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9.転売屋は店について考える

質屋で情報を仕入れてから一週間。


大金を手にしたからと言って遊んでいるわけではない。


毎日市場に通っては売れそうなものを探して、ある程度の数が溜まったら露店に出して販売している。


鑑定スキルと相場スキルのおかげで損をすることは無いので全戦全勝。


あぁ、元の世界でこれが使えたらすぐに億万長者だっただろうなぁ。


そうなったら毎日酒飲んで綺麗なお姉ちゃん侍らせて暮らせるのに。


なんて思いもしたが、よく考えれば今の俺にも十分それが出来るんだな。


この一週間で稼いだのは金貨3枚。


これだけで300日暮らせると考えたらぼろ儲けだろう。


「よぉ、今日はもう終わりか?」


「あぁ。」


「今日も随分買ってきたのね、邪魔じゃないの?」


「そんなに多く無いつもりだけど、部屋に置いとくのが迷惑なら他をあたるが・・・。」


「おいおい、何もそんなことは言ってねぇよ。一月も部屋を借りてくれるお得意さんに文句はねえさ。なんなら隣の部屋も使うか?安くしとくぜ。」


確かにこの一週間売ったり買ったりで品物の出入りは多いが、どちらかというと買っている方が多い。


リンカが言うように部屋の中がごちゃごちゃしてきた感がある。


このやり方をしているとどうしても売れるよりも買う方が早いから在庫がだぶつくんだよな。


全部売れれば金貨10枚分ぐらいはある。


かかった元手は金貨1枚か2枚程度。


人件費はかからないし純利で八割ならぼろ儲けもぼろ儲けだ。


一泊1万で計算すると金貨1枚で100万円か。


ということは在庫全部売って1000万。


この世界に来てまだ10日ぐらいしかたっていないことを考えると真面目に?働いていたのがばからしくなる。


「そこまで仕事を大きくするつもりはないさ、金はあるんだのんびりやるよ。」


「いいなー、そんなセリフ私も言ってみたい。」


「俺だって言いたいさ。」


「なんだ、この仕事は儲からないのか?」


「それは秘密だ。」


絶対に儲かっているはずだ。


部屋数20のほとんどが毎日満室、利益が半分として一日銀貨10枚の儲け。


一か月で300万、年間7200万が利益としてあがってくる。


ローンの支払いとかあったら知らんがそれでもいい感じの儲けになるだろう。


もっとも、俺を基準にしたら話は変わってくるけどな。


「あー、私もそれぐらい稼ぎたいよぉ!」


「なんだリンカ、うちの給料じゃ不満か?」


「そそそ、そんなこと言ってませんよ?」


「そうだよな。」


知っているかマスター、元の世界ではそれをパワハラって言うんだぜ。


リンカがどれぐらい貰っているかは知らないが、決して少ないってことは無いだろう。


「飯はどうする?」


「荷物を置いてから食べるよ。日替わりで。」


「お湯は要る?」


「今日は貰おうかな、結構歩いたし。」


「じゃあ食事の後に持っていくね。」


とりあえず腹が減った。


荷物を置きに部屋に行きクローゼットの奥に荷物を押し込む。


着替えもしたかったが体を清めてからの方がいいだろう。


ちなみにここでは洗濯も有料でしてくれる。


もちろん洗濯機なんてないから洗濯屋に頼んで持ってきてもらうわけだが、これが結構高い。


貧乏人は自分で洗えって事だろうけど、金があるのでその辺は気にしない。


俺が経済を回していくんだぐらいの気持ちで行かないとな。


金は天下の回り物ってね。


金貨は例の場所にしまって端数を革袋に入れる。


銀行的な奴があったらいいんだけど残念ながらそんな場所は無いらしい。


両替屋もないみたいだし、金がダブつかないのかねぇ。


「ほらよ、今日の日替わりだ。」


「多くないか?」


「そうか?ここに来るやつは皆これぐらい食うぞ。」


それは冒険者だろ?とツッコミを入れたが一口食べて理由が分かった。


靴底みたいな分厚い肉に、大量のマッシュポテト的な何か。


サラダ代わりの草は山盛りで若干固いパンがドンと積まれている。


そのパンをトマト風の味のするスープに付けて食べ始めると気づけば全部なくなっていた。


よくもまぁこれだけ腹に収まったものだな。


大きくなった腹をさすっているとマスターが香茶を淹れてくれるのがいつもの流れだ。


これもそうだが、今の所この世界に来て食べ物には困っていないな。


よく海外に行って食べ物が合わなかったなんて聞くけれどどうやら問題ないらしい。


「食えただろ?」


「あぁ、何でだ?」


「それも秘密だ。」


「じゃあ秘密ついでに聞くんだが、人を雇うのはどうすればいい?」


一人で黙々と食べていたのだが、別に何も考えてなかったわけじゃない。


これでも色々と考えているんだよ色々。


「誰か雇うのか?」


「リンカが言うように確かに品が溢れているのは間違いない。品を減らせば問題ないんだから隣部屋を借りるより安く済むだろ。」


