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邪悪な王は偽れる  作者: Curono
第4章「謎を追う王、支える男」
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昔話2


『お伽話は 語られん 仰々しくも 従順に』

 最初まるで歌うように一つセリフを読み上げて、ウリュウは一呼吸置いて話し始めた。


「むかーしむかしはるーかむかし、あるところに光の姫がおりました。同じく闇の騎士がおりました。闇の騎士は美しく輝かしい光の姫を愛していましたが、お互いに持つ力が違いすぎて、どうしても姫には近づけませんでした。


とうとうある日、闇の騎士は邪神に選ばれて、遠い闇の土地へ行くことになってしまいました。本当は光の姫のいる明るい光の土地に居たいけれど、闇の騎士はそれを選ぶことが許されません。騎士が泣く泣く闇の土地へ行こうとしていると、思いがけず光の姫が心配して声をかけてくれました。

『本当に貴方は闇の土地へ行きたいのですか』

闇の騎士は泣きながら答えました。

『本当は光の土地に居たいのです。貴方と離れたくないのです』

光の姫は闇の騎士を哀れんで邪神に訴えました。

『邪神よ、どうか彼を連れて行かないで』と。

邪神は怒りました。

『邪悪な力を持つ闇の騎士が、何故光の姫に庇われるのか!』と。

怒り狂った邪神は、闇の騎士を無理やり闇の土地へつれていこうとしました。いざ闇の土地への門が開かれた時、光の姫が騎士を庇ってしまいました。光の姫は騎士の代わりに邪神に囚われて、そのまま闇の土地へ攫われてしまいました。


闇の騎士は助かったけれど、愛していた光の姫と離れ離れになってしまい、泣きながら光の土地で暮らす日々が続きました。


そんなある日のこと、一匹の傷ついたトカゲが騎士の前に現れました。トカゲの体はボロボロで、とてもカラカラに干からびて、今にも死にそうです。トカゲは言いました。

『喉が渇いて死にそうです。どうか水を分けてくれませんか』

闇の騎士はそんなトカゲを哀れんで助けてくれました。自分の涙をトカゲにかけて、喉の渇きを癒してくれたのです。トカゲは喜んで闇の騎士に言いました。

『このご恩は忘れません。私はこれから貴方に一生お供いたしましょう』

姫を失いひとりぼっちだった闇の騎士は、それを喜びました。

『お前が共に居てくれるなら、私も諦めずに生きていこう。光の姫を光の土地へ助け出すその日まで、私を助けておくれ』

それからトカゲは闇の騎士と共に生きるようになりました。


そんなある日、トカゲは騎士に頼まれました。

『闇に囚われた姫を守りたい、姫に悪い物がつかないよう、助けてくれないか』と。


そこでトカゲは、彼の従者たちと共に石を四つ運びました。

一つは炎の土地へ、一つは氷の土地へ、一つは砂の土地へ、一つは風の土地へ。

それぞれの土地へ石を運び、姫を守る封印を作りました。


しかし、同時にその封印を解く方法も作りました。

『世界に光が溢れすぎた時、この悪しき力、姫を囚える闇の力を解放しよう』

その時に封印を解けるよう、石に魔法をかけました。

いまでも姫を守るため、トカゲは石の近くで過ごすようになりましたとさ。

……おしまい。ってね。」


 そこまで話して、ウリュウは深く息を吸い、それを俯きながらゆっくりと吐いて、静かに顔を上げた。その様子は、まるで緊張して張り詰めていた糸をようやく緩めたような、そんな気の抜け方だった。

「……ボクが話せるお話はここまで。ボクが子どもの頃に聞かされた、ふるーいふるーい昔話だよ〜。……スティラ様、楽しんでいただけたかな?」

 言いながら、彼女を見上げるようにするウリュウの表情が変だった。まるで彼女の反応を探るように視線を向け、唇を噛むようにして微笑んでいた。その表情は何処となく緊張しているように見えて、やはり彼にしては妙だった。

その様子に私が首を傾げていると、茶髪の美女が身を乗り出して低い声で問いかけた。

「……メイカ、一つ答えられるか? その騎士は……何者だ……?」

 問いかけたミズミが、口調は落ち着いていたけれど、また刺すように従者の男を見ていて、その視線を受けた方は、唇を噛んだままうなだれて視線を外していた。

「ウリュウ……?」

 その様子に、私はいささか心配になってしまう。どうしてこんなにもウリュウが緊張しているのかが分からない。ミズミにおとぎ話をする時だって、そしてミズミに問いかけられた時だって、彼は妙に緊張しているように見えた。しかも何故それらの行為――おとぎ話を話したり、ミズミに問いかけられたり、一見普通の行動――で緊張するのかが理解できない。私がウリュウの顔を、少し覗き込もうと身を乗り出した時だ。

「……いや、語れないならいい。……おとぎ話は……そうだな、確かに楽しめた。色々と考えさせられるな」

 そうミズミが言葉を漏らして、また仰け反るように姿勢を崩していた。その途端だった。また細身の男からため息が漏れて、顔を上げた男はようやくいつもの調子を取り戻した。

「いやぁ〜、楽しめたなら良かった。ボクあんまりお話って得意じゃないんで、楽しんでもらえるか自信がなかったんですよぉ〜。……でも」

と、男は僅かな間を取り、目を細めて静かに続けた。

「おとぎ話なら、ギリギリお話できるんですよ〜。どうしても退屈した時は、言ってくださいね、お話しますから〜」

 男はそう答えて突然勢いよく横になると、寝転んだ体制のまま片腕を上げて手を振った。

「ふー……。では、ボク疲れたので、今日は早めに寝ますねぇ〜。おやすみなさーい」

 それっきり、彼から話を聞くことはできなかった。



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