遊び人武器を手に入れる
宿屋のおっさんはマイケルという名前であった。
ジャクソンと呼ぶこととした。
ジャクソンは親切丁寧にこの世界のことを教えてくれた。
一般的なごくごく常識的な話をしてくれているだけだが、その一つ一つが俺にとっては生き残るために必須知識となる。酔っ払い過ぎてうろ覚えなのは内緒だよ?殺されかねないからね…
どうせならメモとっておくべきだった。
要約すると。
この世界は、魔王軍と絶賛戦中であり、人間側は苦戦中であること。
大陸の北側が魔王の領土となっており、南側に人間の国家が四つある。
その最南端にアレジオン王国があり、その中でも最南端にあるのが商業都市ラクーンである。
いうなれば一番魔王軍から遠い街ということだ。あれ、俺このままスローライフいけるんじゃ?
四つの国は一応は同盟を組んで魔王軍と対峙しているが、魔王不在時にお互い喧嘩しまくっていた影響で同盟も確固たるものではない。
特にアレジオン王国は、魔王軍の領土と接していないこともあり、もっとも消極的な援護しかしておらず、非難の的。
アレジオン王国頑張れ!お前ががんばらないと人間界の危機だぞ。
この世界の人間はジョブというものをもっており、戦闘系ジョブは生来のもの。
早ければ10歳前後で目覚めるものもいる。
言うならば生まれた瞬間に人生の方向性が確定してしまう過酷な世界。
生産性ジョブは、実際に何かをつくったりすることでレベルがあがっていく。
自分で選択することができ、兼業可能。
ビバ職業の自由だ。
基本は生産職に就いた人間は、生産職人としての一生を生きる。
その他にスキルというものがあり、レベルが上がるごとにスキルポイントが得られる。
スキルを覚えるには所定のスキルポイントが必要となり、大抵の場合は、スキルポイントの不足で、ジョブのすべてのスキルをとることはできない。
同じジョブでも戦い方や性格運命等々不確定な要素で取得可能スキルや取得可能時期は変わるようで、
世界最強のスキルを、「勇者」ではなく一般的戦闘系ジョブである「戦士」が取得する可能性だってある。取得可能スキルと、取得スキルで同じ職業同レベルでも、強さが変わってくる。スキル取得はよく考えてとらなればならない。
スキルは使えば使うほど、扱いがうまくなりより強力に進化していく。習熟度のようなものがあるっぽい。
また、スキルポイントを注入すれば強制的にレベルをあげれるが、得られるスキルポイントには限りがあり、おすすめはできない。
当然冒険者ギルドがあり、魔物を倒して生活するならギルド登録は必須であること。
転生者という存在は、現在も何人か存在が確認されており、その多くが特殊なジョブや力をもっており、魔王討伐の有力な力となっている。
といったところだ。
「おっさんは、なんで俺が転生者だとわかったんですか?」
「宿屋のおやじの感でしかねえ。宿屋をやってると客の大半はこの街を知らない部外者だ。全員そういった雰囲気がある。だがお前はさらに強い部外観。この世界の部外者って雰囲気があったからな。」
あらやだ恥ずかしい、田舎者丸出し状態で町を歩き回っていたらしぃ。
「あと、ピッケルなんてしらねーしな。過去の上客を忘れるような、宿屋のおやじじゃ商売あがったりだ。」
このおっさん、できる。宿屋のおっさんにしておくのはもったいない。ゲイバーでもひらいたら?はやるぜー
「なあ、お前はどんなジョブについてる?ジョブ次第では人のジョブをやステータスを覗き見るスキルを持つやつもいるが、かなりレアでな。」
この世界でも個人情報はしっかり保護されているようで一安心。
ジョブが「遊び人」なんていうのは話すべきが迷うところだ。まだこのおっさんを信用しきるには早すぎる。残念な転生者として軍やらその筋の方々に通報される可能性だってある。
「悪いがそれは教えれないですね。マイケルさんのことを信用しきれてません。会ってまだ一時間ですよ。マイケルさんこそ、宿屋ってのは生産系のジョブ由来の職業ですよね?戦闘系のジョブは何なんですか。この世界では挨拶代わりに自分のジョブを相手につたえるものなんですか?」
「ははは。転生初日にしては、用心深いな。たしかに戦闘系ジョブを明かすのは、自分の手の内をさらけだすことだ。自分の命を狙っているような相手にジョブを知られるのは非常にまずいが、今後冒険者ギルドに登録して、パーティーを組むといったときには、最低限ジョブを伝える必要がある。用心することはいいことだが、さすがに俺はお前の命を狙ってたりはしねーよ。純粋な興味だ。転生者ってんじゃあ、さぞかしレアなジョブだろうからな。楽しみだぜ?賢者か?剣聖か?まさかのまさかの勇者か?」
期待のまなざしをうける。受け流す。みなかったことにする。
遊び人かあ……やっちまったかなあ。純粋に恥ずかしいんですけど。レアといえばレアなんですかね?
