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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第1章 凶暴な美女、記憶喪失の女
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鬼族1



 ミズミと集落を後にしてから、私たちは相変わらず、人気のない草原や林をひたすら進んでいった。ミズミは初めて来る土地だと言っていたけれど、その割には迷いなく進んでいくのが不思議だった。途中、人や町に出くわさない代わりに、何度か魔物や凶悪な賊にであった。魔物はあの森で出会ったような植物であったり大きな虫だったりしたけれど、正直ミズミの敵ではなかった。ほぼ一瞬で仕留める彼女の力に、私はいつも感心してばかりだった。

「それにしたって、アイツらも懲りないな」

 先ほど追い払ったばかりの強族を、呆れるようにミズミは見送る。そんな彼女の腕にできた切り傷に、術を施しながら私はそれを聞いていた。ミズミは強いけれど、時々小さな怪我をする。正直怪我することなんて恐れていないのだろう。白く私の両手が光り、その光を当てればすぐに彼女の傷口が癒えていく。

「ミズミってホント強いよね。何か術を教わっていたの?」

 治療をしながら私が問うと、ミズミは短く返事をするだけだ。あまり多くを語ってくはくれない。思わず質問を続けようとすると、思いがけずミズミが私に問いかけた。

「そういうティナも治癒魔法が使えるんだから、誰かから教わったんだろうな」

「あ……そうだよね、よく考えれば」

 言われて初めて気がついた。そうだ、きっと私も誰かから術を教わっていたのだろう。視線を上げれば、片方の口角を上げて笑うミズミが丁度口を開いた。

「魔法の使い方を忘れていなくてよかったな」

「ふふ、そうだね」

 ミズミの言葉に私が笑うと、思いがけずミズミは真剣な表情で私を見ていた。思わず私が首を傾げると、ミズミは一瞬眉を寄せて口を開いた。

「……もしかしたら、他の魔法も思い出すかもしれんな。ただ忘れているだけの可能性があるからな……」

「あ、そうだよね! たくさん魔法を覚えていたなら、きっと思い出した時、ミズミの役にたつわ!」

 彼女の言葉に私も嬉々として言うと、ミズミはその真剣な表情のまま首を振った。

「いや、役に立つだけじゃない。どんな術を覚えているかで、お前のことも分かるかもしれないだろう?」

 その言葉に私は思わずミズミを見つめる。彼女は少々難しい顔をしていた。覚えている魔法だけで、私のことも分かるんだろうか? そんな土地や人によって術が変わるものなのだろうか?

 そんな私の考えをまるで読んだかのように、ミズミは一息ついて視線をずらした。

「ま、場合によっては、の話だ。治療、すまないな」

 まだぽかんとしている私を置いて、ミズミはまた歩みを進めていく。それに気づいて私も慌てて後を追う。

「ところで、ミズミ。私達何処に向かっているの?」

 彼女の背後から声をかければ、ミズミはちらと振り向いて口の端を歪めて笑った。

「あそこだ」

 そう言って道の先を指さすその先には、木々の間から顔を出す大きな石の壁が見えていた。


 程なくして私たちはその石の壁の場所まで来た。見れば石の壁の向こうに大きな石造りの建物が見えた。何処か堅苦しく厳つい印象を与える……これはお城だろうか……?

「ねえ、ミズミ。これって何処……?」

 私がそっと問いかけると、ミズミは私の方は見ずにニヤリと笑って答えた。

「鬼族の砦さ」

「砦?」

 周りを見渡せば石の壁の周りは堀が掘られており、近くには槍や剣などの武器の壊れた破片が散らかっている。争い事があった証拠だ。

「これって……誰かが攻めてくるの?」

 だとしたらこの辺りは危険な場所なんだろうか……。そんな不安がこみ上げる私とは裏腹に、ミズミは落ち着いたものだ。呑気に石の壁の横を歩いていく。

「ミ、ミズミ……そ、そんな安易に近づいて大丈夫なの?」

 もし誰かが……それこそ大勢が武器でも持って襲ってきたら、流石の彼女でもひとたまりもないだろう。そう思って私が懸命に呼びかけるがミズミは余裕綽々だ。

「争い事なんて日常茶飯事。そんなに怯える必要はない」

 振り向きざまにそう声をかけるミズミは、何かを見つけたのか私を手招きする。

「入り口だ。入れるぞ」

「えええ、ミズミ〜!」

 さっさと先に進む彼女の後を、慌てて追いかけていく。石の壁の角を曲がったところで、大きな門が見えた。門の前には勿論門番が武器を片手に入り口を守っている。怯える私を置いて、ミズミは冷然とその門番に近づいていく。

「すまないが、中に入れてもらえないか」

 ミズミは言いながら両手を上げ、攻撃の意志がないことを表しながら歩み寄る。彼女に気がついた門番は一瞬警戒するが、ミズミのその薄着の姿にすぐに構えを解く。逆にミズミに歩み寄る姿は、一変して心配しているように見えた。

「女か……大丈夫か、襲われたのか?」

「いや、怪我はない。大丈夫だ」

 二人のやり取りに私もほっと胸を撫で下ろし、ミズミに足早に近づいた。ミズミのマントに隠れてそっと門番とのやり取りの様子を見る。革製の鎧を着込んだ男の人はぱっと見、普通の人の姿をしている。ミズミと一緒だなと思うとホッとするが、よく見れば額に奇妙な出っ張りがある。皮膚を押し出すその奇妙な出っ張りは、魔物のツノを連想させた。よくよく瞳を見れば、瞳孔が普通の人よりも細長い。これが鬼族の特徴なのかしら?

 私がそんなことを考えている間に、ミズミと門番のやり取りは続いていた。

「それよりも、聞きたいことがある。この砦の主……自警団の長に会わせてくれないか?」

「構わないが……聞きたいこととはなんだ?」

「道を聞きたい。鬼族の城下町に行きたいんだ」

 ミズミの言葉に、門番二人はお互い顔を見合わせ、一言二言言葉を交わしたが、すぐに門を開き、中に入れてくれた。


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