プロローグ
僕は大切な妹を背負って研究室の一室に入る。妹はもう何ヶ月も寝たまま。秋から今まで1度たりとも起きることは無かった。
昔のように僕の方を向いて笑ってくれる事はない。昔のように誕生日プレゼントをデパートで必死に悩んでくれることもない。ただ冷たい体でこれから焼かれるのを待つだけ。
そんなの僕は嫌だ。どうしても妹の笑顔をまた見たい。自分勝手なのはわかっている。だがそれでも妹の笑顔は大好きだ。自分の命を捨てても見たいし、兄として妹を救ってあげたいとも思う。
これからする事は確実に世の中のルールを無視する行動である事は理解している。だがそれでも助かると言うならその奇跡を信じたい。妹が生き返るなら僕は例えマッドサイエンティストでも名医だと断言出来る。
「どうかお願いします…」
僕は目の前に整列している研究員に妹を優しく渡す。この研究員と研究所は俺の全ての財産を使って雇ったものだ。研究員も研究所の部品も全てが最高峰。多分この国では一番といっても間違いはないと思う。
「勿論です。貴方の妹様は必ずや生き返らせてみせます。」
「ありがとうございます」
「でもよろしいのですか?」
研究員の言葉に僕は頷く。今から行う事は違法どころでは済まない話であり、世の中のルール無視する事だ。僕の社会的地位も失われるし、何が起きてもおかしくない。下手すれば記憶喪失ということもある。
僕はそれだけ言うとその場から離れる事にした。別にまた生きて帰ってくれるなら、僕は多少の時間は待つ位は耐えられる。
帰る前に僕は研究所の中庭に寄ることにした。研究員達は花には興味が無いのか大して手入れもされてないようだった。色んな花が雑草に邪魔されてちゃんと見れない。
だが二つの花が綺麗に咲いていた。周りの雑草を無視して強く咲く二つの花が。
「まるで皮肉のようだな…」
僕はそう呟くとそのまま立ちあがり、別の花を摘むことにした。
そこに咲いていた花は勿忘草と季節外れのシオン…花言葉は『私を忘れないで』『君を忘れない』。
自分勝手な話だと思う。記憶喪失になるかもしれないのに、それでも自分を忘れないでなんてくれ…酷い話だ。
だからこそ俺が摘む花は向日葵。僕はどんな事があっても妹だけを見続けると誓うための花だ。
「頑張ってね…兄ぃはずっと見守ってるよ。」
この言葉だけ聞くと僕が死んだ側みたいになる。それならどれ程良かったかと思い、家に帰る事にした。