信頼1
宿に戻れば、少しはミズミもゆっくり出来るかと思ったら……まさかの展開が待っていた。宿のロビーには何人もの女性がいて、やはりミズミにお礼をと何か差し入れを持ってきてくれていたし、食事に食堂に行けば、やはり何人もの女性に声をかけられた。
「先日はありがとうございました」
「気にするな。それより、怪我がなくてよかった」
「あの、まだこの町に居るんですか?」
「ああ、もうしばらくはな」
「よかったら、うちのお店にも来てください。お礼しますから!」
「気遣い感謝する。明日にでも邪魔してみるか」
「じゃあ私の所も! 隣なんです!」
「そうか、分かった。ところで……そこの女性は何か用か? 話したそうじゃないか」
「あ……は、はい……。その……よかったら、私のお店にも……」
「分かった、明日お邪魔しよう」
会話を聞くだけでも、集まった女性たちが次々声をかけてくるのがよく分かる。そしてミズミはといえば、女性たちに優しく微笑んで、どの人にも割と丁寧に対応しているのが不思議だった。
「なんか……私達に対する態度とは全く違う気がする……」
食事の席を立った途端、もう女の子に囲まれているミズミを遠巻きに見ながら、私達三人は夕食を摂っていた。
「うん、いつもミズミあんな感じ」
「スティラ様がなんであんなに女の子にモテるのか、ようやく分かったよぉ〜。本当に女の子には優しいんだねぇ」
ウリュウがそう言って頬杖つきながら、デザートの果物をつついている。その言葉に思わず私は頬を膨らませていた。
「そりゃあ確かに優しいけど……なんか、私の時だけ違くない?」
そう、一番の不納得部分はそこだった。ミズミってば私にはあんなに優しく笑わないし、あそこまで丁寧に対応してくれないし、どちらかと言うとぶっきらぼうな対応をされる気がする。同じ女性だというのに、私だけあからさまに態度が違うのが、何だか腑に落ちない。
そう思ってミズミを睨むように見ていると、ハクライがケラケラと笑っていた。
「あはは、ティナは確かに女の子扱いしてないかも」
「でしょ⁉ もー、一番近くにいるのに、なんでそっけないのかしら」
ミズミの一番の相棒にまでそう言われたら、やはり勘違いじゃないと確信できる。ますます納得いかない私に、長髪を揺らして彼は続けた。
「それだけ気を許してる証拠だよ。ミズミ、ティナのことは信頼してる」
その言葉に、私は目を丸くして彼を見ていたに違いない。私と目が合うと、ハクライは首を傾げるようにして笑っていた。
「……信頼……かぁ……」
そう考えれば、彼女のあの態度も納得できる気がした。私には……気を許してくれているから……逆に気の置けない関係ってことで……気を遣ってこないのかな……。
そう思ったら、逆に少しばかり嬉しい気持ちも湧いてくる。そんな私とハクライの会話を聞いて、視界の隅で肩を震わせるようにして笑う細身の男がいた。
「成程ねぇ〜。信頼してるから、逆にあんなそっけないのか〜。じゃあ、ボク達だいぶ信頼されてるってことですかねぇ?」
その言葉にハクライはやはり笑って答えていた。
「だと思う。ミズミ、俺達には本音で話してくれる」
「それは嬉しいことだけど〜、それでもやっぱり、もう少し可愛げがあったら良いんだけどねぇ〜」
そんな事を言う従者に、相棒の男はまた笑うのだ。
「あはは、そしたらそんなのミズミじゃないよ」
「あ、言えてる〜」
「ふふ、確かに」
思わずハクライの発言に、私達は同調して笑っていた。
きっと、あの女の子たちと同じなんだ。私達も――ハクライは勿論、ウリュウだって、私だって――ミズミのあの人柄に惹かれているんだ。