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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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危機回避1



「きゃあ!」

 思わず叫んだ直後、何かを弾くような硬い音が響いて、私の周りが一瞬光った。はっとして目線を上げれば、私を取り囲むように薄い光の膜が輝いていた。揺らめく魔力の流れが、そこにはっきりと見えた。そうだ、ウリュウが施した結界の術が発動したんだ。

 それに安心したのは一瞬だ。私は攻撃が弾かれて驚いていた喰族の一体に手をかざし、呪文を唱えていた。

『フレイ!』

 途端、真っ赤に燃える炎が敵の胴体に直撃して、獣の様な悲鳴とともに焼き付くような匂いが広がる。

「よし!」

 一体が怯んだ隙に私はもう一体にも炎の魔法を放った。焦りから私はすぐに彼女の方を向いていた。早く助けなきゃ、ミズミが――!

 でもまだ残るもう一体が私にまたその爪を向けていて、私は慌てて迫る敵の方を向く。直後またしても攻撃を弾く音が響いて、結界の術が発動していた。本当に強い結界だ。爪を弾かれた喰族の男は体制を崩していた。まさに攻撃のチャンス――!

『フレイ!』

 三度目の魔法を放って、私はようやくミズミの方に向き直る。彼女の様子を見てギクリとした。彼女はまだ動きを封じられたまま、あのリーダー格の喰族に首元に牙を向けられていて、今にも喰われそうに見えたからだ。思わず息を飲んでいた。

「お前を喰い殺して、王の証を頂こう」

 そのセリフとともに敵の長い舌が、ミズミの首元を舐めていた。

 ――まずい、このままじゃミズミが喰われる――!

「ミズミ!」

 私が走り寄ろうとしたその時――隣を強い風が通り過ぎたような気がした。

自分の髪がなびくのと同時に、その風に気付いたその刹那だった。目の前の喰族のリーダーが何かがぶつかったかのように不自然に横によろめいた。それと同時に響く鈍い音。その音の直後、リーダー格の男が悲鳴を上げて、鮮血が縦に吹き上げた。

「え、え、ミズミ……⁉」

 一瞬ミズミがやられたのか、いや、ミズミが敵を攻撃したのか、そんなことを考えて混乱していた。でもその直後、彼女の足元にしゃがみこんでいる人物に気が付いて、私は息が震えていた。黒く長い髪、尖った耳、折り曲げるような長い手足――!

「ハ……ハクライ……⁉」

 予想もしない人物がそこに居た。ミズミの相棒であり今戦っている喰族と同族のあの男だ。彼、貧血気味のように青白い顔をして、歩くのもやっとだった筈……! とても戦えるような状況じゃなかった筈の彼が、今ここにいることが信じられなかった。でも彼があのリーダー格を攻撃したのは疑いようがなかった。

 相棒の男はミズミの危機を察して、あの体で攻撃を仕掛けたんだ。あの状態でこんなにも強い彼に、そしてそこまで動けたことに、少なからず私は安堵の気持ちが湧いていた。

「くっ!」

 直後、動きを封じられていたミズミが、今の相棒の攻撃に敵が驚いた隙を突いて、自分を捉えていた三人に回転するように脚を薙ぎ払った。

 その様子に私がホッとしたのも束の間、思いがけず鋭い声が響いていた。

「ハクライ! 無茶するな!」

 しかもその声が敵ではなく、仲間に向けられたことに私は驚きを隠せなかった。しかし――呼ばれた男はそれには答えなかった。

「ガァアアアアア!」

ぎょっとする唸り声だった。あの温厚なハクライが、ミズミが振り払った三人がまだ立ち上がる様子を見て、彼らに唸るようにして攻撃を繰り出していた。素早く腕を突き出し敵に殴りかかると、その攻撃の勢いに敵二体が吹き飛び、壁に激突していた。残るもう一体をミズミが蹴り飛ばしている最中、まだ彼女に襲いかかろうとする喰族が男の視界の隅に入れば、そちらにも彼は容赦なく腕を薙ぎ払い、直後敵の悲鳴とともに鮮血が迸る。

その激しい戦い方は、今までとは明らかに違って見えた。例えるなら、相手に敵意を剥き出しにし、怒り狂うように攻撃を繰り出している感じだ。あの大きな口を怒りに歪め、その瞳は見開かれて、彼女を襲う同族に容赦なく襲いかかっていた。

そんな様子の相棒に、ミズミは攻撃を遮るように彼の腕を取り再び声を荒げた。

「動くな! これ以上無茶をすると――」

 しかし彼女の静止も聞かず、今度は彼女の背後で立ち上がったリーダー格に飛び掛かるようにして襲いかかっていた。

「ハク!」

 あの体で、あの状態でありながら、長身の男は容赦なく敵の首元を掴み上げ、吊るし上げるようにして敵の首を絞めていた。敵を両手で吊し上げ下から睨みつける男は、黒髪を乱し腕を震わせ、口を怒りに歪めていて、傍から見ている私ですら恐怖を覚えた。

「……今すぐ出てけ……。ミズミに手ぇ出したら容赦しない……!」

 絞り出すように声を出す彼の声にはまさに鬼気迫るものがあった。血の気のない青ざめた顔に鬼のように爛々と鋭く光るあの細長い瞳孔、そして爪が尖って敵の首元に刺さるようにして締め上げるその手の動き、その全てに彼の殺気が溢れていた。

爪に刺され、血が流れる首元を押さえるようにして、リーダー格が自分の首に震える手を伸ばす。睨みつけられ締め上げられ、男の顔が苦痛に歪む。流石に命の危機を感じたのか、喰族のリーダーはその青ざめた顔でかろうじて頷いたように見えた。

 それに気付いたのか、ハクライは吊し上げた男を入口付近へと投げ捨てるように腕を降る。その反動で敵は首を更に引き裂かれたようで、僅かな血しぶきが地面に飛び散る。直後入口付近で、あの男はむせるような声を吐きながら地面に突っ伏した。そんな男に、今度は容赦なくミズミが蹴りを入れ、拠点の外へと蹴り飛ばしていた。

「二度と俺の前に現れるな! 次こそ命はないと思え!」

 言い捨てるミズミの瞳は濃い紫色に燃えていて、彼女が激しく怒っていることがその声色にも表れていた。二人のその様子に恐れをなしたのか、リーダー格の男は唸るような声を上げ、体を引きずるように洞窟の暗闇へと姿を消していった。続いて彼の仲間の喰族も慌ててリーダーを追うように走り去っていく。

よかった――再び、あいつらを追い払ったんだ――!

 彼らの姿が闇に消えていくその様子を見て、私はようやくホッと胸をなでおろしていた。そのまま安堵の気持ちから暗闇を見つめていると、逆に細身の男が暗闇から浮かび上がるように、こちらに歩み寄ってきているのが見えた。


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