「……ミズミ」

 急にハクライの声がして、思わず私は顔を上げた。今までにない怖い声、私の知るハクライとは雰囲気が違う。

「早いな、奴ら」

 ミズミはため息一つ挟んで彼の方向を見た。白い雪道に出てきたのは私達だけではなかった。私達が山を降りてきたのとは逆に、山を登り、道に出てきたのは、二つの人影だった。あのやたらと長い手足には見覚えがある。

「も、もしかして、強族……?」

「ティナは下がっていろ」

 私の問には答えずに、ミズミは私の前に立ち、そう制した。


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