準備期間3
「お遣いご苦労」
宿に大量の買い物の品と共に戻れば、ミズミは椅子に座って優雅なお出迎えだ。暖炉の前に腰掛けて、小さなテーブルの上にはお茶と先日の女性たちから頂いた焼き菓子、それを楽しみながら片手に地図を広げている姿は、私達とは対照的。雪にまみれて寒さに手足の先が凍えそうな私達とはまるで逆だ。
「もー! 寒い中買い物してきて大変だったんだから〜! ミズミばっかり暖かいところでゆっくりしててずるい!」
思わず本音が漏れれば、ミズミは椅子に腰掛けたまま肩を揺らして愉快げだ。
「悪かったな。買い物はどうだ、全部揃ったのか?」
「多分。リスト通り買えた筈だよ」
雪を払いながら応える長身の男にミズミは歩み寄り、つい今しがた彼が下ろした品物をしゃがみこんで確認し始まった。
「……この量では荷造りを考えねばな。ティナ、ハク、机の上にお前達のお茶もある。少し休め」
その言葉にハクライも、思わず私もほっと安堵と嬉しさからため息が漏れた。
「え、いいの? やったぁ〜! 寒かったの〜!」
「あ、このお菓子も食べていいの?」
「ハクライ、お前食べたがってただろ。残しといてやった」
「わー、ありがとー」
「ふふ、良かったわね、ハクライ」
「うん」
そんな私達の平和なやり取りに、ミズミが目を細める様に笑っている顔が視界の隅に映った。時折見せる、あの綺麗な笑顔だ。戦いの場にいなければ、こうして美人な笑顔も見せるけれど、そういう顔をしている時は本当に少ないんだなと改めて痛感してしまう。
「……お前達、似てるな」
唐突にミズミが口をつく言葉に、私もハクライも彼女の方を向いていた。そんな私達を見て、茶髪を揺らして彼女は笑う。
「くく……そういう反応も似てる。お前達、ある意味お似合いかもしれんな」
思いがけない言葉に、私もハクライもお互いの顔を見ていた。見れば私も彼も同じ様に口に焼き菓子をくわえていて、動きも、今の格好も、同じであったことに思わず笑ってしまった。
「ぷっ、ホントだ」
「あはは、ティナと俺、同じことしてた」
そう言ってまた笑う私達を見て、やっぱりミズミは穏やかに笑っていた。それに気付いて私もハクライも、彼女の方を見てその顔に見惚れていたに違いない。私達の視線に気が付いて、茶髪の美女は不意に口の端を歪めていつもの意地悪な笑みに変わった。
「いっそのことハクライ、ティナを嫁にもらってやったらどうだ?」
からかうように、でも何処か穏やかにそういうミズミに、私は思わず反射的に口を開いていた。
「な、何言ってるのよ!」
しかしミズミの発言を更に上回る発言を隣の男は口にした。
「ん、俺もう相手決めてるから、それはない」
「ええ〜⁉ そうだったの〜⁉」
思いがけない発言に私は思わず立ち上がっていて、ミズミですら目を丸くしていた。
「……やはりお前は読めなさすぎる……」
思わず呆れるように呟く茶髪の美女に、相棒は変わらずケラケラと笑っていた。
「あはは、ありがとう」
「褒めとらん」
そんな呆れている美女とは裏腹に、私としてはハクライが決めているという相手の名前はぜひ聞き出したくなった。恐らく、今目の前にいる彼女なんじゃなかろうかと思いつつ、質問を投げかけようとした矢先だった。