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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第7章「想う王、揺れる女」
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偽りの理由1



「なんなの、あれ。俺あそこまで許してない」

宿場からこっそり抜け出して仲間である長身の男と合流した途端、開口一番出迎えのセリフがこれだった。

ミズミのお色気作戦で無事宿屋の主人から目的の場所を聞き出した私たちは、気絶させた主人の服をわざと脱がしベッドに横たえて、こっそり窓から抜け出してきた。こうしておけば、男の様子から主人は私たちと楽しんだように見えるし、気を失ったのもミズミからの攻撃だと気付かせずに済むという計算のうちだった。そして仲間のハクライと合流するまでは良かったんだけど……

「ミズミ、めちゃくちゃえっちなことされてたじゃん。あんなのダメ!」

「あの程度、計算のうちって言ってんだろうが」

「あれが? あんなに触られてたのに?」

「……やはりお前、見てたのか……。入り口で待ってろって言ってたろ」

「待ったよ。情報出るまで、ミズミ出てくるまで待ったよ。ご褒美」

「誰がするか!」

「もー、いい加減ここから離れようよ、抜け出したのバレるよ?」

いつまでたっても終わらない痴話喧嘩に一釘さして、私たちは奴隷商人の町を後にした。


 一仕事終えた私たちは、宿のあるオアシスの町へと帰途についた。移動用の砂トカゲに乗って、痴話喧嘩を横で聞かされながら小一時間、ようやく目的地についた。その頃には流石に二人の痴話喧嘩は落ち着いていたけれど、二人共不機嫌で逆に会話がなくて怖かったのにはちょっと困ったけど……。

 そんなことを思いながら宿屋に迎えば、宿の入口付近であの細身の男、この町で情報収集していたウリュウとも合流した。

「情報得られました? こっちは黒尽くめ達がたまに買い出しに来てたって話程度しか無くてですねぇ……」

「こっちは必要な情報は得た。メイカ、岩場の『災の土地』が次の目的地だ。転送魔法なりトカゲなり行く準備を頼む、今日の仕事はそれで終わりだ」

 従者の言葉にミズミが素早く次の指示をすると、言われた方は小刻みに頷いてすぐに踵を返した。

「はいはーい、じゃあまた明日用の砂トカゲでも借りてきます〜。あ、スティラ様、宿に今日の食事はお願いしてありますんで、一仕事終わったらボクもすぐ戻りますねぇ〜」

 そう言い残して去る従者を見送って、私達三人は宿の扉をくぐった。


宿に戻るなりだった。思いがけないことをミズミが私に提案してくれた。

「流石に今日は砂をかぶりすぎただろ。宿の裏に水浴び場がある。宿の主人に頼めば使わせてくれるから、今日は少し水浴びをしないか?」

「ええ、いいの⁉ ぜひ使いたい!」

 砂漠の照りつける暑さに何度も汗をかいて、体は既にベタベタだった。彼女の提案に思わず食い気味に同意すれば、ロングヘアの美女は久しぶりにあの意地悪な笑顔を見せた。

「俺も一緒に入るから、一人で伸び伸びとは行かないだろうがな」

「全然いいわよ、お姉ちゃん、一緒に入ろー!」

 ふざけて呼びかけてその腕を取れば、珍しく優しく微笑む顔が目に飛び込んだ。

 水浴び場はオアシスの湧き水を引いて、小さな池のようにしてある場所だった。水は絶えず入っているようで、ちょろちょろと石の水路から水が流れ続けていた。水場の周辺は石の壁と大きな植物の葉で囲ってあり、外から覗くことは難しそうな様子にほっとした。木で作られた足場の近くで服を脱ぎ、ミズミはあの長い髪のカツラも外して、私とミズミはざぶざぶと水の中に足を踏み入れた。

「んー、気持ちいいー」

 水浴び場の中央にまで行けば、腰まで水に浸かる深さだ。砂漠の熱に熱せられたとはえ、それでも体温を下げる程度に水は冷たくてひんやりとして涼しい。その涼に思わず声が漏れる私に、鼻を鳴らすようにして茶髪の美女が同じ様に水に入る。

「砂漠の土地だけあって、体もだいぶ砂っぽくなったからな。外はハクライが見張っているから、安心していい」

 そう言って彼女はざぶんと一度水の中に頭まで沈めて、立ち上がると同時に首を振り、水を切る。上向いて深く息を吸うその姿が、体のラインもその顔立ちも綺麗で、本当に美人だなぁと同性なのに見惚れてしまう。

「……やっぱりミズミ、美人よね」

「フン、褒めても何も出んぞ」

 そう言って私に横目を向けたミズミが、ふと真顔で私に振り向いてじっと見つめてきた。

「なあに? どうしたの、ミズミ?」

 濡れて肩に貼り付く髪をまとめて水を絞るようにしていると、彼女はふっと微笑んだ。優しい笑顔、いつもの意地悪さがない、あの美人な笑顔だ。

「いや……お前こそ、俺の事を言える身じゃないだろ。十分綺麗だ、その体もな」

 言われて、思わずドキリとした。

「なっ、あ、あの、ミズミね……。発言がちょっと……天然たらしだったら」

 なんだか体を見られていたことが恥ずかしくて、私は胸を腕で隠すようにして水に体を沈めていた。そんな私を見て、彼女はいつもの意地悪な顔に戻って口の端を歪めていた。

「思ったことを言ったまでだろ。ティナを薄着にしなくて正解だったな。姦族の奴らどころか、他の男共まで寄ってきてもっと面倒だったろうからな。男を誘惑するには十分な体つきだぞ」

 またミズミはそんな発言をするものだから、私は顔が火照ってきていた。

「……それ、褒めてるの?」

「の、つもりだったんだが?」

「そういうミズミだって、綺麗な体してるじゃない。しなやかっていうか、細いけど女性らしくて……今日は髪長くしてたけど、本当に綺麗だったわよ。羨ましくらいに」

 水面に口が付きそうなくらい沈みながら、体のほてりを冷ましながら返せば、彼女は無言だった。いつもなら憎まれ口が聞こえてきそうなものなのに、と少しばかり訝しんで目線を上げれば、彼女は既に移動していて、水浴び場から上がって木で作られた階段状の足場に腰掛けていた。その顔を見れば、少しばかり目を伏せていてしおらしい表情だ。

「……どうしたの、ミズミ……?」

 言いながら私も立ち上がって、彼女に近づこうとすると、ふいに彼女は私を見てまた目線を落とした。


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