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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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気遣い2


 拠点の洞窟に戻れば、雪を払うようにしてミズミが首を振り、毛皮に続いて上着の首元のボタンを少し外して首元から肩にかけて積もった雪を落としていた。

「それにしても寒かったね」

「ああ、あの洞窟……ただ氷故に寒いってわけではないだろうからな……。奥に行けば行くほど冷えてくる。少しあの洞窟の中で、暖が取れる準備をしておいても良いかもしれんな」

 ミズミのそんな言葉を聞きながら、私も髪についた雪を払う。そんな私の後ろでは、フード付きのローブを外してバサバサと大げさにそれを振るウリュウが目を細めて笑っていた。

「今日の夕食はどうしましょうね〜。ボク作ります?」

「スープを作ってくれるなら、お前に任せるか。焼き料理はお前焦がす確率高いからな」

「あはは、アレくらい焦げ焦げがボク好きなんですもん〜」

「全員の好みで作れ」

 そんなやり取りをしている最中、やはり長髪の男性だけが無言で私は思わず心配になって背後を見た。まだ雪を頭に付けたまま何処かぼんやりしているハクライに、私が歩み寄ろうと一歩踏み出した時だった。私の隣で、同じ様に彼を見ていたのか、ミズミが彼に手を伸ばしていた。

「ハクライ、雪くらい落とせ。体が冷えるぞ」

 言いながら彼の長い髪に付いた雪を払う彼女の行動は、なんだかんだ言って彼を気遣っているのがよく分かる。ミズミはそのまま見上げるように彼の顔を覗き込んでいた。

「……貧血気味って感じだな」

「……大丈夫。飯食えば多少マシになるから」

 彼を見上げるミズミの表情は思っていたよりも暗い。私も心配になって歩み寄る間、ミズミは自分の指を口元に当て、噛んだように見えた。そしてそのまま指先を彼の口元に持っていく。

「……ハク」

 そう言って彼の唇に指を当てようとした直後だった。名を呼ばれた男は突然はっとしたように目を見開き、一瞬その唇が動いた。しかし即座に首を振り、ミズミの差し出したその指を手のひらごと掴んでうなだれた。

「……駄目。ミズミ、気持ちだけでいい。ありがと」

 そう言って深く息を吸う男に、ミズミは目を細め無言で見つめていた。しかし暫しの間を挟んで、彼女は静かに口を開いた。

「……分かった。早いとこ飯としよう。メイカ、料理頼むぞ」

「はあい」

 ミズミはそう言ってすぐに歩き出すけれど、ハクライは俯いたまま動かない。私は逆に彼に歩み寄って、さっきのミズミの動き同様見上げるようにして彼の顔を覗き込む。

「ハクライ、大丈夫?」

 私の問いかけに、ぼうっとしていた瞳にようやく光を戻して、切れ長の瞳を閉じるようにして彼は微笑んだ。

「ん、心配ありがと」

 そう言ってようやくハクライも歩き出した。それでも歩く速度もゆっくりだ。私は彼を追い抜いてミズミの隣にまで歩み寄ると、そっと耳打ちするようにして声をかけた。

「ハクライ……本当に調子悪そうね……」

 その言葉に、ミズミは一つため息をついて囁く。

「飢餓状態になりかけているから無理もない。自我を失う一歩手前ってとこだ。自分を保つのに精一杯なんだ。早いところ飯にしてやろう」

 その言葉に、私は一つ疑問に思っていたことを口にした。

「……ねえ、飢餓状態ってなんなの?」

 ミズミは一度だけ私を見て、すぐに視線を前に向け小声で説明してくれた。

「飢餓状態ってのは、誰にでも起こりうる。栄養不足で体が危険を感じて、体の仕組みを変えてくる状態のことだ。俺たち樹族なら水分を失わないように水の消費が極端に落ちるし、お前達精霊族も何らかの反応がある筈だ。喰族の奴らは飢餓状態になりやすい。血が足らなくなれば、段々意識が朦朧として飢餓状態になる。奴らの飢餓状態は見境なく何でも噛み付くようになる。草でも動物でも人でも、食えそうなものなら何でもだ」

 その言葉に、先程のミズミの動きが脳裏に浮かんで私は首を傾げていた。

「もしかして……ミズミ、自分の指を差しだしたのは……」

「ああ、今なら俺の血くらい飲むかと思ったんだが……アイツ、頑なだ。必死に自制している。無理しない方が良いんだがな……」

 そう言ってまたため息をつくミズミは暗い顔だけれど、その裏に彼を気遣う様子が見えて、私は少し嬉しかった。

「……やっぱりミズミ、ハクライに優しいわね」

 その言葉に、ミズミは一瞬だけ目を丸くしてすぐに呆れるような表情に変わる。

「……死にかけてる時くらい、優しくしてやらんとな」

「またそんなこと言って……。素直になればいいのに〜」

 私のからかうような口調に、ミズミが口を開きかけた時だ。唐突に彼女の口の動きが止まった。



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