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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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正解への法則性3


 昼頃に拠点に戻った私達に、黒髪の男性は本当に目を丸くして驚いていた。

「わー! 雪崩象じゃん! 初めて喰うー!」

 そんな事を言って嬉々としている様子は、本当に大の大人とは思えないくらい無邪気だ。

食料調達は大成功と言っていいだろう。なんて言ったって特大の獣を見つけて、それを無事持ち帰れたのだから。とはいえ、頭だけでもまさに大木一つ分くらいの巨大すぎる獣……そりゃあ見た目は完全に象だもの、大きすぎるよね……。

ミズミはこの雪崩象とかいう巨大な獲物を見つけた直後、そりゃあもう瞬殺の勢いで象の首を落として、即座に首も体も雪に埋めたのだ。程なくして首が凍って血が出なくなったことを確認してから、まずは首だけ引っ張っるようにして持ってきて、拠点に運んだというわけだ。無事食料を確保できたのはいいけれど、正直獣を見つけた時は、あまりの大きさに焦りまくったけどね……。

「お前、体力戻ったら胴体運ぶの手伝え。ひとまず凍らせてきたから悪くはならんだろう」

 焚き火の前で座るミズミは、まさに肩で息をするような疲れた様子で、うなだれて大きくため息を漏らしていた。やはりあれだけ巨大な獲物を一人で引っ張ってきたんだもの。疲れない筈がない。実を言うと魔物を仕留めた後、勿論私も運ぶのを手伝うと名乗りを上げたけれど、そりゃあもう微塵も役に立たなくて、獲物運びは結局ミズミ一人でやっていたのだ。それにしても彼女の術は本当に種類がたくさんあって感心する。あの細い体でどうしてこれだけの獣を運べるのかしら。

でもそんな感心をする傍ら、ミズミの優しさに温かい気持ちにもなっていた。ハクライのためにそうやって無茶をする辺り、なんだかんだ言ってやっぱり優しいんだなぁ、なんて思って思わずにやけてしまう。本当に素直じゃない人だ。

「ミズミ、わざわざこんなでかい獲物仕留めてくれたの? ありがと」

 焚き火の前でうなだれる相棒の隣に歩み寄り、顔を覗き込むようにして礼をいう男は、あいも変わらず無邪気な笑顔だ。そんな笑顔をちらと横目で見て、また彼女はため息をつく。

「そう思うなら、今後無茶するなよ。やばくなる前にしっかり飯食え」

「はーい」

「流石スティラ様〜、本気になればこんな獲物も余裕ですねぇ〜」

 急な声に背後を向けば、つい今しがた拠点に戻ってきた細身の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら上着を脱いでいた。そう、ミズミの従者ウリュウだ。確か氷の洞窟を一人見に行っていた筈だったけど、同じタイミングで帰ってきたようだ。

 ウリュウはニヤニヤと楽しそうな様子で主を見て、軽口を続けていた。

「いやぁ、スティラ様もそれだけハクライを心配してくれているっていう、まさに愛の形ですよねぇ〜」

などとからかえば、次の瞬間、鈍い衝突音とともに細身の男の顔には薪が一本張り付いていた。目にも留まらぬミズミのツッコミだ。見れば鋭い目線で従者を睨む茶髪の美女の顔が本気で怖かった。

「――で、メイカ、貴様の方はどうだった。例の洞窟、法則性は合っていたか?」

 ミズミのその言葉に思わず驚いて振り向けば、従者の男は顔に張り付いていた薪を両手で回しながら、赤く腫れた顔でニヤリと笑って答えた。

「スティラ様の読み通り〜。今までの正解ルートは全てその法則でしたよ〜」


 その日の午後、ミズミとウリュウは今回の氷の洞窟について種明かしをしてくれた。

「落ち着いて考えてみれば、あの氷の洞窟、正解のルートに法則性があるんじゃないかと思ってな」

 焚き火の前でお茶を飲みながら、ミズミはそう切り出した。

「振り出しに戻される魔法陣と先に進む魔法陣……。この数日進んでみて、正解は全てバラバラだと思ったんだが、一つ妙なことに気がついたんだ」

「妙なこと?」

 ミズミの言う法則性になんて、全く気が付かなかった私は本気で首を傾げていた。茶髪の美女は、そんな私にちらと視線を向けて頷いた。

「氷の壁についていた明かりだ。あの明かり、全て魔法で作られたライトだったろう?」

 その言葉に、私は氷の洞窟の姿を思い出して頷いていた。

「ライトの数は等間隔、明かりの強さも変わらない。だがあのライト、時折種類が違う物が混じっていたんだ。気がついたか?」

 その言葉に私は驚いていた。

「え、全部一緒だと思ってた」

「俺は何も違いが分からない」

「そりゃあ、ハクライは魔力を感じ取る力はないから無理もない」

 私に続いて感想を述べる長髪の相棒に、ミズミは一言ツッコんでお茶をすすった。

「意識して探れば分かる。ただの光の魔力を放つライトもあれば、炎の力をわずかに秘めるライトもある。わずかに赤みがあるから、明日注意して見てみればいい」

「で、そのライトに法則性があったの?」

 答えを急ぐ私に答えたのは、細目の男だった。

「そ。ボクもスティラ様に言われるまで気づかなかったけどさ、炎のライトが多い方のルートが必ず正解だったんだよぉ。今日、今までのルートを意識して進んでみて分かったよ」

 その言葉に私は思わず声が明るくなった。

「じゃあその法則性がわかれば……氷の洞窟の最深部まで行けたようなものじゃない! すごい、ミズミ!」

 私の褒め言葉に、ミズミは薄っすらと微笑んで鼻で笑うだけで、一方で細身の男が口を挟んでいた。

「そしてちゃんとそれを確認できたボクもすごいんだから〜。魔物全て避けて昨日の道まで全部戻って確認して、そして無事に戻ってこれちゃうボクの働きも褒めてほしいなぁ」

「はいはい、ウリュウもすごいすごい」

「ちょっと〜! ティナちゃん、それ気持ちがこもってない!」

「メイカ、よしよし」

「ハクライによしよしされても嬉しくな〜い!」

「……メイカ、五月蝿い」

 焚き火の赤に照らされた洞窟に、私達のにぎやかな声が平和に響いていた。



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