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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第8章「偽りの器を持つもの、真の器を持つ者」

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森の石版1



 入れないかも、と聞いていた割に、その道は順調だった。魔物も出なければ心配していた瘴気もない。あの穏やかな森の道がずっと続いていた。

 雨はもう上がっていた。まだ空の色は重いけれど、それでも雨はやんで、森の中はしんとしていた。

「なんだか思ってた以上に平和な道じゃない?」

 思ったことがそのまま口を付けば、ハクライが背後で笑った。

「瘴気もなくて魔物が出ないなら良かった。ちょっと俺も心配してたから」

「魔物はでないだろうと予想していたが……しかし、瘴気の気配もないな……。砂漠の地下神殿の時にも瘴気の気配はあったから、多少は警戒していたんだが……」

 相棒の言葉に続いてミズミも呟けば、チラと後ろを向いて私の背後の男に視線を向けた。振り向かなくても分かる。ミズミの従者のウリュウを見たんだ。

「……大地の遺跡で証を授けられたからこそ……石版を守る仕組みが解除された……と考えてもいいかもしれんな……」

 そう呟きながら後ろを見たままのミズミは、言いながら従者の反応を確認しているように思えた。思わずウリュウが気になって私も後ろを向けば、細目の男はまた唇を少しこわばらせた笑みを浮かべて地面を見たまま無言だった。ミズミの鼻で笑う音が聞こえてそちらを向けば、既にミズミは前を向いてしまっていた。

「……予想通り、か……。しかし最後の石版ともなれば、面倒なことしか起こらなそうだな」

 既にため息をついている茶髪の美女は、これから起こる出来事にうんざりしているような雰囲気だ。こんな態度と発言をされたら、当然突っ込まずにはいられない。

「面倒なこと……って、一体何よ?」

 ミズミに問いかければ、案の定というべきか目の前の美女は振り向きもせずに鼻を鳴らしていた。

「さあな、俺にも分からん。ただ氷の洞窟もそうだったが、仕組み的には何かしら戦う必要があるとか面倒事はあるだろ、確実に。ハクライ、お前も万全にしとけよ」

「大丈夫、そう思ってた」

 まさかあののほほんとしたハクライが、ミズミ同様既にこれから起こることを予見していたということが驚きで、私は素で彼を見上げて目を丸くしていた。

「ハクライも……これから厄介ごとが起こるだろうって、予測してたの?」

「んー、予測っていうか、なんかそんな気がしただけ」

「えー、じゃあ私だけのんびり構えてたってこと?」

「少しは気を張っておけ、ティナ」

「まあまあ、ティナちゃんはボクらの癒やしですから〜。いつでものんびりしててもらわないと〜」

「お前ももう少し気を張れ」

 そんなやり取りをしながら、私達は森の奥へと進んでいった。

 森の奥へ奥へと進んでいくと、段々とその雰囲気が異質になっていくことに気がつく。雨は止んで風もない。草木は静かに葉っぱの水を落とすだけ。鳥のなく声が遠くで時折聞こえるけれど、それ以外の音がしない――。

そう、森の中にしてはあまりに音がしなかった。響くのは濡れた地面を歩く私達の足音ばかりだ。上を見上げれば、高い木々が空を隠して、灰色の空と深緑のコントラストが綺麗だった。しっとりとした森の空気は、決して嫌な感じはしないのだけど、それでも何か妙な緊張感を覚えていた。

「森はとっても綺麗なのにね……。なんだか……変な気分……」

 思わずそんなことが漏れれば、前を歩くミズミがチラと背後の私に視線を向けて呟くように言った。

「……普段なら、風の精霊くらいうろついていてもいいくらいの場所だ。だが今はそれもない。草木以外何もない……。まるで何かを恐れて、逃げ出したかのようだな……」

 その言葉に私は再び周りを見る。確かに森の動物の気配もない。

「……この先に……あるのよね……石版……?」

 不安から小さく問いかければ、案の定ミズミは鼻で笑うように答えた。

「なかったら困るだろ。……ほら、見えてきたぞ」

 思わず私は身を乗り出してミズミの隣に並んだ。視線の先に木々と長い草に隠れた灰色の物体に気がつく。決して走るでも歩みを速めるでもなく、私達は静かに歩いてその石版に近づいていた。私は緊張から、ミズミとハクライは何か気配を探りながら、無言で歩み寄っていた。二人は明らかに警戒しているように見えた。

「……特段……瘴気も何もないか……」

 ミズミはそう呟いて立ち止まった。辺りを見れば開けた原っぱだ。足元の草は背の低い草ばかりで、所々白い花を咲かせていて綺麗だった。この原っぱを囲うように背の高い木々が丸く取り囲み、自然にできた原っぱにしては少々綺麗すぎる円形だ。その上この原っぱだけ草の種類が違っていて、まるでこの原っぱ自体が人工的に作られたんじゃないかと思うほど、整いすぎている原っぱだった。

 そんな綺麗すぎる原っぱのほぼ中心に、例の石版は佇んでいた。見れば苔も生えて少しばかり蔦も絡まっている。でもその古すぎる石版の割には痛みも苔の侵食も少なくて、それには違和感を覚えた。やはり石版自体に何か術がかかっているのかしら?

「……見た感じ、今まで見てきた石版と一緒だな……。メイカ、読んでくれるか?」

 石版を暫し眺めていたミズミの言葉に、ウリュウが無言で頷いて石版に近づいていた。その様子にも私は違和感を覚える。今までなら軽い返事一つして石版に歩み寄っていた筈なのに、今回ばかりは無言で妙に彼の空気が重い。

 そんなことを思いながら、彼の後ろ姿を見守っていた時だった。

「…………やっぱり…………主の……」


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