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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第2章 戦う女、相棒の男
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本当の性別2


「どうしてミズミはこの国の王様をしているの? それに、もしかして……女だってこと、隠してる……よね?」

 黒髪が揺れて、ハクライは無言で頷いた。穏やかな表情だが、その裏に少し寂しげな色を感じたのは気のせいかしら。また視線を真下のミズミに向けると、小声で彼は答えた。

「俺もたまたま知っただけだから。ミズミ、女として扱われるのを嫌うんだ」

と、また腰をかがめて彼女に顔を近づける。

「ミズミ、綺麗なのにね」

 まさに一瞬だった。ハクライが急に頭を上に上げると、先程まで彼の頭のあった位置を勢い良く何かが通り過ぎた。はっとして息を飲むと、拳を握りしめ片腕を上げているミズミに気が付く。

 ――ってミズミ……!?

 驚く私の目の前で、ハクライがちらと一瞬私を見て悪戯に微笑んだ。それを見て私は悟った。――ああ、顔を近づけると次の瞬間殴られるって、こういう状態のことを言うのね。

「起こしちゃった?」

 頭上から声を降らせる男に、寝ている女は薄っすらと瞼を開けた。茶色の髪の隙間から見えるその瞳は、垂れ目のせいかちょっとだけ妖艶に見えた。

「……ん……ハクライ……? どうした?」

 寝ぼけたような声を上げ、腕を下ろすと同時に深く息を吸う音が響く。……あれ、もしかして、今自分が殴ろうとしていた事、気付いてない……?

「どうもしない。よく寝てるなぁと思って」

 ニコニコと微笑む彼は、今度はしゃがんで彼女と同じ視線の位置に顔を持ってくる。ベッドのすぐ横に彼の顔があるのを横目で確認して、ミズミは静かに深呼吸する。

「……何か用か?」

「ううん、何も。ただミズミ見てただけ」

 相変わらずの笑顔を浮かべて素直に述べる男性に、困ったように眉を寄せるがそれも一瞬。すぐに瞳を閉じると彼に背を向け、私の方を向いてそのまま囁くように呟いた。

「お前もさっさと寝ろ。ティナもな」

「はぁい」

 ハクライは彼女の言葉に素直に従うと、そのまま部屋の一番奥、彼女の隣のベッドに腰掛ける。

「相変わらず、ここのベッドってやわらかすぎるなぁ」

「えー、私にはちょうどいいけど。ねえ、ミズミ?」

 ベッドをポンポン叩きながら呟く彼に、私がそう返してミズミに話をふると、彼女はそれには答えずにまた深く息を吸う。その様子からまた眠りにつこうとしている事が覗えた。私とハクライはお互いに視線をかわして、思わず微笑んでいた。

「明日には雪国に入るんだもんね。明日は大変そうだから、私も早く寝よーっと」

「俺も寝るかな」

 ベッドに横になると、自然と睡魔はやってきた。隣のミズミの呼吸の音を聞きながら、私も深く息を吸う。気をきかせて部屋の明かりである燭台をハクライが消すと、もう真っ暗だった。視線を動かすと、かろうじて窓から月明かりが入っていることに気づく。部屋はしんとしているけど、お城の人はまだ何人か働いているのかもしれない。遠くで人の声がしている気がした。それを聞きながら、私は毛布を持ち上げて肩を覆った。

「じゃあハクライもおやすみなさい! ミズミ……おやすみ」

「うん、おやすみー」

 私の眠りの挨拶に、ハクライは相変わらずの明るい声で、ミズミは寝息で答えた。



 そう、明日には雪国に出発だ。この日、私とミズミは鬼族の城にやってきて、雪国への行き方を聞きに来たのだ。そこでミズミの相棒、ハクライと合流して、即座に出発かと思いきや。

 最初の歓迎は、ミズミの着替えだった。彼女の薄着を(というかボロボロな様子を)心配して、鬼族の隊長はすぐに彼女に着替えを準備してくれた。着替えが済めば、すぐに鬼族の王様から遣わされた近衛隊長が雪国のルートを教えてくれた。でも私は道のことなんかより、ミズミがあの薄着の姿から一変、男物の服を見事に着こなす姿を見て、本当に男らしい様子にびっくりしていた。本当ならそのまますぐにミズミは出発するつもりだったようだけど、それを鬼族の王様が許さなかった。

「明日には遠征に征かれるミズミ様を、少しはおもてなしさせてください」

と、いう鬼族王キエラさんの願いから、渋々ミズミはそれを飲んだ形だった。そう、二つ目の歓迎は、鬼族のお城でのおもてなし。闇族の大陸に来て、今までにない美味しい料理も頂いて、夜になれば久しぶりのお風呂に(勿論大きなお風呂!)、そしてこんなフカフカのベッドまで提供してもらった。二日くらい、まともな食事も寝床もなかった身にとっては、まさに生き返る気分だった。

 流石はミズミ、この闇族全体の王様というだけあって、もてなしが最高級。尤もそこまでもてなされているのはミズミであって、私なんかはそのおかげなんだけど……。

 そんなわけで今日は一日、穏やかに過ごして夜になったというわけだ。でもきっと明日からはまた大変なのだろう。雪国は強族が奴隷狩りをしていると聞いた土地だ。一体ミズミはそこに遠征って……何をするつもりなのだろう……?

 そんなことを考えているうちに、意識はどんどん眠りの中へと引き込まれていった。


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