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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第8章「偽りの器を持つもの、真の器を持つ者」
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森の石版2


 珍しい声色だった。見ればあのウリュウが瞳をしっかりと開けていて、深緑の瞳が石版を睨みつけていた。

「どうしたの、ウリュウ……」

 恐る恐る私が尋ねる隣で、ミズミが目を細め彼に向きを変えていた。

「…………さては、『語れない部分』……だな?」

 意味深な問いかけだった。聞いているだけの私には分からないけれど、二人は無言で視線を交わしていた。ウリュウは唇を噛むようにして頷いて一歩後退った。

「……え……どういうことなの……?」

 意味が分からなくて私は皆を見るけれど、ハクライも首を傾げていて、肝心のウリュウはそれ以上口を開こうとしなかった。ミズミにもう一度視線を送れば、彼女は私の方を見向きもせずにわずかに唇を動かした。

「……メイカは闇族の歴史に関わる話になると話せない。そして……ヤツの本当の主に関することもな……」

 私は目を見開いていたに違いない。彼の主は、てっきりミズミただ一人だと思っていただけに、予想外の言葉に私はただただウリュウとミズミを交互に見ていた。

「ごめん、スティラ様……。心配はしてたんだけど……ダメだね……。ここでもボク、手出し出来ないね……」

「いや……案ずるな。ここまでの案内で十分だ。最後の石版を読むことは出来るのか?」

 ミズミのその問いかけに、ウリュウはゆっくりと頷いた。

「でも……スティラ様、読んでもいいかい?」

 声が乾いていた。あのウリュウが緊張しているのが分かって、逆にそのことに私まで緊張してしまう。ミズミですら警戒気味に彼を睨むようにして尋ねた。

「……何を躊躇している?」

「主の……シキを呼び出すことになる……。準備した方がいいよ……」

 彼の言うセリフはよく分からなかったが、いい予感はしなかった。その言葉に、ミズミは背後の男に視線を向け、私にも視線を向けてきた。視線を受けた相棒の男は小さく頷いた。

「俺なら大丈夫。戦う準備は出来てる」

「……え、戦うの……⁉」

 ハクライの予想外な返事に私が動揺していると、ミズミは表情一つ変えず頷いていた。

「俺も大丈夫だ。ティナ、準備をしろ。自動回復の術……頼めるか?」

 その言葉に私は思わず冷えた手を握りしめていた。ミズミからそんなお願いをされるなんて、よほどの戦いが待っているのだろう。既に瞳がゆらゆらと色を変えようとしている彼女に気がついて、私は魔法の準備をしながら頷いた。

 その間に、細身の男は珍しく神妙な顔で主を見て片手を伸ばしていた。

「……スティラ様、ハクライ……。ごめん、ボクにできるのはここまで」

 直後、二人の体だけでなく、自分の体にも一瞬強い魔力が働いた波を感じて、私は自分の周りに目を凝らす。もはや透明で見えないけれど感じる力は恐らく結界だ。ウリュウ、戦いに備えて事前に私達に結界を張ったんだ。即座にそれに気がついたミズミは真剣な表情で従者を見、瞳を閉じるようにして礼を述べた。

「気遣い感謝する。……魔力反射……か、成程。……ハク、お前は慎重に戦う必要があるぞ」

 ウリュウの使った結界の術を見抜いたのだろう、ミズミは結界の特徴を一言で言い当てた。続いて相棒に声をかけると、長身の男は結い上げた髪を揺らして頷いていた。

「ん、それって面倒くさそうだね。メイカ、ありがと」

「いえいえ〜」

「……自動回復、かけたわよ」

 ミズミに続いてハクライの腕にも魔法陣を書き終えると、私は深く息を吸い覚悟を決めた。戦いは怖いけれど――でも全ては、独族の真実にたどり着いて、命の危機に直面しているたくさんの人達のため――そう思って唇を噛んでミズミを見た。

「……ティナも準備できたようだな」

 私の視線を受け、闇族王は静かに深く頷いた。

「……メイカ、もういいぞ。石版の文字を読んでくれ」

 ミズミの言葉に細身の男は真顔で頷いて、石版の目の前に立ち私達に背を向けた。静かに息を吸う音が響いた後、ウリュウがゆっくりとその石版の文字を読み始めた。

『闇を開放せんとす者……その器を確かめん……』

 読み上げると、一瞬、風が吹き抜けた。まるで石版から吹き付けたような風が、そよ風程度の力なのに妙に寒気がした。そしてそのそよ風が走り抜けた後、またそよそよと風が吹き始めた。この風は……森から吹いているのではない。石版から……風が起こっていた。

「……ボクは手出しできない領域……。スティラ様、ハクライ、そしてティナちゃん……ご武運を……」

 風に吹かれ緑色の髪を遊ばれながらウリュウはそう言って、ゆっくりと石版から離れていく。一方のミズミとハクライがじっと石版を睨んでいる姿に、私が固唾をのんだ時だった。

 突然、ぶわっと強い風が急に吹き荒れた。私は慌てて手をかざして顔を庇うけれど、その間もミズミは茶髪を風に吹かれたままじっと石版を睨んでいた。その視線の先を見て――私は息を飲んだ。


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