火山の洞窟2
「ティナ、何朝からニヤけてるんだ?」
起きて早々、隣で寝ていた茶髪の美女が呆れがちに声をかけてきた。
「いい夢でも見たのか? 随分と嬉しそうじゃないか」
そう言いながらあくびを噛み殺すのは一見美青年に見えるミズミだ。彼女の言葉に、私は思わず口元を押さえていた。
「べ、別にいい夢……ってほどでも……いや……あるかも……」
言いながら、私は今朝見た夢を思い出していた。――朝焼けを一緒に見ながら、唐突に言われたあのセリフ――。アレは絶対旦那さんに告白された時の記憶に違いない。なんだか思わずニヤけてしまうような夢だった。嬉しいような照れてしまうような、そんな気持ちを思い出して、また口元が緩んでしまう。そんな私を横目で見て、彼女は意地悪に口の端を歪めてため息をついていた。
「……成程、旦那とのなれそめの夢でも見たのか」
「なっ……そういうわけじゃ…………って、あ! 私の心を読んだのね⁉」
「ダダ漏れなんだよ。聞いてくれと言わんばかりにな」
「ミズミのその術、ずるいー!」
「おやおや、朝からスティラ様、早速ティナちゃんいじりですかぁ〜?」
「ん、おはよー」
私とミズミのにぎやかなやり取りに、少し離れたところで寝ていた男性二人、ミズミの相棒のハクライと、ミズミの従者のウリュウも目を覚ましていた。
ゴーストタウンのような町を散策して、そしてウリュウの謎めいたおとぎ話を聞いて、昨日までは重たい空気だった筈なのに、朝起きてすぐにミズミにそうからかわれたものだから、私達は朝から賑やかなやり取りをしていた。
目覚めれば相変わらず人気のない立派な町。勝手に借りていたお家で一睡した後、家の中にあった食べられそうな野菜や果物を勝手に拝借して食事にさせてもらった。勿論、多少なり罪悪感はあったけど、ミズミの話ではもうこの町の人は戻らないだろうから、問題ないだろうと言われた。そう言われると、罪悪感よりは気味悪さの方が気持ちとしては上で、どちらにしてもいい気はしなかった。でもそう思ったのは私くらいだったようで、ミズミもハクライも特段気に留めている様子もなく、ウリュウに至っては、堂々と人様のお家から他に使えそうなものを勝手に漁り拝借しているほどだった。
起きてすぐに準備を整えて、私達は次の目的地へと向かった。そう、独族王が探っていたという、火山にあると言われる古代の遺跡だ。
目的の火山は、町のすぐ裏側にある山だった。街の裏に細い山道があり、それを進んでいけば目的の場所につけることを、昨日の段階でミズミは確認したという。そんな山道を登り始めて数十分としないうちに、この山が活火山であることがすぐに分かった。気温がぐんぐん上昇して、明らかに活火山であることが分かる熱さだ。
ミズミの話によれば、火山の一角に洞窟が有り、そこに遺跡があってそれを独族王たちは調査していたと情報を得たらしい。調査をしていたくらいだから、それなりに人が行ける場所かと思っていたのだけれど、いざ向かってみれば聞いた以上に火山が活発で危険極まりない道だった。道を進んでいくうちに溶岩の流れる川のような場所が出てくるし、行く道はかろうじて火山からの溶岩が流れないような小高い道という、一歩間違えば焼け死ぬような危険な道だったのだ。その小高い道以外はドロドロの溶岩が川のように流れていて、地面からの熱だけで随分汗をかいた。目的の洞窟に行く前にそれなりに体力を奪われていた。
「行くだけでも一苦労だね。砂漠とどっちが暑いかな〜」
などと、セリフの割に涼し気な表情で長身の男が呟けば、その前方で茶髪の相棒がため息のように息を吐いた。
「この熱さにこの気配……炎の精霊も住み着いているな……。精霊がいるくらいだ。目的の場所は相当暑いだろう。ハク、覚悟しとけよ」
「うん、ミズミも気をつけてね」