表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第5章「危機に陥る王、仕える従者」
120/247

喰族、襲撃2

「いけないっ!」

 それに気付いて私は慌てて辺りを見回した。町の中は、先程の悲鳴で何が起こったのか様子を窺いに来た街の人が何人か外に出てきていた。そんな町の人めがけて、喰族が跳びかかっていたのだ。街中に恐怖の悲鳴が沸き起こるのは本当にあっという間だった。

 私は反射的に叫んでいた。

「みんな、急いで家の中に逃げて! 喰族よ!」

 街中、獲物めがけて喰族が走り回る様子に、私は大声を張り上げる。

「ティナも隠れて!」

 背後で大声が響いて私は振り向いた。見ればハクライはあのリーダー格の短髪の喰族の頭を抑え込みながら叫んでいた。しかしそれは一瞬、すぐに仲間の喰族が大口を開けて彼に跳びかかってきていた。短髪の男の頭を両手で下に押し付けるようにして、ハクライは上に跳び上がり、噛みつこうとしていた喰族の突進をかわす。二対一、その上動きはハクライに似て瞬間的な動きが速い。彼がこの喰族全員を倒すには時間がかかる筈だ。それに気付いて、即座に――脳裏に茶髪の女性の姿が浮かんでいた。

――ダメ、ミズミは今、とても動ける状態じゃない――!

不安を感じた途端、すぐにミズミに頼りたい気持ちが沸き起こった自分にはっとする。そうだ、いつもなら彼女が私を守ってくれていたけど、今は違う。今、私を守ってくれる存在がいないことを改めて実感して、私は恐怖で一瞬足がすくむ。

「……ダメよ、ミズミを助けるんだから……!」

 こんなところで死ぬわけにはいかないし、町の人達が黙って喰われるのを見ているわけにはいかない。こんな時、ミズミなら即座に町の人を助けようと動き出している筈だ。

そう思ったら、私はハクライに背を向けて走り出していた。

正直ハクライが彼らにやられることはないと確信していた。ハクライも強いもの、一人でも大丈夫。だた問題は町の人だ。このまま放っておけない。早く一人でも多くの人を家の中に入らせなくちゃ。いくら凶暴な肉食獣のような彼らでも、家の中にいる人たちを簡単に襲うことは出来ない筈だ。

 私の読みは当たっていた。家の中に逃げられると、奴らはそれ以上踏み込まず、まずは家の外にいる人達を襲いかかろうとしていた。逃げ遅れた人が、またあの恐怖の叫び声を上げて私の心臓も恐怖で苦しくなる。

「みんな、早く家の中に! 喰族よ、窓を塞いで!」

 奴らに出くわさないよう、でも人がいる所に私は駆けながら声を張り上げる。

 今度はすぐ背後で悲鳴が聞こえて、恐怖で体が縮こまりながらも私は振り向いた。予想通り、一人の喰族が一人の女性の腕を捕まえたところだった。女性の顔が恐怖に歪んでいるのが見えて、私は反射的に動き出していた。

――助けなきゃ! なんとかしなきゃ――!

そう思ったら、口が開いていた。

『――イッ!』

 何かを叫んでいた気がした直後、気がつけば伸ばした右手が真っ赤な赤い塊を生んで一瞬熱くなったと思ったのも束の間、その光は女性の腕を掴んでいた喰族の手に直撃していた。

「ギャァアアア!」

まさに獣の叫び声のような声と共に、喰族が腕を離し、地面に転がるようにのたうち回る。それを見て私は地面に倒れ込んだ女性の腕を逆にとり、急いで立ち上がらせて駆け出した。

「あ、ありがとう!」

「急いで、家の中に入るわよ!」

 走りながら、私は頭の中がぐるぐるしていた。

――助けなきゃ、逃げなきゃ、でも何処に、さっきの光はなんだった、私何を唱えたの、今のは魔法、いや、それより今は逃げなきゃ――!

「やりやがったな女ぁ!」

 すぐ背後で憎悪に溢れた怖い声が聞こえて、恐怖で心臓が縮こまる。私は手を掴んだ女性をぐいと引っ張って振り向きもせず走る速度を上げた。でも、追いつかれるのは時間の問題、どう考えてもアイツらの動きは、速さは、私達より上だった。

「逃がすかァ!」

 黒い影が一瞬上を通ったと思った直後だった。私の目の前に影が落ちて、私は慌てて立ち止まった。私の目の前で、あの腕をやられた喰族が上から落ちてきた。大きくジャンプして私達の前に降り立ったんだ。ヤツと目があうと恐怖で私は背筋が凍る。まさに獲物を狙う肉食獣のような目だ。みれば腕は焼けただれていて、それが私の放った魔法で受けた傷であることに今更気づく。

「いい女は喰っても旨い……!」

 言いながらじりじりと距離を詰めてくる男に、私は女性の手を握りしめたまま後退る。目の前の男が一瞬低く構え、跳びかかってくる、と察した瞬間だった。

 目の前の景色がスローモーションのように見えた。跳び上がり距離が詰まってくるあの鋭い牙の生えた大口、それが目の前に迫っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