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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第7章「想う王、揺れる女」
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際どい聞き出し1



先程店の店主から聞き出した乾物屋隣の宿屋に顔を出せば、即座に宿の人と思しき男達が私とミズミに群がってきた。

「こんな綺麗な女性が二人も!」

「お泊まりですかな? おっと、連れの方もおいででしたか……」

「休憩ですか、それとも一泊ですかな?」

群がる男達の視線から、また私を庇うようにミズミは前に出て男達に声をかけていた。

「宿に泊まるわけではないのだが……ここの主人と話がしたいんだ。主人はいないか?」

その言葉に受付の奥から一人の姦族が顔を出した。いかつい体格が多い一族にしては少々太り気味で、たるんだ目元からニタリと嫌な笑みを浮かべて美女を見ていた。

「この俺に美人さんが用とは……何事かな?」

「聞きたいことがあるんだ。人を探している。ここの主人なら彼らの行った先を知っていると聞いたんでな。少し話せないか、ご主人」

ミズミの短い説明に、中年の男はニヤニヤと笑って私とミズミ交互に見ていた。

「生憎忙しくてなぁ……夜にでも個室に来てくれたらゆっくり話せるんだがねぇ?」

その説明に思わず私は眉を寄せていたに違いない。なんで夜な上に個室なのよ。明らかに怪しすぎる発言だ。そう思ってしまうのは彼らの種族故なのかしら。そんなことを思っていると、ミズミが色っぽいため息とともに予想外のことを口にした。

「今すぐだったら、私達姉妹二人でゆっくり話す時間が取れるところだったんだが……。大事な話だから私達二人だけで、個室で話したいんだ。勿論……時間を割いてもらえる分、それなりの覚悟は……あるつもりだが……?」

言いながら、再びあの色っぽい仕草で髪をかきあげるものだから、中年の男だけでなく他の使用人達まで彼女に近づいていた。わかりやすいほどの雄の反応だ。たちまち主人は顔色を変え、即座に周りの男達に指示していた。

「おっと、今だったら俺もちょうど時間がある。おい、お前ら、この美人さんを俺の休憩室に案内してやれ」

ミズミの狙い通り、即座に私とミズミは宿の中に案内された。

案内された部屋は、休憩室と言う割に随分と環境の整った部屋だった。大きな机が一つに石の丸椅子は四つ、一人分にしては大きすぎるベッドに女性が身だしなみを整えるような鏡台まである。男の主人が休憩するには少々違和感がある部屋だ。

「あの宿の主人の休憩室にしては、なんだか客室みたいね?」

案内された部屋を見回しながら私が呟けば、姉役の美女は椅子に腰掛けながら鼻を鳴らしていた。

「休憩室って言ってたろ。アイツらの休憩は女を犯すことも含まれる。そう言う意味の部屋なんだよ」

発言もその声色も嫌悪感剥き出しの様子に、私まで思わず顔が引きつったに違いない。なんだかベッドを見るのですら嫌悪感を感じてしまう。

「つまり……そういう目的で、私たちをこの部屋に案内してるのね?」

「そういうことだ。……安心しろ。お前には指一本触れさせん」

美人な顔のまま、でも目線がすごく鋭く光って私を見上げる美女に、あのいつもの男勝りなミズミの様子が垣間見えた。その発言に私は自然と頰が赤らんでいた。

「……そういう発言って、彼氏が彼女守る時とかに言いそう……」

「俺は女を守る時には、いつもそのくらいの覚悟でいるんだが?」

間髪入れず即座にそう返してくるミズミに、私はもう気恥ずかしくて頬を押さえていた。

「もー、そーゆーセリフをあの男勝りの格好で言ってるから、女の子誤解しちゃうんじゃない。天然たらしなんだから……」

「……やれやれ」

もはや呆れ顔で椅子に座って足を組む美女を改めてみれば、先ほど髪をかきあげた時に少しばかり乱れた髪に気がつく。発言や態度は本当に女性にとって天然タラシだけど、今みたいにこうして大人しく座っていれば、まさにしとやかな美女。ちょっと落ち着かない気持ちを抑えるためにも、じっとしているのもはばかられた。

「ね、ミズミ。髪、とかすよ? 少し乱れてるじゃない」

言いながら鏡台においてある櫛をとって見せれば、美女の垂れ目が細められていた。

「ティナが自分のをとかせばいいだろ」

「ミズミだって、ちょっとくらい身だしなみ整えておいてもいいじゃない?」

 言いながら、彼女の長い髪をとかそうと椅子を勧める。鏡台の前に椅子を運びそこに彼女を引っ張ってきて座らせると、ため息まじりに彼女がぼやく。

「いちいち整えなくてもいいだろ」

「ダメよ、折角の美人だもの。もったいないじゃない?」

 言いながら鏡越しのミズミに微笑み返せば、それに気がついて鏡に視線を送ったミズミが急に動きを止めた。

 思いがけないことに私は驚いた。鏡越しのミズミが珍しく目を大きくして、自分の姿を見て硬直していたのだ。そして次の瞬間にはその表情が徐々に曇りだしたのを見て、私は反射的に声をかけていた。

「ミズミ? 何か……気に入らなかった?」

 少しの間、俯くようにして鏡から目を背けたミズミが静かに首を振った。

「……何でもない。……ティナ、髪、とかすんだろ?」

 呼びかけて、まだ顔色が暗い様子は気になったが、それでもミズミは大人しく椅子に座り髪をとかされるままでいた。髪をとかす間もずっと、彼女は何故か暗い顔に見えて私は内心疑問だった。それでも作業に集中して彼女の乱れた髪を整えれば、茶髪の美女にしとやかさが強調されるような気がした。

「これで完璧よ。ねえミズミ、聞いて回る時、もう少ししとやかな女性を演じてもいいんじゃない? なんだかいつもとおんなじで私達は違和感ないけど、聞く方は違和感覚えそう」

 思ったことを素直に言えば、整った髪をひとなでして美女は立ち上がっていた。

「ハクライがいなきゃ演じてもいいがな。アイツがいるとやりづらくてかなわん」

「え、どうして?」

 予想外の言葉に首を傾げれば、美女はいつもの調子でため息をついていた。

「俺がしとやかにしてみろ。折角獲物が近寄ってきてもアイツが追い払おうとするだろ。俺が少し強めに獲物にもハクライにもモノを言えなきゃ話が進まんだろうが」

「ああー……。そういう理由か」

 その説明に思わず納得して声が漏れていた。

「ところで、そのハクライはどうしてるの?」

「宿屋の前で待たせてある。全く、言う事聞かせるのにも一苦労だ……。仕方ないから、仕事終わったら一つお前のいう事聞いてやるって約束してきた」

少々呆れがちにそう答える彼女に、思わず私はにやけていた。

「ホント、ハクライ心配性ね。まあ、ミズミの彼氏だったら当たり前とも言えるけど」

「誰が彼氏だ…………ん……ティナ、椅子にかけてろ。獲物が来た」

低いその声かけに、私は急いで机の横の椅子に腰掛けた。その間にもミズミはベッドの横に立ち、わざとその胸元を緩めていた。


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