王の作戦1
ミズミの作戦はこうだった。
「情報を聞き出すなら、女の武器を使った方が姦族は早い。ここはティナにも協力してもらおう」
食事を終えて部屋に戻れば行動はすぐだった。ミズミは、私を砂漠地区の女の人がよく着るような涼し気な服装に着替えさせた。そして肝心のミズミはまたあの男勝りの服を脱ぎ、薄着になっていた。尤も以前奴隷商人の牢屋で再会した時のような、ほぼ下着同然という格好ではなくて、ちゃんと服は着ていた。それでも袖なしの麻のワンピースで二の腕もあらわだし、胸のラインを強調する服のラインに、その上スカートの丈が膝上であれば、十分男性の気を引く服装だ。私はそのワンピースに似ているけれど、上に布を羽織り肩を隠して、スカートの丈ももっと長めにしてもらっていた。
「ティナは今までの服装でも十分だがな。明らかに服装がこの辺りのものとは違うから、警戒を避けるためにも着替えるしか無いからな……」
そう言いながら着替えた私の服を手直しするミズミの様子が、妙に心配しているように見えて私は首を傾げていた。
「質素な印象は受けるけど……なあに、そんなにこの服、変? 似合わないかな?」
言いながら自分の服装を確認していると、目の前の美女はため息をつく。
「肌の露出を避けろ。姦族はすぐに体に触れてくる。しかもティナほどの女なら、その外見だけでも男は寄ってくる。あまり俺たちの傍から離れるなよ。一人で行動はするな」
言いながら心底心配そうに私の顔を覗き込むミズミと目が合う。言われているセリフがセリフなだけに、ちょっとばかり私は落ち着かない気分になってしまう。
「そりゃあまあ……なるべくミズミの傍にいるようにするけど……。ちょっと、ミズミ、今の発言、なんだか彼氏的発言よ」
「何故そうなる」
即座のツッコミの後、呆れるような表情で彼女は目を細める。その時だ。
「もう着替え終わりましたぁ?」
部屋の外からウリュウの呼びかける声とともに扉をノックされる。その音にミズミは扉に向かって答えた。
「今終えた。メイカ、ハクライ。確認してくれ」
その言葉の後、扉が静かに開けられて男性陣二人が部屋に入ってきた。着替え終えた私達の姿を見て、ウリュウはヘラヘラと感想を述べた。
「相変わらず、スティラ様は別人になりますねぇ。ティナちゃんは着替えても十分かわいいよ〜」
「それはどうも」
軽いウリュウの褒め言葉に、なんだか気持ちがこもってないような印象は受けるけど、ひとまずお礼は述べておく。
「ミズミ、今回はそこまで薄着しないんだね。安心なような残念なような」
ハクライはミズミを見て少しばかり首を傾げている。そんな相棒に鼻を鳴らし、ミズミは作戦を打ち明けた。
「今回は例の奴隷商人から黒尽くめ達が大量に買い取ったと思われる奴隷の行き先を追う。俺とティナはその奴隷の中に家族や恋人がいたとでもしておけば追いかけていても怪しまれまい」
「成程ねぇ〜。奴隷狩りにあった身内を探している風にすれば確かに怪しまれませんねぇ」
「二人が聞いて回るの? 姦族相手に聞いていくとなると危なくない?」
茶髪の美女の提案に二人がそれぞれ反応すると、ミズミは一つ頷いて続けた。
「勿論危険があれば情報収集よりも身の安全第一だ。ハクライは念の為ティナの用心棒を頼む。メイカは別ルートで情報をさぐれ」
「はぁい、またあれこれ買い物しながら聞いて回ってるよ〜」
と、ウリュウはニヤリと笑って両手を頭の後ろに組む。どうやらウリュウは買い物しながらさり気なく情報を聞いて回っていくという作戦のようだ。しかし不納得そうなのは長髪の男だ。
「ティナの用心棒……ってミズミは単独?」
「ああ」
「…………俺も一緒に行く」
そう言うハクライの声が妙に低い。その様子に不思議に思って彼の顔を見れば、唇を尖らせてあからさまな不機嫌顔だ。隣のミズミが重いため息をついていた。
「……俺は一人でも十分だ」
「一人で行くってなったら、また姦族に言い寄られるでしょ」
「それが狙いだっつってんだろ。情報得るためだ」
「……体触らせない?」
「易々と触らせるか。俺だって嫌なことに変わりはないんだよ」
「…………触られる危険があるなら俺も行く」
「お前はティナを守れ」
「じゃ、三人で行く」
「手分けする意味がなくなるだろ!」
「まあまあ、二人ともまず落ち着いて〜」
もはや喧嘩が始まりそうな二人にぽかんとしていると、二人の間に細身の男が割って入って仲裁していた。
「もー、要は肝心の情報が手に入ればいいんでしょ、スティラ様。ハクライがスティラ様のこととなったら折れないの、よく知ってるでしょ〜? ここは三人で行って、一気にたくさん情報得られそうな場所を攻めればいいじゃないですか〜」
仲裁しながらも何処か楽しそうにニヤニヤしている従者に、ミズミは一睨み効かせてウリュウを一歩後退らせていた。そのままの顔でハクライを睨むけれど、相棒の男はそれには全く動じずまだあの不機嫌顔のまま、ミズミをじっと見ている。その様はまさに――
「なんだか痴話喧嘩中の恋人みたい」
「誰が恋人だっ!」
思わず漏れた言葉に、ミズミの怖いツッコミが私に響いていた。