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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第5章「危機に陥る王、仕える従者」
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信頼2


「ね、ミズミ」

 寝る直前に、私はミズミのベッドに腰掛けて声をかけた。

「どうした? やたら楽しげだな」

 まだ体力が戻りきっていない茶髪の美女は、今度こそ女らしい格好で私に顔を向けていた。上着を脱ぎ袖なしの服一枚だけを来て、私に腕を差し出すその体つきは、やはり女性らしい胸の膨らみもなだらかな体の線も隠せていなかった。昼間の勇ましい男装とは対象的な格好だ。因みにこの薄着になるために、男性陣二人は一時的に夜の街へ買い出しに行かされていた。

 私は差し出された腕に治癒魔法を発動しながら、ミズミに話を続けていた。

「ミズミがどうしてあんなに女の子にモテるのか、今日ハクライとウリュウと話してたの。本当に女の子には優しいよね」

 私の言葉にミズミは予想通り、口の端を歪めて笑うんだ。

「そりゃあな」

「でも、私達にはそっけないよねって、話もしてたの。でもそれって、ミズミが私達をそれだけ信頼してるからなのよね?」

 上目遣いでわざと探るように尋ねれば、ミズミは少しばかり不機嫌に眉を寄せて答えた。

「……そっけ……なかったか?」

「ないわよ! 思いっきりぶっきらぼうだし、時折憎まれ口叩くし、素直じゃないし」

「そこまで言われるか」

「でも」

と、呆れる美女に私は微笑んでみせた。

「それだけ、私達には気を遣わない、つまりは気が置けない仲ってことなのよね?」

 二度目の探るような問いかけに、観念したようにミズミはため息を挟んだ。

「……ま、確かに気は遣ってないな」

 そう言って意地悪に口の端を歪める様子は、あの女性たちには見せない顔だ。こんな顔を見ることが出来るのは、逆を言えば信頼されている私達だからこそ、なのかもしれない。そう思うと、からかわれてムッとするよりも嬉しい気持ちが勝っていた。

「ふーんだ、いいですよーだ。それだけ信頼されてるって受け止めるから」

「そうか、じゃあこれからも気は遣わないことにしよう」

「イジワル!」

 そんなやり取りをしてクスクス笑っていると、ふと彼女が前に言っていたセリフが気になった。

「……でもミズミ、私に口説き文句みたいなことは言ってたわよね。私が希望だ、みたいなこと。あれも他の女の人に言うセリフなわけ?」

 てっきり、またあの憎まれ口でからかってくるかと思った矢先だった。治療された右手を私の頬に当て、ミズミはあの綺麗な瞳を細めて私を見つめていた。

「……お前にしか言ってない。あれは本心だ」

 急に真面目な雰囲気でそんなセリフ、その上あの綺麗な瞳を切なげに細めて見つめてくるものだから、唐突すぎて私は思わず狼狽していた。

「きゅ、急に真面目にならないでよ、焦るじゃない」

 言いながら視線をそらす私に、ミズミは手を下ろし、かすかに笑って視線を窓に向けていた。視線が外れたことに少しホッとして逆に私が彼女に視線を向ければ、ミズミはその茶髪の隙間でかすかに微笑んでいた。その綺麗な横顔に見惚れていると、呟くように彼女は小さく唇を動かした。

「……お前のように自分の正直に、思ったことを素直に行動できる、そんな生き方をして欲しいんだ。好きなことを好きといい、嫌なことを嫌といい、誰にも虐げられない、そんな生き方を……どの女にもして欲しい」

 それが彼女の本心なのだろう。そして彼女の強い望みなんだ。そう思ったら、急に胸が熱くなった。ミズミがこの大陸でずっと戦い続けているその理由が、今の言葉に、そしてあの女性たちへの態度に、全て表れている気がした。

 不意にミズミは私に向き直った。あの緑色の穏やかな瞳が私を捕らえて、その綺麗な瞳に息が止まる。

「ティナ……お前がお前らしくこの大陸で生きられるよう、俺が守る。お前は迷わず、自分の成し得たいことを……自分に正直に生きてくれ」

 そう言ってまた私の頬を優しく撫でるその仕草に、今のセリフに、私は顔が火照るのが自分でも分かった。

「……も、もう! そんなことされたら、ミズミが女だって分かってなかったら、確実に口説かれたって勘違いする行動よ!」

 私は自分の頬を押さえながら思わず立ち上がっていた。そんな私の背後で、ミズミがため息をついているのが聞こえた。

「だからお前は口説かんと、前にも言った筈なんだがな」

「今のは口説き文句に聞こえます!」

「やれやれ……」

 言いながら私もミズミも自分のベッドに横になっていた。毛布をかぶって、少しばかり高鳴った胸を落ち着けていると、隣のベッドからミズミの声がした。

「ティナ、腕の回復、感謝する。明日も頼むぞ……」

 その言葉に私は無言で頷いていた。毛布の中で深く息を吸うと、私は熱い気持ちごとそれを吐き出していた。

――もう……セリフと行動がホント、天然たらしなんだから……。でも――

と、私は自分の胸を両手で押さえた。

(確かに、ミズミが女性だって気付いてなかったら……惚れる女の子の気持ちは分かるなぁ……)

 そんなことを思いながら、私は瞼を閉じていた。





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