この世界のジョブ情勢はわからないが、自分がパーティーリーダーだとして遊び人なんてパーティーに入れたいか?
答えはノーだ、断固拒否するね。
ここは遊び人らしく賭けに出るしかない。
「俺もこの世界に転生したばかりで、何も信じることができる状態じゃありません。どうでしょうジャクソンさん、じゃねーマイケルさん、あなたの目で俺のジョブを見極めるってのは?つまり俺のレベル上げに付き合ってください。マイケルさんどう見てもただの宿屋のおっさんじゃないですよね、それなりにレベルのある、戦闘職ジョブにもついてる。今の俺じゃあ太刀打ちできないほどの力量差を感じます。まだ、俺はスキルもなにもないレベル2です。最初のスキル獲得までつきあってくれたら、俺のジョブがわかるんじゃないでしょうか?」
「レベル2か、下手すればここらの魔物でも一発で死ぬレベルだな。さすがに生まれたての、赤ちゃんを見捨てるのは忍びない。いいだろうパーティーを組んでレベル上げに行こうじゃねーか。ただし、戦うのはお前だ、俺はお前が死にそうになったら助けてやる。命は完全に保証してやるが、レベル上げの手伝いはしてやらん、実力にならないからな。それでいいか?」
パワーレベリングしてくれよ。このケチンボ。ただ、たしかに実力なくレベルだけあげても、真に強くなったとはいえない。
「遊び人」というジョブをマイケルに知られるのは怖いが、最低限この世界で生き抜くためのレベルと強さを手に入れれると考えれば、俺の恥部をさらけ出すのも悪くはない。寧ろどんな反応になるのか楽しみだ。
羞恥プレイの一環と考えれば遊び人冥利につきるってもんよ……相手がガチムチさんでなければな。
「ありがとうございます。俺のジョブを楽しみにしていてください。自分もできればマイケルさんのジョブ知りたいです。」
「おう。それじゃ、明日の朝、市場で装備を買う。その後、ここらで一番ぬるい狩場で狩りを行う。俺が付き合うのはお前が最初のスキルを覚えころまで、レベルでいえば5程度。お前の強さによるが日数的には三日ってところかな。レベル10程度までは比較的レベルもあがりやすい。ちんたらやってるとリューネに殺されるからレベル上げは本気でやれよ!」
なんていい、ゲイマッチョ。なんかこの世界で生きていける気がしてきたぜ。
そして、翌日俺とマイケルは市場で装備品の買い物へ。なにこれおっさんとデートか。
初期の案内役がおっさんとかいろいろ間違えてません?ここは美少女でしょ?
