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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第5章「危機に陥る王、仕える従者」
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竜1



「一体どういうことなの?」

 ミズミを宿のベッドに横たわらせ彼女が休んだのを確認して、私の開口一番がこれだった。ハクライは何も言わなかったけれど、私と同じ気持ちであることは想像できた。無言ではあったけれど私と同様にウリュウを見つめる彼の瞳は、言葉ではない無言の圧をかけていた。

 そんな私達の視線を受け、ミズミの寝るベッドを挟んだ反対側では、ウリュウは一つため息を付いていた。

「二人共そう怖い顔しないの。説明するから」

言いながら、ベッドの近くに椅子を引っ張ってくる男は、面倒そうな表情でまたため息を付いた。そんな様子が気に入らなくて、私はじれったくなって身を乗り出す。

「説明して。ミズミの腕が……完全ではないけど、再生してきているなんて、一体どういうことなの? 私の術でも回復できなかったのに……。それに」

と、私は横目をベッドに向ける。固く瞳を閉じ、今は気を失っている様子のミズミを見て、私は一度唇を噛む。

「とても戦える状態じゃなかった筈のミズミが……町に来てアイツらを追い払ってくれた……。そこまで回復するなんて……普通じゃ考えられない」

言いながらウリュウに視線を向けると、目を細めて口を下向きに歪めている珍しい表情の男に気付く。いつもなら浮かべている筈の薄ら笑いもなく、苦々しい雰囲気だ。

「メイカが、ミズミを治してくれたの?」

 私の隣で、ミズミに毛布をかけながらハクライがぽつり呟く。言い終えて男に向き直るように座る位置を直す長髪の男に、ようやく細身の男はため息交じりに頷いた。

「……早い話が、そういうこと」

 なんとなくそんな気はしていたけれど、それでも腑に落ちなかった。私は思わず立ち上がっていた。

「一体どうやって……それに……そんな治すだけの力があるなら、どうしてすぐにでも助けてくれなかったのよ……。あんな苦しそうなミズミ……あの状態がずっと続いていたのよ。あの怪我をした時、すぐ治せばこんなことには……!」

「待て……ティナ……」

 予想外の声が聞こえて目が点になった。声の主はウリュウじゃない。驚いて声の方を見れば、緑色の瞳が薄っすらと開いて、話題の本人が私を見つめていた。

「ミ、ミズミ……! 寝ててよ、まだ傷は治りきってないし、明らかに憔悴してるわ」

 すると、口の端をわずかに歪めて静かに鼻を鳴らす、いつもらしい彼女の様子が見えた。尤も表情もその音もいつもの三割程度で、まだ本調子でないことはすぐ分かる。

「さっきほどじゃない……心配するな、寝てりゃ治る」

「じゃあ寝てなよ」

 即座にツッコむのはハクライだ。その声に、瞳を閉じため息をつくように息を吐く茶髪の美女に、長身の男は長い手を伸ばし、彼女の白い顔を隠す髪をそっとよける。その仕草が優しく見えて、私にはそれが彼の彼女への気持ちの表れに思えた。そんなハクライの仕草に薄っすらとまた瞳を開けたミズミは、彼を見、そして続けて私を見て、静かに首を振ってみせた。

「ティナもハクライも……メイカを責めないでやってくれ。コイツにもコイツなりの事情がある」

 思いがけずウリュウを庇うような発言に、私はちらとウリュウを盗み見る。庇われた男は横目で彼女を見て、何処か無表情のようで不気味だった。いつもヘラヘラ笑っているからこそそれに騙されていたけれど、もしかしたらこの男……本心は、本当は、今まで見てきた闇族のように不気味な一面を持っているのかもしれない。そう思わせる何かがこの男にはあった。

 私はウリュウと目を合わせないようにしてミズミに向き直るけれども、彼女の顔も見れなくて俯いて口を開いた。

「ミズミはそう言うけど……そりゃあ、私でも治せなかったんだもの、治してくれたことは嬉しいしありがたいわ。でも、どうしてすぐに治してくれなかったのか……ウリュウのそういうところ、正直私、理解できないしちょっと嫌……」

 素直に思いの丈を伝えれば、ミズミはため息をつくように深く息を吐いた。そっと顔を上げれば、思ったよりも優しい空気で私を見つめている彼女と目が合う。迷うようにまた小さく息を吸うミズミに、声をかけたのは思いがけずウリュウだった。

「スティラ様、いいよ。これは歴史とは関係ない。ボクの口から説明するよ」

 そう言って私とハクライの方に向き直る男は、真顔の状態で瞳が妙に暗く見えた。それは彼が何処か落ち込んでいると言うよりは――何かを後悔しているような、そんな雰囲気だ。

細身の男は、その細い目を珍しくしっかりと開いていて、私はその深緑の瞳の色に初めて気がついた。それくらい、彼がはっきりと瞳を開くのが珍しかったのだ。彼はチラと目線だけミズミに向けて、俯くように頭を垂れた。

「まず……スティラ様。さっきも言ったけど、治すのが遅れたのは申し訳なく思っているよ。すぐに決断できなくて、それはゴメン」

「気にするな」

 悪びれた様子をあまり見せないウリュウが素直に謝っている姿に、まず私は驚いた。ウリュウはそのまま顔を上げ、今度は私とハクライを交互に見た。

「実を言うとね……スティラ様には、ボクの血をあげたの」

「……血……?」

 いきなり何を言い出すのだろうと、私は首を傾げていた。それはハクライも同じだったようで、同じ様に首を傾げて口を開いていた。

「メイカの血って、なんかそういう力があったの?」

 すると、細身の男はコクリと小さく頷いた。

「そりゃあね。なんてったって、ボクの血は『竜の血』だからね」


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