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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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851.転売屋は看板を作る

「ん?なんだこれ。」


「さっきお客さんから買い取ったやつです。綺麗ですよね。」


「綺麗、になるのか?」


「え、綺麗じゃないですか?透明で光が当たるとキラキラして。」


うーむ、そう見ろと言われればそう見えるかもしれないが、メルディの目は俺が見るよりも楽しい世界を映し出しているようだ。


俺ぐらいになるとなんて言うか、スレた見方しか出来ないんだよなぁ。


そんなことを思いながら、壁に立てかけられた板に手を伸ばす。


『グラスタイタンの装甲。透明な体をしたグラスタイタンの体を構成するパーツ。ガラスでもなく石でもない、弾力はあるものの決してやわらかいわけではない不思議な素材。ガラスを用いることが出来ない場所などに用いられることがある。最近の平均取引価格は銀貨5枚。最安値銀貨3枚、最高値銀貨10枚。最終取引日は本日と記録されています。』


膝の高さほどの透明な板切れ。


グラスタイタンという透明な魔物の体に使われているようだが、実際どんな魔物かは見たことが無い。


ガラスほど透明感は無いものの、向こう側が十分見えるぐらいの透明度はある。


若干乳白色が入っている感じといえば分かりやすいだろうか。


それが全部で8枚。


長方形ではあるものの長さはどれも違っているようだ。


試しに一枚持ち上げてみると、それなりの重さはあるが持てないわけじゃない。


程よい弾力があり、両端を中央に押し込むとホワンという音を立ててたわんだ。


なんだろう、アクリルの板っぽい。


ほら、前に病気が流行ったときに飲食店なんかに設置されていた奴だ。


程よい硬さもあるので何かに使えそうなものだが・・・。


すぐには思いつかんな。


「ま、いいんじゃないか?何かに使えるだろ。」


「窓とかはどうですかね。」


「断熱性能とか耐久性が分からないが、鑑定結果から察するに代用品にはなるみたいだな。内窓とか、小窓とかにちょっと使うには良いかもしれない。とはいえこの大きさじゃ大きな窓には使えそうもないし、飾り窓ぐらいじゃないか?」


