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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第7章「想う王、揺れる女」
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地下遺跡2


 目に入るのは黒っぽい石畳の四角い通路だ。右にも左にも続く細い通路は、まるで迷路を思わせた。よく見れば通路の壁に燭台のようなものもあり、もしかしたら昔はここに明かりが灯されていたのかな、なんて思いが浮かぶ。しかし更に奥を見れば、まだ光っている光源に気がつく。もしかしたら氷の洞窟にあったようなライトの魔法かも知れない。

「ここが地下遺跡……なのね」

 思わず漏れた言葉に、ハクライも頷いて問いかけていた。

「床も少し壊れてるし、だいぶ古いんだろうね。ミズミ、この中ってどうなってるの?」

「……道は……随分と複雑だ。どちらかと言えば……痛みが激しくて探すのに苦労するってところか。音で探るには逆に何もない。妙な残り音はするがな……」

 呟くように返すミズミの言葉に、私はまたも辺りを見回す。ミズミの術で辺りを探るのは簡単だと思っていたけれど、逆に生き物や魔力など、彼女が言う「音」を発するものがない場所だと、彼女の能力はそこまで活かされないのだろう。確かに見回しても生き物の気配はないし、ひんやりとして涼しくて、それが逆に不気味でもあった。

 その間にも相棒同士の会話が続いていた。

「残り音って……一体なんの音なの?」

「さあな、俺にも分からん。ただ、よい音でないことは確かだ」

「まだ続いてるの?」

「ん……続いていると言うよりは……もしかすると遠くからしているのかもしれないな」

 そんなやり取りの間に、ようやく上から飛び降りてきたウリュウが、ずっこけるような体制で地面に着地していた。

「ふー、思ったより高い位置にあったんですねぇ。……ん」

 相変わらずの軽い感じで話すなぁと思った矢先、急にウリュウが真顔になったことに気がついて、私だけでなくミズミもハクライも彼の方を向いていた。

「……メイカ、何かあったか?」

 目を細め問いかける主に、ウリュウは数回鼻を鳴らして舌打ちしたように聞こえた。

「……スティラ様……この匂い……もしかするとアイツらかも知れませんよ」

 少々警戒気味に声を低くするその様子に、私は不安を感じてしまう。「アイツラ」って、一体誰の話をしているんだろう? ミズミは彼から目線を外して、また周りを窺う素振りを見せた。

「……近くには誰もいないように感じるが……」

「遠くからでもこのボクが匂いを感じられるほどですから……呪いに似てるんだと思いますよ……」

 その言葉にミズミが不意に動きを止めて、ゆっくりと従者の方を向いていた。その様子から、彼女はウリュウのいう存在が何者であるか、察したように思えた。

「……成程……アイツらか……。確かに場所的にもアイツらには居心地は良いだろうからな……」

「……ああー、あれか。えーと……名前なんだっけ?」

などと、ミズミもハクライも、ウリュウの言っている「アイツら」を理解しているようだけど、闇族ではない私には当然分からない会話だ。

「だとすると面倒だな。早いところ、目的の石版までり着こう」

 即座に動き出すミズミの背中に気がついて、私は追いかけるように彼女に走り寄った。

「待って、ミズミ。アイツらって一体誰のこ……」

 ぐらり、と足元が揺らめいた。ミズミがはっとして私の方を振り向くのと、ガラガラと硬いものがぶつかり合う音が響くのは同時だった。

「きゃあっ⁉」

「ティナ!」

 力強く腕を引っ張られた直後、轟音と共に体が下に引き込まれる感覚がして、視界が真っ暗になった。

「捕まってろ!」

 轟音に負けないくらいの叫び声が聞こえて、引っ張られた腕に引き寄せられるまま、私が腕を伸ばせばしっかりと抱きしめられた。

『スィ……フェンファー!』

 叫ぶような呪文の直後、周辺にあった硬い岩の存在が吹き飛ぶような風を感じた。まだぎゅっと彼女にしがみついていれば、直後、再び呪文の声がした。

『フェンファー!』

 ふわりと体が風に抱きかかえられるような強い風を感じると、背中に硬い地面の存在が伝わってきた。でもそれをゆっくり感じている暇はない。

『シューフ!』

 間髪入れない呪文の暗唱の直後、ガラガラと瓦礫の雨が降り注ぐ。瓦礫の音が屋根に当たるような音と、すぐ隣に雨だれのように落ちてくる石の音がして、私はその爆音に体を縮こまらせていた。

