王の作戦2
結局、ミズミと私は姉妹と言う設定にして、私とミズミとハクライの三人、そしてウリュウは単独で、ということでこの日の行動が決まった。
「ティナちゃんとスティラ様、確かに肌白いし髪色も似てなくはないし、ここは姉妹らしくスティラ様、こんなのつけてみません〜?」
行動が決まって動き出そうとしているところで、ウリュウはニヤニヤとあるものを取り出して主に渡していた。サラサラと揺れて細くて長いそれは――
「……ヅラか」
受け取って開口一番、ミズミは目を細めて呟くように言った。そう、ウリュウが手渡したのは茶色というよりは黄色に近い長い髪のカツラだった。確かにミズミの今の髪色にも近いし私の髪色にも似ているし、かぶれば変装にはもってこいのアイテムだろう。
「情報得ようと思ったら、以前奴隷商人の館に入って壊滅させた凶暴なあの女ってバレたら厄介じゃないですかぁ〜。ズラかぶって大人しくしてればごまかしやすいと思いまして」
との言葉に、ミズミも軽くため息を付いてそれを頭に乗せていた。
「それは一理あるが……そもそもメイカ、なんでこんなもん持ってるんだ?」
「お二人の服探しに行った時、ついでに買っときました」
「余計な買い物を……と言いたいところだが、策としては有りだな。一応褒めておく」
「一応褒められときます」
相変わらず生意気な従者の反応にミズミはツッコむ気も無いようで、頭に載せたカツラを整え、前髪を流し左右の横髪を確認していた。
「どうだ?」
カツラを身に着けたミズミは、髪が胸にかかる長さ、そして顔を少し隠す前髪と、今までの彼女とは雰囲気が変わって見えた。どちらかと言えばしとやかな印象を受ける髪型に、思わず私はその顔を覗き込んで笑顔になっていた。
「ミズミ、やっぱり綺麗〜! すごく似合う〜!」
素直に褒めれば、言われた方は少しばかり目を細めて呆れ顔だ。こういう反応はやっぱりミズミなんだけど。同じ様に彼女を見ていたウリュウもニヤニヤと楽しそうだ。
「わー、スティラ様、これで喋らなければ完璧です」
「喋らずに情報収集できるか」
即座にツッコミ返しているその間に、彼女の相棒も歩み寄り真顔で呟く。
「ミズミらしくない気もするけど、でも似合う。すげー綺麗」
「お褒めのお言葉どうも。それよりちゃんとティナと姉妹っぽく見えるんだろうな」
もはや外見の感想に興味のないミズミは、相変わらずのぶっきらぼうで目を細め、相棒を睨むようにして見上げていた。
「勿論ですよぉ。寧ろ今の方がいい感じですよ〜。ティナちゃんのお姉さんってところですかね」
あごを押さえながらそう答える細身の男とは別に、長髪の男は首を傾げていた。
「んー、喋らなければどっちかっていったら、ミズミの方が妹っぽい。しとやかに見えるし」
「歳的にはどっちが上なのかなぁ。ミズミかな、私かな?」
「ティナはそもそも自分の年齢も覚えてないだろ」
二人の会話に私も混じって問いかければ、鋭いツッコミが帰ってきた。そ、そうだった……私、自分の名前や家族は少しずつ思い出しているけど、自分が何歳なのか、全く覚えてなかったんだったけ……。
思わず口を閉じる私の隣で、ミズミは慣れない前髪を見上げるようにしてかき分けて答えた。
「ひとまず、ティナが妹で俺が姉でいいだろ。ティナは俺の名を呼ぶなよ。名を出せば怪しまれるからな」
「はあい、お姉ちゃん」
「あはは、お姉ちゃんだって」
「かわいい妹ができてよかったですねぇ、スティラ様」
早速ふざけて演じて見せれば、ハクライもウリュウも思わず笑顔なのに――何故かミズミだけ俯くようにして表情を変えなかった。その様子にはっとしたのは一瞬、すぐに彼女は相棒の男に声をかけていた。
「ハクライにはティナの恋人役でも頼むか。奴隷の中に俺の恋人がいたという設定にしておけば、ひとまず情報収集はしやすいだろ」
と、言いながら早速扉に手をかけようとするが、ここは案の定とでもいうべきか、私の予想通りの回答が返っていた。
「俺、ミズミの恋人役がいい。ティナの恋人探しにしとこう」
――やっぱり。
と、思ったのはどうやら私とウリュウだけだったようで、ミズミは扉に手をかけていた動きを止めて、怖い顔で背後の相棒に振り向いていた。
「……どっちだっていいだろ」
「じゃ、俺ミズミの彼氏ってことで」
相変わらず無邪気にニコニコと微笑んで相棒にそう言い切るハクライに、今やロングヘアの美女はあからさまに肩を落としてため息を付いていた。
「本当に私も旦那さんのこと探してるわけだし、返って丁度いいかもよ?」
ハクライの肩持ちをするように私が付け足せば、もはや抵抗の手を失った美女は無言で扉を開けていた。