独族王の狙い1
トゲのしかけを難なくクリアして先に進めば、また溶岩の横をずっと進む岩道が続く。その途中、大きなくぼみのような場所を見つけて、その中を興味深そうにハクライが覗き込んでいた。
「ここ、通路脇の休憩場所みたいな感じだね。わー、溶岩と距離があるからかな、ここに入ると涼しいよ」
彼の言葉に、私達も思わず涼を求めてそのくぼみに足を踏み入れていた。みれば溶岩の赤い光が届かず少しばかり薄暗い。でもその分溶岩から離れるからか、確かに通路よりも涼しかった。
「ちょっとした休憩ね。ふー、暑かった……」
「あれ、なんだか……椅子とか机とか……ありますねぇ」
岩の出っ張りに腰掛けていると、くぼみの奥を見たウリュウがそんな事を言う。つられて奥に視線を向ければ、確かに岩だらけの場所に明らかに人工物が紛れていた。目を凝らそうとすると、不意に洞窟が明るくなった。光源を探せば、丸い光の珠の真下に茶髪の美女がおり、彼女が術で作り出したのであろう光の珠が、薄暗かった岩のくぼみを明るく照らしていた。
「……独族が使っていたのかもしれんな……。休憩場所、といったところか」
ミズミがそういうのも頷けた。既にホコリや煤をかぶっていたけれど、置かれている机や椅子が複数あり、その奥には簡易的なベッドのようなものも見えた。その奥には大きな樽もコップなどの食器もあり、そこで水分補給をしたり食事をしたりしていた形跡もある。勿論全て煤や砂埃をかぶって、随分昔に放棄された場所のだろうと推測できた。
「調査していた時の休憩場所だったのかも知れませんねぇ」
同じことを思ったのであろうウリュウが椅子に腰掛けながらそうボヤけば、勢いよく椅子が砕けて、男は尻餅をついた。
「あはは、老朽化しているからもう使えないね」
細身の男の様子に声を上げて笑って、長身の男は奥のベッドに腰掛けたが、やはりベッドを壊してしまって尻餅をついていた。
「こっちもだった。あははははは」
「まったく、座って休めもしませんね……っと」
立ち上がったウリュウが、机の上に妙なものがおいてあることに気がついてそれに手を伸ばしていた。埃をかぶっていたけれど、まだ老朽化せずに残っているそれは革の表紙の紙の束のように見えた。
「……それに残り音を感じるな……。メイカ、そいつは何だ?」
ウリュウが気づくよりも先に、ずっとその紙の束を睨みつけていたらしいミズミは、低い声で小さく問いかける。妙に集中している様子に私が目を丸くしていると、その間にも従者の男はその紙の束を持ち上げて、ふーっと息を吹きかけてホコリを落としていた。
「……んー、なんか、記録みたいな……何か書いてありますね……。む、日記かな……?」
砂埃をかぶった薄汚い紙の束を持ち上げて、中を確認するように細身の男が目を細める。そんな従者を見て、はっとした様子で主の女があごで指示した。
「メイカ、それは独族の記録じゃないか? 目ぼしいところを探して読んでくれ」
その指示に従者の男は何度か頷きながらパラパラとその紙の束をめくっていた。
「えーと……遺跡の研究……解読…………ん、王からの命令……ああ、この辺りかな。『我々はようやく、遺跡の文字を解読することに成功した。これで闇族の真実を探ることができる。王は我々『闇族』が何故『ガイアサンジス』の力から逃れられないのか、それを調べるおつもりなのだ。真実が分かれば、忌々しい闇族の制限から逃れ、自由になれることだろう』……だってさ」
「……闇族の真実……? ガイアサンジス……?」
その言葉に私は首を傾げてしまった。遺跡の解読、はどういうことなのか何となく分かる。遺跡を調べて解読できれば、どうやら闇族の真実……ようは歴史みたいなものが分かるということなのだろう。ただ、そこで出てきた『ガイアサンジスの力から逃れられない』とはどういうことなのか、そこがよく分からなかった。
ウリュウが読み上げた文面に、緑色の瞳を細めてミズミが唸った。
「ふむ……遺跡に残される文面を解読すれば、ガイアサンジスの仕組みが分かるかも知れない……ということか……。それで独族の王は遺跡を調べていたのか……」
「ガイアサンジス……って確か……ミズミが首につけてるそれ……よね?」
「ああ……」
視線を向ければ、首元の宝石を指で撫でるようにしてミズミは険しい顔をしていた。そう、闇族の王の証であり、これを手にしたものが闇族王になるという決まりがあるあの石だ。
「ガイアサンジスの力から逃れられないって……どういうことなの?」