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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第5章「危機に陥る王、仕える従者」
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違和感2

「二人共ここにいたんだぁ〜」

 甲高い声がして、私は反射的にムッとしてしまった。声のした方向に目を向ければ予想通り、あの緑の髪を揺らして歩いてくる細身の男がいた。相変わらずの薄ら笑いが、どうしても癪に障る。今まではそう感じなかったわけだから、ミズミの今の状態でも態度が変わらないこの人に、本当に苛立っているんだなと改めて実感する。

「あ、メイカ。今日見なかったね。何処いたの?」

 私と違って、特に彼に対して何も感じていない風なハクライは、座ったままの状態で彼を見上げて首を傾げていた。

「フラフラしてた〜。それより、スティラ様は調子どう?」

「変わらないわよ。状態は最悪。食事もあんまり摂れてないし」

 発言に早速イラッとして下から睨むようにして私が言えば、そんな睨みには微塵も様子を変えず、この細身の男はそう、などとそっけない返事だ。

「ところで二人共、夕食まだでしょ〜。食堂行ってきていいよ。スティラ様はボクが看てるから〜」

 彼から看病を言い出すのは、これが初めてだったかもしれない。その発言に少しばかり驚いたけれど、その間にもあの細目の男は、ドアノブに手をかけて私達に立ち上がるように促してくる。私は立ち上がって彼に問いかけた。

「そういうウリュウは食べたの?」

「勿論〜。一足先にあそこの食堂のスープ、また頂いてきたよ。美味しかった〜」

などと満足そうに笑う様子に、またも私はイライラしてしまう。ミズミなんてスープですらまともに飲めなかったって言うのに……!

 しかし私のイライラは一瞬だった。

「……メイカ……。ミズミに何するの」

 唐突でしかも空気が全く違った。問いかけたのはミズミの相棒のあの男だ。彼はまだ座ったままウリュウを見上げて真顔でいた。でもその声色が先程までとは違う。相変わらずの無表情だけれども、妙に低い声で問いかけるその様子には、何処か威圧感があった。

 問われた方は問われた方で、こちらも妙だった。いつもならヘラヘラと薄ら笑いを浮かべて軽口叩きそうな男だが、彼の問いかけにあの薄ら笑いは貼り付けたまま、瞳は笑っていなかった。しかも見上げてくる男の目をまっすぐに受け止めて、その問いかけを、ハクライの気持ちを、しっかりと感じ取っているように見えた。

「……心配ないよ。悪いようにはしない、絶対」

 一瞬だけ、あのウリュウが真顔になった。真っ直ぐなハクライの視線を逃げずに受け止めて、深く頷く男にはあの軽さがなかった。急なことに私が動けずにいると、唐突にウリュウは私に向き直った。

「ティナちゃん、夕食後、ちょっと手伝ってくれないかなぁ?」

「手伝うって……何を……?」

 空気の違う彼を警戒して問いかければ、細身の男はまたあの薄ら笑いを貼り付けて目を細めた。

「勿論、スティラ様の回復だよぉ〜。ご飯食べた後なら、きっとティナちゃんの体力も上がって、魔法の威力も上がるでしょ〜。だから夕食後お願いします〜」

 そのセリフまで妙だった。私の体力云々程度で魔法の効果がそこまで上がるとは思えなかったし、何よりその理屈は私より彼の方が詳しかった筈だ。その上治癒魔法はずっとやり続けているのだから、改めてお願いされる理由が見えなかった。

「……それは勿論……」

 とはいえ、そのお願いは断る理由はなかったし当然やるつもりではいたから、私の答えはそれしかなかった。私の答えに満足したのか、ウリュウはほらほら、とハクライも立たせ、ミズミの部屋の前でヘラヘラと笑いながら手を振った。

「じゃ、二人共美味しいご飯食べてきてね〜。その間スティラ様はちゃんと看てるから安心していいよ〜」

「分かった。ミズミ頼む」

「……行ってきます……」

 ハクライはいつもの調子で、私は渋々、ウリュウに見送られるように廊下を歩いていった。


「なんか……変だったね、ウリュウ……」

 廊下を歩きながらぽつり呟くように言えば、ハクライはうーん、などと考え込むような声を降らせてきた。見上げれば、瞬きを何度かしながら首を少しだけ傾げている。

「メイカ……何か珍しく真面目だった」

「え……何処が……?」

 あの人はいつもふざけているか、適当にヘラヘラしている印象だったし、何より先程のミズミの看病を申し出た時だって、真面目な素振りを全く感じなかった私にとって、彼の発言は心底疑問を覚えた。しかし大きな口をへの字にして考え込むような様子の男は、暫しの間をとって妙なことを言った。

「メイカ、何か決心した感じだった。何の覚悟決めたのかは……わかんないけど」

 そこまで言って、ハクライは私に視線を向けてまたあの無邪気な笑顔を見せた。

「でも、ミズミに悪いことする感じではないと思う。早くご飯食べて、二人のところに戻ろっか。ミズミのことはやっぱり心配だし」

 その言葉に私は頷いた。

 私にも、ウリュウが何の覚悟を決めたのかは分からない。でも、ハクライがこう言うくらいだもの。きっと悪いことではないのだろう。私は夜の冷たい空気を深く吸い込んで顔を上げた。

「美味しい夕食摂って、私達も元気出さなきゃよね。ミズミを助けるのが私達だもの」

 私の言葉にハクライも一つ返事をして、変わらない笑顔を見せた。




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