とにかく軍資金は40G日本円40で万円しかない、その全額を装備やアイテムぶちこむこととなった、宿屋の代金は狩りのドロップか後払いでなんとかなるとのこと。
愛してるぞジャクソン。
まずは武器屋に行くトルネオの武器屋という店だ。所詮最初の町の最初の武器屋、こん棒やら木の杖やらしか置いてないと思っていたら大違い……
なにがどうなってる?武器やってみんなこうなの?明らかに魔法を宿してる剣、見るからに呪われた鎧、竜でも殺せるんじゃないかっていう大剣、恐ろしいほどの品ぞろえ、これ最後までこの武器屋で武器そろうんじゃ?ってレベルだ。
ただ、どれもとても高そうです、所持金40万で買える武器と防具と薬草?ポーション?と考えると、そもそも在庫があるのかすら、期待はできない。
「おい。これなんて、どうだ?ゴブリンソード10Gだ。ゴブリンからのドロップ品だったりゴブリンとの交易で比較的容易に手に入る剣でな、力がなくても使えるし、なにより安い。初心者向きだぞ。」
おいおいジャクソンゴブリンが使っていたお古を俺につかえと?笑わせてくれる。
「すみません。店長さん予算は40Gしかないんです、はじめて剣を買うので良しあしがまったくわかりません、40Gで買える剣で初心者用の一番良い剣をうってくれませんか。」
ジッと頼み込むような目で店長を見つめてみる。心なしか店長の顔が赤くなる。おいお前もホモか?
「冒険初心者か。そしたらこれですかな。ゴブリンソード+2です。本当は50Gで売りたいところなんですが、わがトルネオ商店で最初の剣を買おうっていうのであればそこは私も武器を愛する一回の武器商人。記念に40Gにしてさしあげますよ。それにこいつは錬成品ですからな……」
錬成品という言葉を発した時、店主トルネオの目の奥が黒く揺らめいた気がするが気にしない……深い深すぎる事情があるのだろう。
結局ゴブリンソードか……だが錬成されていて、攻撃力が高い、せっかく安くしてくれたんだ、ここは腹をくくって買うことにした。これで俺は一文無しだ!マイケルに捨てられたらゲームオーバー、こんなゲイマッチョに俺の命の綱を握られるとは……
「トルネオさん、錬成されているというのが気に入りました。ぜひこのゴブリンソード売ってください。」
錬成のことはよくわからなかったが、知ったかぶりで褒めておく。あとでマイケルに聞いてみたところ、この世界での「+2」というのは同じ武器を二つ用意し錬成することでできるらしい。
先ほどのゴブリンソードが攻撃力10だったのにたいしてこちらは15になっている。錬成すごし。
錬成すればするほど強くなるが、錬成が進むにつれかかる錬成費用は馬鹿高くなり、錬成に失敗すれば場合によっては剣が消失することもある。
ギャンブル的要素が強いがゆえに熱狂的錬成愛好者もいるそうだ。
「おい。武器で40G使っちゃ防具と薬草が買えないだろうが、考えて物を買え!金は貸さんんぞ。」
ゴブリンソードに全財産を投入しようとする俺にマイケルが苦言を呈すが気にしない。
それに誰がお前に金を借りるか、体で返させる気だろ?
「はい。命の保証はマイケルさんがしてくれていますから、防具も薬草もいらないと考えさせて頂きました。怪我したら治してくれますよね、マイケルさん。」
ジッとマイケルを見つめてみる。
持つべきものは、謎の宿屋の店主だ。命の保証をしている以上、怪我すれば治すし、最悪身を挺してでも守るのが正しい謎の宿屋の店主というものだ。ありがたく使わせてもらう。
効率優先火力優先。攻撃は最大の防御、やられる前にやればいいでしょ。
「……最低限の命の保証だからな。痛みの軽減はないぞ。」
ごめんなさい。痛み止めだけでも買わせてもらえないでしょうか。
マイケルの顔を見ると少し赤くなってる、はい怒ってらっしゃる。茹でタコの物まねかね?似てるよ。
だが決めた俺はこのゴブリンソード+2で世界を取る!
半泣きになりながらやけくそになりながらいう。
『「ゴブリンソード+2」をください!!』
そうして俺は一文無しになった。
ここでジャクソンに捨てられたら、ゲームオーバーな気がするが、信じるしかない。