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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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相棒への想い1



「ミ、ミズミ……⁉」

 予想してなかった行動に、見ているだけなのだけれど、私の方が動揺していた。しかもミズミは気を失っているようなハクライに対して、軽く唇を重ねる程度ではないような口付けだ。彼の口をこじ開けるように舌を入れて、しかも濃密なキスのようにそれを絡めているように見えて、思わず見ているだけの私が赤面してしまう。

「え……ミ、ミズミ……一体どうしちゃったの……?」

 まさか、死ぬ前にちゃんと気持ちを伝えようと思ったとか……なんて妄想している私に、隣のウリュウが感心したようにああ、と声を漏らしていた。

「……ああ〜、逆手に取ったね、スティラ様」

「へ?」

 ウリュウの発言が理解できなくて彼の方を向けば、いつもならあの薄ら笑いを浮かべる筈の彼が、あごを押さえるくらいにして真顔で頷いていた。

「え、何が……逆手……え……?」

 素で分からなくて疑問を投げかける私に、ウリュウはようやく薄っすらと笑って小声で答えた。

「ほら、ハクライもスティラ様からの口付けじゃ、断らないだろうしね」

 その言葉に意味が分からず首を傾げていると、今度はミズミの様子に変化があった。

「んんっ……」

 唇を重ねているから当然なのだけれど、ミズミは言葉にならない声を上げ、まだハクライに口付けていた。でも先ほどと様子がちょっと違う。ただ倒れているだけだった筈の黒髪の男がわずかに動き、その喉の動きから恐らく彼が何か飲み込んでいる様子なのは分かった。でもその後に続く動きはまた少し違う。彼の頭の動きから、ミズミの口づけに応えているような素振りが見て取れる。一方でそれに対してミズミは腕を伸ばし、彼の顔から離れようとしているように見えた。

「ん」

 今度の声はハクライだった。倒れているだけだった男が急にその両手を伸ばし、自分に口づける相棒の頭に手のひらを広げて、そのまま後頭部を押さえるようにして自分の顔に押し当てていた。彼の胸の上に置かれたミズミの手のひらが、焦るようにギュッと握りしめられている間に、彼はもう片方の手でミズミの肩辺りを押すように抱きしめて、彼女の体が自分から離れないようにしていた。その様子は、まるで抱き合って口づける恋人同士のよう。激しい口づけの様子に、思わず私は火照る頬を押さえて深く息を吸っていた。

「きゃ〜……なんか、愛し合ってるみたい……」

「あはは、間違いじゃないねぇ〜。おっと、いつまでもボクらがここにいたらお邪魔かな〜」

などとウリュウがニヤニヤしながら踵を返して距離を取ろうとする傍ら、私は見ちゃいけないような気持ち半分、見たい気持ち半分、チラチラ横目で彼女たちを見ていた。その間にも、呼吸が荒くなるミズミの様子が色っぽく見えて、見ているだけの私がドキドキしてしまう。

「んん〜〜〜っ!」

 喘ぐような叫ぶような曖昧な声を出して、ようやくミズミが体を起こした。顔を真赤にして呼吸が荒いミズミは、耳まで赤くして地面に座り込んでいた。しかも先程の戦いで切り裂かれた服が彼女の胸元をあらわにしていて、その様子だけでもだいぶ艶めかしい。

「ん、惜しい。もう少し」

 言いながら、のっそりと起き上がったのはハクライだ。見ればその顔色には僅かに赤みが戻っていて、唇の色も元通りだ。先程まであんなに濃密なキスをしていたというのに、全く色気のない様子で起き上がる男は、相変わらずの雰囲気だ。それでも自分の唇をひとなめして、ミズミを見つめる様子はいつもの様子とは少しばかり違って見えた。少しは男性らしい、といったらいいのかしら。

 そんなことを思っている傍らで、ミズミは完全に慌てたような様子だ。彼女にしては珍しく動揺していて、相棒からわずかに距離を取るように座ったままずりずりと後退った。

「お、お前なっ……後半目的が変わってただろっ!」

 言っている意味は分からないけれど、彼女たちには通じるのだろう。言われた男は少し考えるような素振りをした後、その起き上がった半身をミズミに近づけて答えた。

「うーん……だって色んな意味で美味しかったから」

「貴様な……っ……死にかけてなければこの場で殴ってるところだっ!」

「まあまあ、スティラ様。ハクライも意識を取り戻したんだし、よかったじゃないの〜」

 怒りで震えだす美女をなだめるのは、案の定、従者のウリュウだ。またあのヘラヘラと楽しそうな笑みを浮かべて、本当に主の今の状況を心底楽しんでいる様子だ。

「一体何があったの? ただ口付けしていただけに見えたけど……」

私の言葉に、ミズミが赤い顔のまま一瞬私を睨みつけるけれど、動揺しすぎているのか言葉は続かない。代わりにウリュウが答えていた。

「えーと、詳しく話すと……スティラ様はさっき無理矢理自分の血をハクライに飲ませていたんだよね。口に指突っ込んだのは、口の中を切るためでしょ。で、そのまま口付けする様にして、血をあげていたってことだよね?」

その説明にようやく事態が飲み込めた私とは裏腹、ミズミは口を手の甲で拭うくらいにして、ばつが悪そうな表情だ。

「緊急事態でなけりゃ、こんな手段はとらん。そもそもハクライ、貴様が無理するから――」

と長髪の男に首を向けて声を荒げると、思いがけず言われた本人は俯く様に頭を垂れて動かなかった。その様子に私だけでなく、声を荒げていたミズミまでもはっとする様な表情で動きを止めていた。

「ハクライ、大丈夫? まだ調子悪いの?」

「…………まだ動くにはきつかったか……」

心配して私も彼の近くにしゃがみこみ、ミズミも顔を覗き込む様に少し頭を近づける。でも考えれば無理もない話だ。さっきまでそれこそ貧血気味のように意識が朦朧としていたところから、急に動き出してあれだけの戦いをしたんだもの。まだ本調子ではないのだから、動けないのも無理はない。しばらく動かずにいる男は、間をとって震えるようなため息をついたように見えた。


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