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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第6章「守る者、攻める者」
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準備期間1


 思い出すことが増えてくる度に、私の中の不安は大きくなっていくばかりだった。

夢で言われた「光の神官」……それは一体何なのだろう。自分が何者なのか、いくら夢でヒントを得ても、ちっとも答えに近づいている気はしなかった。

それよりも、思い出さなきゃいけない大事なことがあることだけが分かってくる。そう、私にとって大切な人――その人に関して大事なことがあった筈だ。でもそれは一体何――? 思い出さなきゃいけないことがある。大事なことがあった、ということだけがハッキリ思い出されて、肝心の「思い出さなきゃいけないこと」、それが一体何なんなのかが分からない。

でも確実に言えることがある。私には大切な人がいた、ということだ。もしかしたら、私の旦那さんかも知れない人。でも――その人の姿が――まだ思い出せない。

 以前夢で見た緑の髪の男性の姿を思い出してみる。でも……なんだろう、その人が私の最愛の人だと夢で見た筈なのに――それが違う気がしてならない。その人のために必死になっていたのだろうか――いや、ちがう。

 あの人では――ない。

 何故かそこだけは確信をもってそう思うことが出来た。心の奥にある私のあやふやな記憶が、何故かそこだけは強く私に訴える。でもだとしたら、あの緑髪の青年は誰だろう? 私とあの人の子供……と言っていたのに……私の最愛の人は――あの人ではない……。考えるほどに謎が深まって答えは出てこなかった。

 あと一歩で思い出せそうな人の姿が出てこない。思い出されるのは白くて大きな手ばかり。そして、彼とのあのやり取り――苛立つこともあるけれど、素直じゃなくて、でも優しさを隠していて、愛おしい、あの感覚――。

ぼやける意識の向こうを探るように強く瞳を閉じるけれど、そんなことをしても案の定何も思い出せなかった。代わりにふと脳裏に浮かぶのが――茶髪をなびかせる、緑色の瞳をした美青年と見間違うほどの美女――。どうしても、あのやり取りは彼女のそれと似ていて、そしてあの感覚がミズミといつもしているやり取りと同じで、愛おしいあの人を思う時と同じように、胸が切なさで苦しくなる。私は深く息を吸い、落ち着かせるように息を吐いていた。

 起き上がれば、雪深い町はまだしんとしていて、窓から差し込む朝日が目に眩しい。ちらと視線を窓とは逆方向に向ければ、私に背を向けて横になる茶髪の人物の頭が見える。まだ胸がきゅっとなる感覚を覚えながら、私は彼女に背を向けてまた布団をかぶった。

 変にあの面影を彼女に見い出すのはやめよう。だって彼女は……女の人じゃない……。

私は再び深く息を吸い、瞳を閉じて二度寝しようと毛布をかぶった。





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