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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第7章「想う王、揺れる女」
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妬族2


 薄暗い通路をただひたすら進んでいく。響くのは私達の足音ばかり。それ以外の音が聞こえてくるようには思えなかった。辺りを見回しても代わり映えしない古びた通路。少し先ほどと変わったのは、通路が少しだけ広くなって、通路の中央には下に落下するような空間が広がって、反対側の通路と距離が空いたことくらいだろうか。それでも景色はそう変わらないし、ボロボロの通路がやはり危なっかしくて歩いていくのもなかなか恐怖だ。真ん中が抜け落ちているところから察するに、通路の中程が危ないと判断したのか、ミズミは比較的壁よりの通路を歩き続けていて、私はその後ろを追いかけるように歩いていた。

恐怖もあって早くここから抜け出したくて、私はミズミに問いかけていた。

「ねえ、ミズミ。この地下通路、いつ抜けられるの?」

 問いかければ振り向きもせずに、ミズミは低い声で答えた。

「そりゃ石版を読んでからだろ」

「そりゃあそうだけど……石版の場所、何処なのか、ミズミ分かるの?」

「分からんが……だがこの遺跡の一番奥、最下層にあるんじゃないか」

「じゃあ私達、今はそこに向かっているの?」

「ああ」

 ミズミの間髪入れない迷いない回答に、私は目を丸くしていた。

「てっきり……ハクライやウリュウと合流してから行くのかと思ってたのに……」

 思わず漏れた言葉に、ミズミは鼻を鳴らして相変わらず振り向きもせずに答えた。

「あの二人なら心配ないって言ったろ。俺がアイツらの所に戻らないことは二人とも分かっているだろう。ともすれば、二人も自然と遺跡の攻略にくる。探す手間も省けるからな」

 その返しに私は感心していた。それだけお互いのことを分かっているということだし、何よりそれだけの信頼もお互いにしているのだろう。ミズミなら、ハクライなら、ウリュウなら、妬族のねぐらでも心配ないということ。そしてこの地下遺跡の最深部までたどり着けるということを。

「なんだか、ミズミ達の関係が羨ましい。それだけお互いを信頼しあっているのね」

 ぽつりそんな言葉が漏れれば、ミズミはそっと背後の私に振り向いた。

「私も……ミズミ達の仲間って思ってもらっているけど……まだまだ、その信頼に答えられるだけの働きができないから、ちょっと羨ましいなって、思っちゃった」

 思わず本音を零せば、ミズミはまた前を向いて歩き始めていた。少し面倒くさい発言しちゃったかな、なんて少しばかり後悔していると、背を向けたままミズミは答えた。

「ティナはその回復の術で俺たちを助けてくれているだろ。少なくとも俺は信頼してる」

 珍しくからかいではない真面目な発言だった。反射的に彼女の後ろ姿を見つめていれば、そのまま背中を向けたまま彼女は続けていた。

「お互い持つ力が違うなら役割も違う。俺はハクライの代わりをお前に求めないし、メイカの代わりを求めてもいない。ティナはティナが持つ能力を発揮して、俺たちを助けてくれるだろ。それで十分だ」

 その言葉に、思わず胸の奥がじいんとした。ミズミの優しさが表れている発言に、思わず唇を噛んでいた。いつもは素っ気なかったりからかったりしてくるくせに、私が落ち込みそうな時に限って真面目なこと言って優しい態度を見せてくれる。その態度が嬉しくて、そして胸が少しばかり高鳴って――はっとする。

「……この感覚……」

 記憶の底にある、愛おしい人とのやり取りが思い浮かぶ。――白銀の髪の下で意地悪に笑うくせに、私が落ち込む時に限って優しい色の瞳をしてくるあの人――。ミズミとのやり取りは、こんなところもあの人に似ていたんだ……。

 思わず立ち止まる私の目の前で、歩みを進めていたミズミまで、はっとしたように動きを止めていた。私の動きに気づかれたかな、なんて思ったのは一瞬だった。

「……近いな……。ティナ」

 急に呼びかけられて顔を上げると、腕を取られ抱き寄せられた。思いがけないその動きに、その上思い出していたことがことなだけに思わず狼狽していると、あの茶髪の隙間から鋭い視線を通路奥に向けながらミズミは囁いた。

「妬族が近くにいる。喋るなよ」

 その発言に、先程まで思い出していた記憶なんて一気にすっ飛んだ。あの不気味な妬族が近くにいる――! そう思うと、思わず私は体がこわばって息を飲んでいた。ミズミの視線の先を同じ様に見つめれば、中央の空洞を挟んだ反対隣の通路に、動く人影のようなものが見えた。

 ミズミの動きは速かった。物音も立てずに私を壁に押しやると、そこは壁が砕けて少しばかりくぼんだ場所だった。そこにはまるように私を押しやって、そのままミズミは私に体がくっつく程に寄せてきた。その至近距離に一瞬慌てるけれど――

「動くな」

 まさに耳元で囁くように言われて、私は呼吸が止まる。ミズミはそのまま私の体に自分の体を押し付けるようにして、壁の隙間に私ごと身を隠す。彼女のマントが壁の色に近いことを利用して隠れようとしていることに、その時初めて気がついた。確かに隠れるための体制なのだけれど――

「………!」

 服越しに彼女の体格が分かるほどに密着していて、何だか妙に落ち着かない気持ちになる。そ、そりゃあミズミは女性だし、同じ女同士なんだから、そんな性的なドキドキを感じるような相手じゃないのは分かっているんだけど……

 それでも、いつでも戦えるようにと力のこもる手足が私の腕や脚に密接して、しかもあの綺麗な顔をすぐ真横に持ってこられて、耳元で呼吸の音を響かせられたら、多少はドキドキしてしまう。チラと横目で見れば、やはり綺麗なあの横顔。迫る敵に緊迫して鋭い目線で背後の様子を窺っている表情は、女性とはいえかっこいいなと、素直に思ってしまう。わずかに動けば自分の胸より少し上のところで、彼女の胸が当たっていることに気が付いて、柔らかい感触にやっぱり女の人なんだな、と妙にそこだけ安心感を覚えてしまう自分がいる。

――ん……? ミズミ……あれ――?

 こんな緊迫した状況で、ものすごく些細なことなのだけれど、不思議な事に気がついて、思わず疑問が口をついていた。

「ミズミ……胸……縮んだ……?」

 そう、前に彼女の裸を見た時に感じた大きさよりも、何だか妙に胸が小さい気がしたのだ。そんな急激に人の胸の大きさって変わるっけ?と、こんな緊迫した状況でそんな疑問が頭をよぎる。


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