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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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氷の洞窟2



 しばらく私達はそうやって正解探しに明け暮れた。始めは手分けしようかと言う案も出たが、それは即座になくなった。というのも転送された先に魔物が出始めたからだ。

「氷の魔物か……下手に攻撃を食らって壁に触れても危険だ。ティナは絶対に逸れるな」

 ミズミはそれを警戒して、基本的に先制攻撃で魔物を蹴散らしていた。さほど強くない魔物なのかミズミが手こずる様子もなく、時折ハクライが援助する形で魔物の攻撃は受けることもなく道を進めることが出来た。

 それでも、攻略は一日でそこまで進まなかった。半日近くその洞窟の中を行っては戻り進んでは戻され、を繰り返し、ミズミがとうとうその日の攻略を断念した。

「今日はここまでにしておこう。雪山で夜を迎えるのは危険だからな、拠点に戻って今日はもう休もう」

 彼女の落ち着いたその態度で、私は察していた。この洞窟攻略は時間がかかること、そしてこの作業がしばらくは続くのであろうことを――。


 拠点として準備を整えた洞窟で一日目の夜を迎えることとなった。攻略すべき洞窟から戻ること十数分。日の暮れかかった雪山の洞窟は、入り口がすぐに雪に埋もれてしまう。でもミズミはその埋もれた入口を難なく見つけて、私達が入れる程度の穴をすぐに開けてくれた。なんでも彼女の術で物探しは簡単だから、こういう時にもそれが役立つのだそうだ。そんな彼女の特技に感心している暇もなく、拠点の洞窟内ではすぐに夜を過ごす準備に追われていた。

「メイカ、火をおこせ。魔物の油を使えば火持ちもいい。ハクライ、この鍋に雪を山盛り持ってこい。ティナは寝床の準備だ」

 ミズミに指示されて動いている間、この日は、珍しくミズミが夕食を担当してくれた。独族の大陸では、食事はウリュウか私が作ることが多かったから、彼女の手料理は久しぶりかもしれない。ミズミは雪の町で買い込んだ食材で、煮込み料理を作ってくれたのだった。

「魔物の肉で作ったからな、ティナの口に合うかだけが心配だな」

 そう言って出されたのは、何かの肉が野菜とともに煮込まれた料理。匂いは変な感じはしないけれど、見た目の色合いは確かにすごい。ほんのりと緑色で、これが野菜の緑ではなくて肉から滲み出た緑色なのだから、流石にちょっとばかり警戒してしまう。

「こ、これ……食べられるよね……?」

 思わず問いかけて隣を見れば、既に長身の男はガツガツとそれを平らげていた。

「美味い、コレ。おかわり」

「ボクも〜!」

 警戒する私とは裏腹に、ハクライもウリュウもそりゃあもう凄まじい勢いで料理を平らげている。つい今しがたミズミがよそった料理を、既にハクライは平らげそうな勢いだ。

 男性陣二人の反応に、私は覚悟を決めてスープを啜ってみた。口に広がる慣れない香り……そしてその後口に広がるのは……

「………………あ、美味しい!」

 思ったよりも普通にお肉の旨味が感じられて、私はホッとしていた。でもそれはミズミも同じだったようで、茶髪の隙間からわずかに微笑む顔があった。

「ティナが食えるなら成功だな。陰の気の強い魔物じゃないから、ティナにも食べやすい筈だ。安心しろ」

「うん、ありがとう」

 冷えた体に暖かい料理は、本当に五臓六腑に染み渡る。料理を半分ほど食べたところで――違和感を覚えた。見ればミズミの皿には私達が食べている料理とは違ったものが載っていたのだ。

「あれ、ミズミは? 食べないの?」

 私の問いかけにハクライもウリュウも、そこで初めて彼女の様子に気が付いたようだった。彼女の皿の上にあるのは何個かの木の実が乗っているだけで、私達が食べている料理には手を付けていなかった。

「ああ〜……そっか、スティラ様はそっちの方がいいですもんね」

 ウリュウの言葉に疑問を感じていれば、ハクライが肩を落とすようにして続けた。

「そっか……忘れてた……。ミズミ、自分が食べれるもので作ってくれていいのに」

 意味が分からず彼らを見ていると、話題の美女は鼻を鳴らすくらいにして口の端を歪めていた。

「単純に作ってみたかったんだよ。折角いい食材が見つかったしな。それに明日以降は食料も現地調達だ。うまい飯は今日までだと思え」

「そういうことですか〜」

「気遣いありがと、ミズミ」

 そう言われたせいか、男性陣二人は取り合うようにして料理を食べていた。私はそんな二人を横目で見つつ、彼女を盗み見るようにしてスープに口をつけていた。視線の先で、何処となくミズミが憂いだ表情をしている気がして、私はそれだけが胸に引っかかっていた。





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