桜と部活紹介と(第三回利き文大会より)
ミステリというものに憧れて書いた覚えがあります。ただ、途中でなんとも言えないしりすぼみになっていますね。それから、続くような雰囲気だけ出したかったのでそうしました。そちらは割と成功したようで、友人にもそう言われました
部室棟の最上階、廊下の一番奥の扉を脚で開ける。
「ただいま~」
返事はない。
「聞いてくれよ」
やはり返事はない。いつもの事だ。気にせずに続ける。
「どうも今日は一年生との対面式だったらしくてさ。ほら部活紹介の日じゃん?ここに来るまでにチラシ貰ってきちゃった。見てよこれ。
柔道部から野球部、クイズ研究会から囲碁将棋部。いろんな部活があるんだね。俺達も出した方がいいのかな?ポスター
ほら、この前作った兎のキャラクター、あいつを入れたら良いと思う」
ドアの近くにかけられた部屋の鍵を見やる。それに付けられた九個のストラップはどれもが全く同じものだ。文化祭用に作ったものの全く売れず、在庫を抱えてしまっていた。この機会に売れないだろうか。
そんなことを考えて、チラシの束を長テーブルの上にドスンと置く。壁に立て掛けたパイプ椅子をその近くに設置して、座り込んだ。カバンから文庫本を取り出して読み始める。
「にしてもさ……推理部って何をすれば良いのかな」
独り言と分かって呟く。当然返事はない。
「だってさー、推理するったって現実に事件は無いし、仮に有ったとしても生徒が介入できる事ではないしさ」
そう言いながらパラパラと本を捲る。既に読破しており、犯人も分かっている。パラパラパラ。パラパラパラ。暇だ。
あまりに暇なので部活紹介のチラシを一枚一枚見ていくことにした。
"囲碁将棋部:新入生の皆さんへ
初めまして。皆さんは「棋聖戦 名人戦 王座戦」これらの共通点を知っていますか?実はこれらは囲碁と将棋それぞれのタイトル戦の内、二つに共通するものをピックアップしたものです。しかし、例えば同じ棋聖戦でも主催は読売新聞と産経新聞と全く異なるのです。以上、囲碁将棋に纏わる豆知識でした
部活は月水木曜日にやっていますから是非体験入部にお越しください"
"演劇部:こんにちは!
私たち演劇部は文化祭にてロミオとジュリエットやシンデレラ等の古典作品やオリジナルの台本を今まで上演してきました。今年からYouTubeでも公開する予定です。現在は去年の文化祭で演じたものを公開しています。是非ご覧ください→https;//youtu,be/○○△▽
部活動は、学校のある日はほぼ毎日多目的ルーム3で行っています"
チラシを繰る。桜の花びらが挟まっていた。たしか体育館から教室までのルート、所謂プロムナードは道沿いに植えられたソメイヨシノが満開に咲いていた。散ってしまったのが挟まったのだろう。指で摘まんで窓から放り捨てる。ひらひらと桜が舞い落ちる、確か秒速五センチメートルだっけ
がらり。
扉の開く音がした。振り替えると百五十センチメートルくらいの少女が立っていた。きょろきょろと回りを見ている。
「初めまして……かな?君は一体?」
彼女の目的はパッと見て分かっていたが、手持ち無沙汰だったので暫く付き合って貰うことにした。
「貴方には私が幽霊に見えるの……かしら?」
取って付けたようなお嬢様言葉だ。
「足は生えているようだから多分君は生きているよ」
「えぇ、知って……いますわ」
「ところで君そんな口調じゃないだろ」
「そんなことありませんわ」
どうやら続けるらしかった。
「ところで、さっさと起こしてやらなくても良いの?」
面倒になって会話を本題へ戻す。少女は顔をキョトンとさせた。
「……何を言っているの?」
「簡単な推理さ」
「いやそうじゃな……」
「まぁ、待ってくれ
順番に説明していこう。その靴はまだあまり使われていないかのように白い。買い換えた可能性もあるが、恐らく新入生だろう。今日は対面式があったからその帰りに部室棟に寄ったと考えられる」
少女は何か言いたげだった。
「ところで今日は桜が散っていた。にも拘らずプロムナードを通ってきた筈の君には桜の花びらが付いていない。何故か?君は一直線に部室棟へと歩いてきたのだろう。何をしに?可能性として考えるのは入部希望者だ。しかし、そんな訳はない。何故なら推理部は一切の宣伝活動をしていない」
僕は窓際へと向かう。
「入部希望者でなくて、しかしここに来る用事があった。だったら誰かに用があったと考えるのが妥当だ。しかし、僕は一人っ子だからそこで寝ている高城を迎えにきたのだろう。へい、起きろ」
少女を見やるとどうやらついていけてない様子だった。もぞもぞと高城が動し始める。
「お迎えだ。起きろ」
「うーん………………えっ、誰?」
「え?」
――キャハハ!
沈黙を破って少女が笑い始めた。
「なるほどね!そっか、そういうことね!」
少女は何故か清々しそうにこちらを見ている。
「お兄さん、私が何しにきたか分からないの?はい!これ!」
少女はそういってポケットからストラップを取り出した。見たことのある忌々しい兎の姿をした物だった。
「おっけー、じゃあ、今度は私が答え合わせをするね」少女は続ける。
「まず、靴について、ありがとうございます!先週必死で洗った甲斐があったってもんだよ」
少女はぺこりと頭を下げた。
「私は貴方と同じ2年生だからね、ちなみに演劇部。
対面式の部活紹介を担当して、その帰りにプロムナードを歩く貴方を見たの。チラシを律儀に全てもらってた。それからストラップが一つ落ちてた。クソダサい兎のやつ」
グサッ。
「とりあえず君のかなって思って持ってきたんだけれど、そこにかかってる鍵を見る限りビンゴっぽいね。はい、返すね」
呆然とする俺を横目に少女は颯爽と帰っていった。
「で?何だったんだ?」
「いや、何でもない。ちょっとカッコつけたら逆に恥をかいた」
「そうか、それは残念だったな。じゃ、おやすみ」
そうして高城はまた眠った。
喉が乾いた。ジュースでも買いに行くか。
ガラリ。とドアを開く。外は桜が雨のように降っていた。