「なるほど~。」


「他に何か買い取ったか?」


「後はいつもとおんなじですね、装備品なんかは最近少なめなんです。」


拡張工事を前にそれなりの賃金が出る肉体労働が多いので、体力自慢の冒険者達はそっちを受けているようだ。


そうなると必然的にダンジョンに入る絶対数が減り、確率で手に入る装飾品が持ち込まれる量も比例するように減っていく。


もっとも、金になる素材なんかは需要があるのと働くよりも稼げるので数が減らないんだよなぁ。


「引き続き店番頼むな、俺は露店で在庫を売ってくる。」


「それでしたら倉庫の手前に置いている分をお願いします。」


「了解。」


荷車に荷物を積み込み、ガラガラと市場へと引っ張っていく。


いつもの場所に店を出しいつものように品を売る。


いつもと変わらないからこそ、この時間は幸せだ。


何も考えず商売だけしていればいい。


もちろんおっちゃんおばちゃんとの話も楽しい。


貴族という身分になってしまうと俺が意識しなくてもその身分が付きまとうのだが、この二人だけは昔と変わらずいつもと同じように接してくれる。


だから俺はこの時間が好きだ。


「ちょっと出てくる。」


「はいよ。」


「気をつけてな。」


店もひと段落したので、トイレついでに市場をぐるりと見て回る。


こちらもまたいつもと変わらない感じだが、三割ぐらいは新規の店って感じだ。


冒険者、旅行者、行商人、人種も職業も様々で置かれている品もまた様々。


見たことある物もあればそうでない物もあるわけで。


「ん?」


「らっしゃい。」


「ここは何の店なんだ?」


「ここではエンブレムの下絵を描いてる、そこにおいてるのが全部そうだ。」


40代ぐらいのガタイのいいオッサンの前には、大小様々な板が置かれておりそのどれにも見事な紋章が描かれていた。


剣もあれば酒樽、魔物の顔なんてのもある。


デフォルメされているわけでもないが、かといって本物そっくりというわけでもない。


だが見れば見るほど不思議と目を引く仕上がりだった。


「見事な紋章だな、どんな絵でもかけるのか?」


「どんなのって言われても困るが、描けっていわれればなんにでも描くぞ。」


「なんにでも?」


「あぁ、木でもガラスでも持ってきてくれればそこに望みの物を描こうじゃないか。」


なんでもじゃなくてなんにでもってのが面白いな。


とはいえ街のどの店ももうエンブレムは飾ってあるし、今更新調する店はあまりないだろう。


街の拡張工事後ならともかく、今なの状況では新規製作はほぼないと考えていい。


時期が悪かったな。


「ふむ、面白いが生憎しっかりとした奴が飾ってあるんだよなぁ。」


「もちろん分かってるが、別に一個である必要は無いだろ?何個もあったほうが宣伝になるぞ。特に目立つ奴はな。」


「そりゃ一個である必要は無いけど。」


日中ならともかく夜になると明かりも少ないので何個設置しても結果は同じ。


スポットライトのように発光石を設置している店もあるが、それもごくわずかだ。


地味なんだよなぁ、やっぱり。


見栄えを意識するなら、外からじゃなく中からも光ってアピールできれば良いんだが・・・。


「さっき、なんでもって言ったよな?」


「あぁ、生き物じゃなきゃ大丈夫だ。」


「ちょっと待っててくれ、すぐに戻る。」


それならうってつけのものがあるじゃないか。


急ぎ店に戻ってさっきの板と本を一冊取ると再びオッサンの所に戻った。


「本当に戻ってきたんだな。」


「そりゃな、こんなので描けるか?」


「ガラスっぽいが少し違うな、とはいえこのぐらいなら問題なくいけるぞ。何を描けばいいんだ?」


「この紋章を頼む。」


「一角獣か、いいモチーフだな。」


「こいつの真ん中少し上に紋章を描いて、その下に店の名前を頼む。それを二枚頼めるか?」


「お安い御用だ。二つで銀貨10枚になるが、いいか?」


思ったよりも良心的な価格だったので、ついでにもう一件分依頼させてもらった。


仕上がりが夕方、はてさてどんな仕上がりになっているのやら。


前金を支払ってから一度露天に戻り、在庫を全て売りさばいてから再び職人の所へ戻る。


「お、来たか。」


「出来たか?」


「あぁ、こんな感じの仕上がりだがどうだ?」


メルディが買い取ったグラスタイタンの装甲に、一角亭と三日月亭の紋章と店名がセンスよく描かれている。


さすがプロの仕事だ、俺には絶対に真似できないな。


「見事な仕上がりだ。」


「この板は良いな、つるつるしているように見えるが塗料がしっかりと乗って描きやすい。」


「やっぱり描きやすい描きにくいがあるのか。」


「そりゃあるさ。とはいえどんな物にでも描くのが俺の仕事、いつもは港町で仕事してるんだが、こんなに喜んでもらえるのならここまで来た甲斐もあったってもんだ。」


そうか、港町に行けば同じクオリティの品を注文できるのか。


それはいいことを聞いた。


板ぐらいならバーンに乗るときにも一緒に運べそうだし、時間をかけていいのなら船で運んで一ヵ月後に回収とかもアリかもしれない。


もちろん需要があればの話だが、俺の勘は当たるといってる。


とりあえずはこれを使ってブツを作るとしよう。


店主にお礼を言って再び店に戻り、材料を裏庭に運び込んだ。


まずは紋章の描かれた装甲を二枚背中合わせにして、上下を木材でしっかりと接着する。


さらに下の板に足をつけて地面に触れないようにしておくのを忘れない。


「で、この中に発光石を入れてミスリルゴーレムの導線と接続、最後に魔石を組み込めば・・・。」


「光りました!」


「よしよし。で、石を抜けば消えると。スイッチみたいに接触するしないを切り替えれたらいいんだが、その辺は要調整だな。後は左右を板で蓋して導線を外に出す穴を開ければ看板の出来上がりだ。」


透明な板に描かれた紋章が、発光石に照らされていい感じに光っている。


我ながらいい出来じゃないだろうか。


本当は上下左右も透明な板で接着するべきなんだが、残念ながらそこまで材料が無いので諦めた。


それでも光が板から抜けるだけでも十分に綺麗だし、なにより夜に紋章と店の名前が見えるのはでかい。


看板ってやっぱり客寄せとしては最高の道具なんだよなぁ。


「綺麗ですね、紋章が浮かんでいるみたいです。」


「あぁ、この出来なら二人も喜んでくれるだろう。」


「あげるんですか?」


「まさか、売るに決まってるだろ。」


まぁ、売るのはマスターだけでイライザさんへはプレゼントだ。


この間も鶏がらスープのレシピを貰ったし、いつも色々と世話になってるからな。


「ちなみにおいくらですか?」


「原価を考えれば銀貨50枚は欲しいところだが、現実問題銀貨30枚が限界だろうなぁ。」


板で銀貨5枚にデザインが銀貨10枚、そこに導線と魔石に加工賃を乗せれば利益はほぼ出ない。


まずは様子見だが、大きいのは銀貨50枚小さいのは銀貨30枚にして客自身に選んで貰うって手もある。


もちろん俺は大を売りたいのだが、それしか選択肢がないと買い渋る客も出てくるので選べるようにして結果として大を売るほうが後々クレームにならなかったりするんだよな。


その辺は売るほうのやり方次第ってことだ。


どちらにせよこれは売れる、なんならむちゃくちゃ流行る。


流行りだせば真似する人が出てくるだろうから、今のうちに材料を買い集めて一気に注文してしまえばしばらくはうちの仕事に掛かりっきりになってくれるだろう。


この紋章はあの人にしか出せない味がある。


お抱えにしてしまいたいが、それをするとその状況に胡坐をかいてしまうんだよなぁ俺も向こうも。


なので刺激を受ける為にもそういうことはしないほうがいい。


最初にある程度儲けが出れば俺はそれで十分だ。


「高いですけど、ここにも欲しいですね。」


「え、この店にか?」


「はい!かっこいいじゃないですか!」


うーむ、やはりメルディのセンスは独特だなぁ。


夜には閉店している店なのに、その時間に目立たせてどうするんだろうか。


もちろんそれはそれで宣伝になるかもしれないが、メルディなりの考えがあるのかもしれない。


ともかく、まずはこれを持って二人の所に行かないと。


喜んでくれると良いんだけどな。


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