「まぁ確かにな。」


「ここだけの話いくら支払ってるんだ?」


「隣部屋一月分よりかは安いとだけ言っておくよ。」


マスターもなかなかに口が堅い。


でもまぁヒントは貰った。


安くすると言っていた隣部屋を借りるよりも人を雇う方が安くつく。


俺が仕入れをしている時に売ってくれる人間がいれば、同時並行で処理できるから在庫もだぶつきにくいし利益も上がる。


最悪長期間売れない品はあの猫娘の店に持っていくという手もあるしな。


「で、どこに行けば雇えるんだ?」


「そうだな、商業ギルドに行けば斡旋してるが・・・お前が扱っているような品はあまり触らせない方がいいんじゃないか?」


「逃げるのか?」


「可能性は高い。そういった品を扱わせるなら身分がわかっているリンカみたいなのを雇うか奴隷を雇うのが一番だろう。」


「奴隷ねぇ・・・。」


質屋の話をした時にも奴隷の話が出てきたが、やっぱり売買しているのか。


エロ本エロゲーではおなじみだが、実際自分がそれを手に入れられると思うと・・・正直そそられるね。


女を自分の好きなように出来るっていうのは男の夢みたいなもんだ。


ここに来て十日、そろそろそっちもたまって来たし一度娼館ってのにも行ってみるべきだろう。


アレな病気を貰わない場所をダンにでも聞いてみるか。


「奴隷なら逃げられないし買うのは高いが長期間を考えれば十分元は取れる。もしこの街を離れるのなら荷物持ちにも使えるだろう。」


「そういう考え方もあるのか。」


「奴隷を使わずに今まで商売してきたのか?」


「お陰様でド田舎から出てきたんでね。」


「お前の稼ぎなら算術のできる奴隷も買えるだろう。」


算術、そうか全員が全員そういうのが出来るわけじゃないんだな。


そういえばリンカに簡単なおつかいを頼もうとしたら、小学生でもできそうな暗算に四苦八苦していた気がする。


なるほど、そういう事も考える必要があるのか。


「高いんだろ?」


「そうだな、それなりに若くてそういった事にも使うなら金貨50枚はくだらないんじゃないか?」


「そんなにするのか・・・。」


「むしろそれで手に入れば安い方だろ。」


つまり倍の金貨100枚は用意するべきだろう。


人一人の命を買って一億円。


それを高いと考えるのか安いと考えるのか・・・。


そういった小難しい事は坊主に任せればいいだろう。


「じゃあ、もう一つ聞くんだが。」


「なんだ?」


「この街でマスターのように店を構える事は可能なのか?」


もう一つ考えていた方法。


人を雇うのではなく、場所を買うという考え方。


店を用意すればそこで買取も販売も同時にこなすことが出来る。


そうすれば人を雇わなくても何とかやっていけるだろう。


幸い商店も並んでいるし、露店しかできないって事もなさそうだ。


だが、それを聞いた瞬間にマスターの表情ががらりと変わってしまった。


「あー、残念だがそれは無理だ。」


まさかの返答に香茶を飲む手が思わず止まる。


「無理?」


「あぁ、この街は余所者にはあまり貸さないんだ。」


「貸さないって店をか?」


「あぁ。」


マジか、そんなセコイ手段をとるのか。


でもまぁわかる気がする。


既得権益ってやつだろ?


新参者に利益を取らせないようにっていう古い考えだ。


解らないことも無い。


「それとな・・・。」


と、それに加えてマスターが言葉を紡ぐ。


それは信じられないような内容だった。


「税金が高いんだ。」


「いくら稼いでも税金は無いって話じゃなかったのか?」


「それは露店の話だ。店を出す奴には決まって税金が課せられる。」


「それはどこでもある話だろ?」


「あぁ、だがここのはべらぼうに高い。」


「どれぐらいなんだ?」


「金貨200枚だ。」


「はぁ?」


税金で億?


マジで言ってんのか?


どんだけボるんだよこの街は。


二億だぞ二億。


毎年宝くじ当てろって話じゃねぇか。


「いいなぁ、その反応。だが本当だ。」


「じゃあマスターもそれだけ払ってるのか?」


「俺はこの街が出来た時から居る古参だからな、そんなに払ってない。」


「なるほどね、新人イビリか。」


「そんな所だ。」


「そんなやり方してたんじゃ空き店舗が出来ても埋まらないだろ。」


「埋まるさ、それだけ稼げるのがこの街だ。むしろそれが払えないような小物はこの街には要らないって事だろ。」


なるほどね。


既得権益とかではなく、単純に弱肉強食の話か。


いいねぇ、そう考えるとわかりやすい。


「それに今空き店舗は無かったと記憶している。仮に稼げたとしても無理だろう。」


「なるほどね。有難うマスター。」


「なに、もう一杯飲むか?」


「いただくよ。」


何杯目かわからない香茶を飲みながら、俺は次の一手に思考を巡らすのだった。

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