地下遺跡1
「で、この辺りに入口があるんですねぇ……」
「……何処から入るんだろうね?」
男性二人がそういうのも頷けた。何故なら私達の目の前に立ちふさがるのは、赤茶色の岩石ばかり。ここが目的の場所だと言われても、すぐには受け入れられないような景色だったからだ。
翌朝になって災いの場所と話に聞いた場所に着てみれば、そこはひたすら巨大な岩壁ばかりが立ちふさがるただの岩場だった。目に入るのは本当に足元の砂か、そこに転がる石ころか、大きな岩だらけ。ここに人工的な建物は勿論、古代の遺跡への入口と思われるような洞窟ですら見当たらなかった。
「メイカ、匂いで分からないの、入り口?」
見下ろすように問いかける長身の男に、細身の男は肩をすぼめた。
「匂いで入り口探せるのは、基本食べ物のありそうな場所でしょ〜。遺跡に食べ物なんかないんだから、そんなの分からないよ〜」
「そっか、確かに。あっても腐ってそう」
「それこそ化石化してそうだよねぇ」
「それじゃ食えないなぁ」
「いや、ハクライなら食べられるんじゃない?」
「流石に石はヤダ」
なんて背後の二人が少々間の抜けたやり取りをしている間に、前方のミズミが低い声で呟いた。
「だが……妙な気配は感じるだろう。過去に人が出入りしていたか、もしくは今も近くにいるか……どちらにしてもあまりいい気配には思えないがな。それ故に災の場所、なんて言われているのかも知れないな」
その言葉に意味が分からず首を傾げていると、背後の男が答えた。
「なんだか呪いにも似たいやーな匂いはかすかにしますけどね。でも出どころがはっきりするほどの匂いじゃないんですよねぇ」
なんだ、ちゃんと何かしら匂いはするんじゃない、と思いながら振り向けば、私と同じことを思ったのか、瞬きを繰り返しながらハクライが真下の男を見ていた。一方でミズミはため息まじりに探索を続けていた。
「残り音はするな……。強引に連れてこられた奴隷の音か、はたまた遺跡故の音なのか……」
言いながら手を岩にかざすようにしているミズミの瞳が、またゆらゆらと紫色になっていた。戦いの場ではないけれど、彼女がそれだけ真剣な証拠だ。術を使って何かを探っているのだろう。
不意にミズミは足元に手をかざし、そのまましゃがみこんだ。
「どうしたの、ミズミ? そこに何か感じるの?」
問いかければ、じっと地面を睨んでいたミズミがにやりと口の端を歪めた。
「成程、地下通路だな。この下に通路があるようだ。どうやら探している場所はこの岩場の中にあるわけではないようだ。遺跡はおそらく……地下にある」
そう言って立ち上がるミズミは、背後の従者をじっと見ていた。視線を受けたウリュウは無言のままあのニヤついた表情を貼り付けていたけれど、何処となく不自然に笑うその様子に主は満足げに微笑んでいた。
「……間違いないようだな。問題は入り口か。扉があると言っていたな。少し探そう」
彼女の指示に私は辺りを見回して疑問を感じていた。
「探すったって……見た所何処もかしこも岩だらけで……入り口っぽいところはないわよ? どの辺り探すの?」
問いかけている間にもミズミとハクライは動き出していて、二人はひょいひょいと岩場を登っていた。その姿に私は慌てて声をかける。
「待って、そんな所、私登れないよ!」
すると直後、ハクライの間の抜けた声が響いた。
「岩場の隙間にあったよー。変な扉ー」
その言葉に目を丸くしていると、隣に並んできた細身の男がニヤリと微笑んでいた。
「流石早いねぇ、二人とも。さ、ティナちゃん、スティラ様もお迎えに来るし、行ってみましょうか」
直後、岩陰に隠れていたミズミが現れて、少し高さのある岩場から腕を伸ばすようにして手を差し伸べていた。
彼女に引っ張られながら岩場を登れば、その岩場の一角にくぼんだ場所が見えた。そこにしゃがみ込む黒髪の男の姿が見えて、そこにたどり着けば、彼の足元には随分と古びた黒い扉が見えた。
「金属の扉……ってわけでもなさそうだな。石にしては随分と硬いな。遺跡を作った奴らの文明か何かってところか……」
地面に張り付いている扉を、立ったまま足の先で蹴る様にしてミズミが確認する隣で、ハクライはしゃがみこんだ体制のまま、扉の穴に指を差し込んで砂を掘り出していた。
「この扉、引っ張れば開くみたいだけど、開けていい?」
「音の感じ、危険なものが近くにあるわけではない。開けて大丈夫だろう」
彼女の言葉にハクライは扉から降りて、扉にある取っ手のような穴に指先を差し込んで引き開けた。砂がこすれる音と砂利が潰れるような音がジャリジャリと響いて、扉が片側引き開けられた。
扉の開いた先を覗き込むように身を乗り出し、閉じた扉の上に乗るミズミに続いて、ハクライも私もそっと砂場の上から下を覗き込む。眩しい砂漠の日差しを受けて、その暗がりの先で光を反射するのは、恐らく扉を開けて出入りする際に落ちた砂が作ったであろう薄く広がる砂の山、そしてその下に黒っぽい石畳が見えた。明らかな人工物だ。それを見てハクライがぽつり呟いた。
「遺跡発見、と言っていいのかな?」
「恐らくな。ハク、ティナ、少し待て」
言うが早いがミズミはひょいと扉の下に飛び降りた。思ったよりも高さがある。飛び降りてから少しの間を挟んで、着地した足音が響いていた。上から見下ろしていると、茶髪を揺らしながらミズミがあちこちうろついている姿が見えた。
「どうなの、ミズミ? 私達が入っても大丈夫そう?」
下に向かって声を張り上げれば、暫しの間を挟んでミズミが上を向いた。
「痛みが激しいが魔物の気配はない。降りても大丈夫だ。ハク、ティナを」
「分かってる。ティナ、抱っこするよ」
「うわわっ」
ハクライてば言うが早いが私を軽々とお姫様抱っこして、そのままぴょんと下に飛び降りていた。風を感じる時間があるくらい、それなりの高さがあった。着地するとすぐに地面に降ろされて、私もハクライも辺りを見回していた。