950.転売屋は武器を流す
「以上になります。」
「報告ご苦労。正式に国からお達しが出たわけだが、とりあえずは現状維持って感じだな。予想通り西方国の人間を売買しないようにとの事だが返還する義務は無し。製品に関しても自粛はすれど禁止はしないわけだから、今までどおりで問題ないわけだ。まぁ予想と違ったのは輸出の停止ぐらいなもんか。」
「元々西方国に輸出していたものはわずかですから問題はないと思いますが、お父様的にはやられっぱなしが嫌だったんだと思います。」
「まぁ気持ちは分かる。」
17月も15日を過ぎ正式に西方国の閉鎖が完了した。
それにあわせたお触れも流れたので、これにて西方国関係の問題は一応の解決を見せたことになる。
流通が制限されない以上清酒もガラスも普通に販売しても問題は無し。
どれも需要の見込まれる商材だけに急いで売る必要もないだろう。
「で、次はこっちの報告書だが。結構食費が増えているなぁ。」
「なんだかんだで最初の頃よりも屋敷に住む人が増えましたから。」
「その分稼ぎも増えているからなら問題はないんだが、アレだけあった空き部屋が今は数えるほどしかないとは。世の中分からないもんだ。」
「節約に努めますか?」
「いや、そこまでする必要はないだろう。純粋に人数が倍になったから食費も倍になっただけ。陛下から多額の下宿費を貰っている間は十分にまかなえている。むしろお釣りが出るくらいだ。」
「では現状維持で参りたいと思います。」
月半ばを迎え屋敷の運営費が報告されたのだが、人数が増えた分もあり昔に比べるとかなりの金額が出て行っているのがわかる。
もちろん収入も増えているので収支だけを見ればバリバリの黒字、今後も更なる増収が見込めるだけに運営費の増加など些細な問題に過ぎない。
が、金は金だ。
不要な金はある程度絞る必要はあるし、何でもかんでも経費を認めているわけではない。
昨日だってエリザがおねだりしてきた発泡水の追加は見送られることになった。
っていうかそういうのは自分の金で買えよな、それなりに稼いでいるんだからさ。
「そうでした、先ほど冒険者ギルドから連絡がありまして折り入って相談したいことがあるそうです。」
「なんだよ、そのめんどくさそうな案件は。」
「なんでもシロウ様にしか出来ないのだとか。」
「期待されていますね、旦那様。」
ミラとマリーさんに持ち上げられるのは素直にうれしいが、冒険者ギルドに期待されるのはあまりうれしくない。
だってあいつらいつも面倒ごとばかり持ってくるし。
もちろんそれが金になることも多々あるが、大抵は前者だからなぁ。
「相談内容は聞いていないのか?」
「こちらで所有している武具についての一覧出来るものがあればと言われました。今メルディさんにお願いして目録を作っていただいています。」
「武具ねぇ。戦争でもおっぱじめるのか?」
「そんなまさか。」
「悪い、不謹慎だったな。」
「流石にお父様もそこまで強引なことはされないと思います。」
マリーさんを不安にさせるような台詞を言ってしまったことは素直に申し訳ないと思うが、それでもタイミング的にはどうしてもそう考えてしまう。
別に魔物が襲ってくるわけでもないし、冒険者が山のように増えているわけでもない。
にも関わらず急にどれだけの武具を所有しているか聞いてくるあたりきな臭い感じがするなぁ。
俺の思い込みならそれでいいんだが。
昼過ぎにメルディが目録を持ってきてくれたので、それを手にマリーさんとアニエスさんを連れて冒険者ギルドへと向かう。
アニエスさんに来てもらったのは監査官としての立場で同席をお願いしたかったからだ。
「いらっしゃい、待ってたわよ。」
「これが頼まれていた目録だ。随分と急な相談じゃないか、なにかあったのか?」
「まぁ、色々とね。とりあえず奥までお願いできる?」
「了解した。」
どうやらギルドカウンターでは話しにくい内容のようだ。
ますます嫌な予感が強くなる。
盛大な溜息をつく俺を慰めるようにアニエスさんがポンポンと肩を叩いてくれた。
応接室へと移動し待つこと十数分。
待ちくたびれて呼びに行こうかと思ったタイミングでパタパタとニアが部屋に入ってきた。
「ごめんなさい、急に問い合わせが入って手間取っちゃって。」
「それも今回のに関係あるのか?」
「ん、まぁね。」
「詳しく聞かせてもらおうじゃないか。」
立ち話で終わらせる内容じゃないからこそ、俺をここに呼んだんだろう。
こう見えて結構忙しいんだからな。
「改めて目録ありがとう。相変わらずすごい量の武具を保管しているのね。」
「ダンジョン産の物や職人から買い付けたものもあるが、一見多そうに見えてもこの街なら十分に消費できる量だ。武具は命に直結する、それをケチる奴は今頃魔物の腹の中ってね。」
「あはは、確かにそうね。」
「そんな命の次に大切な物を扱わせてもらっているわけだが・・・。」
「シロウさん相手にやりあうのは無理だし単刀直入に言うわね、これらのほぼ全て買わせて欲しいの。値段は言い値って訳には行かないけど、それなりの金額は出すつもりよ。」
俺の持っている武具を買い占めたい、か。
売れるのはもちろんありがたい話ではあるのだが理由がきになる所だ。
「随分と羽振りがいいじゃないか。出所は冒険者ギルドの本部か?」
「相変わらず察しがいいわね、正解よ。」
「もちろんマートンさんたちにも声をかけたんだよな?」