 しばらくそうしていただろうか。瓦礫の音が鳴り止んで、私の真上で少し乱れた呼吸の音を響かせている存在に気がついて瞼を開ければ――

 私の上に覆いかぶさるようにして片腕を天に伸ばし、利き腕で私の肩を抱きしめたまま横になるミズミの姿に気がついた。真剣な瞳のまま頭上を睨み、私に横顔を見せるその姿に、思わずドキリとした。横顔は険しくも綺麗で、この体制になって私を守ってくれたミズミに自然と胸が高鳴った。

「ミ、ミズミ……」

 呼びかければチラと私を見て、ミズミはふーっと長いため息をついた。その様子から、彼女が緊張を解いて、ようやく安堵したことが見て取れた。片腕を降ろしながら彼女は地面に腰掛け、そのまま私の腕を引いて半身起き上がらせた。

「怪我はないな。まさかあれ程に老朽化していたとはな……。踏んづけて通路が壊れるほどとは、俺も予想してなかったよ」

 彼女の言葉に、ようやく私は状況を理解した。見上げれば真っ暗ながら遠くに見える黒い穴。その途中に所々壊れかけの橋のように通路が何層にもなっているのが見える。どうやら私が踏んづけた通路の床がだいぶ古びていて、踏みつけたと同時に崩れ落ちたようだった。

上を見上げて思わず口があんぐり開いている私の隣で、ミズミは辺りを見回しながら立ち上がり、舌打ちしていた。

「成程……やはりそうか……。しくったな……」

 落ちてきて今しがた服についたホコリを払いながらミズミが呟く。

「ごめんなさい、私が変な所踏んづけたばっかりに……」

 思わず申し訳なくて謝る私に、茶髪を揺らして彼女は首を振る。

「そこは気にするな。それよりも……まさかここが妬族トゾクのねぐらだったとはな……」

「妬族……? もしかして、さっきウリュウが言ってたアイツラのこと?」

 先程までの会話を思い出しながら、初めて聞く種族の名前に首を傾げれば、ミズミは面倒くさそうに眉を寄せてため息を付いていた。

「厄介な種族なんだよ……。日の当たる場所には出てこない、根暗で陰険、その上嫉妬深くて自分より強かったり美しかったりする者に攻撃的で同化を求めてくる。アイツらは四大種族とは違った面倒くささだ」

 その説明に思わず私は不安が過る。

「ミズミがそこまで言うなんて……よっぽど面倒くさいのね……?」

 問いかければ、横目だけ向けて彼女は一つ息を吸った。

「出会ったら即逃げるぞ。油断すると同化させられる」

「同化……ってどういうことなの?」

「取り込まれ、俺たちまで妬族にしてくる。アイツらは繁殖能力があるのは一部だけで、ほとんどが多種族を取り込んで種を増やしている。ある意味で喰族以上に恐れられている一族だな」

 その説明に思わずくらくらして頭を押さえていた。前に喰族は同族以外全て食べ物だって聞いてそれも怖いなと思ったけれど、今回の種族はまた違った不気味さがある一族だ。 そんな私の手を引いて、ミズミは歩き出した。

「今回ばかりは本気で逸れるなよ。奴らに捕まったら終わりと思え」

「ええ〜……そういう言い方止めてよ〜。怖いじゃない」

「仕方ないだろ、事実面倒くさい奴らなんだから」

 そんなやり取りをして私達は壊れかけた通路を歩きだしていた。






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