「ううん、今回は職人を通さないってことになってるの。シロウさんやベルナちゃんみたいな人限定の依頼って感じかしら。」
職人からは買い付けず、市場に出回っていないような品を買い集めているわけか。
買い付けできない何かしらの理由はあるんだろうけど、それを表には出せないんだろう。
「って事を言っているが、アニエス監査官は何か知っているのか?」
「生憎とそういう報告は来ていません。監査官としてお聞きします、冒険者ギルドはなにをするおつもりなのですか?」
「別に何かをしようって訳じゃないんだけど、しいて言えば用心かしら。」
「戦争のか?」
「それに関しては何もいえないわ。とりあえず言えるのは、冒険者ギルドの管理している武具が大分痛んできているから更新しようって話が出ているだけ。知ってるでしょ、新人に貸し出したまま戻ってこない武具がたくさんあるって。」
うーん、物は言いようって感じだなぁ。
更新もしくは新調という体裁で武具を買い集め、実際は有事に備えていると考えることも出来る。
武具が減っていくのは宿命だとおもうが、それなら職人から買うほうが安い上に品質もいい。
俺達が扱っているものは特殊な効果はついているものの、二つとして同じ物がないのが欠点だ。
「確かに生存率が上がっているとはいえ、そのまま倒れれば武具はギルドに返還されない。その分を補充したいってのはまぁ分かる。が、それは本部関係ないよな。」
「まぁねぇ。」
「つまり言えないのか。」
「コレばっかりはごめんなさい。だけど、今はいろんな方面でそういう場合に備えた動きが加速してるの。何もないのが一番だしそういう事の為にいい武具を保管するぐらいなら冒険者に安く売ればいいのにとも思うわ。でも、それをするにも一度集めないことには始まらないのも事実なのよね。」
「私の方でもそれらに関しては調べておきます。現状では監査官として冒険者ギルドの申し出を止める権利は持ち合わせていません。売られるかどうかはシロウ様のお気持ち次第かと。」
現時点では監査官として取引を禁止することは出来ない。
決して非合法なものではなく正式なギルドからの依頼だ。
武器工房から直接買い付けないのは、それが戦時準備だと思わせないための配慮だと考えられる。
下手な動きをして刺激しないように、俺みたいな商人から武具を買い付けているんだろう。
あくまでも名目は冒険者への装備拡充。
常に魔物と戦う冒険者を支援するためとしておけば角が立たないからな。
その武具がどう使われるにせよ、俺からしてみれば今後も増える武具を一掃するチャンスでもある。
中には長期間売れないまま保管されているものもあるし、そういったものを現金化できると考えれば決して悪い話ではないんだよな。
他の商売と違って不動在庫を抱えるリスクが大きいだけに、こういったときに売らないといつになっても在庫が減りやしない。
最後に必要とされるのは現金だし、今のうちにきれいにしておきたいという気持ちもある。
ぶっちゃけ戦争とかどうでもいいんだよなぁ、俺にしてみれば。
売った相手が冒険者かそうでないかだけの話しだし。
「ニアとしてはどうなんだ?」
「え?私?」
「この街のギルド職員として冒険者のためにこれはおいといて欲しいって物があるだろ?」
「そりゃまぁ、うちの冒険者が生き残れるだけの装備は残して欲しいわ。でも、ギルドとしてそれを買うことは出来ないのよ。ほら、うちって貧乏だから。」
「どの口が言うか。ならこうしよう、目録を見て残したいものにチェックを入れてくれ。それを見た上で俺がそれを残すかそれとも本部に売るかを決める。あとは俺が残したいものは残して、それ以外のものはいい機会だからうっぱらう事にしよう。」
『知りもしないギルド本部に俺の買い付けた品を売るよりも、必要としている人に買ってもらいたい』、俺みたいな商売人でもそれぐらいの気持ちは持っている。
なので、必要なものは残してそれ以外のものは在庫一斉セールということで全部売りつけてしまおう。
ハルカを買って現金も少なくなったし、補充するいい機会だ。
どうせ武具は放っておいてもダンジョンから回収されてくるし、倉庫が空けばそういった品も気軽に買い付けることが出来る。
結果として冒険者に金が流れ、残しておいた品も売れていくというわけだ。
どの世界でも争い事が起きかけると武器が売れる。
出来れば人じゃなくて魔物と戦うために使って欲しいもんだな。
ひとまず目録をニアに預け、戻ってきた奴に俺が残したいものも加えて削除。
残ったものを全て冒険者ギルドに買い取ってもらうことで話がついた。
需要がある物を高いうちに売りぬくのが転売の醍醐味。
今回はちょっと趣は違うのだが、需要があるうちにという意味では同じだ。
何より売れ残っていたものが売れるのが嬉しい。
まぁ、呪われた品なんかは残念ながら対象外だったのでもうしばらく保管しておく必要があるけどな。
「アニエスさん。」
「今回の件ですね、至急聖騎士団に確認を取らせていただきます。」
「宜しく頼む。有事に関しては大丈夫だとは思うんだが、もし今後も需要があるならそれらを買い付けておいて損はないからな。」
「かしこまりました。」
冒険者ギルドからの帰り道。
アニエスさんとは途中で別れ、俺は市場へと足を向けた。
もちろん新しい武具を買い付けるためだ。
鉄は熱いうちに打て。
情報は熱いうちに使え、ってね。
降って沸いた新しい商機だが、出来る事ならもう少し明るい話題で稼ぎたいものだなぁ。




