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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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827.転売屋はデートをする

船の速度が落ち、心なしか潮の香りを感じる。


「シロウ様、そろそろ港に着きます。」


「了解した。」


はぁ、とうとう着いてしまったか。


心の底からあふれる溜息を外に吐き出し、俺は天を仰いだ。


分厚い曇天は俺の心の表れか。


久々の港町だというのにどうしてこう嬉しくないのか。


理由は一つしかない。


「お帰りは明日の朝でよろしいのですか?」


「流れ的にそうなってしまうだろうが、死ぬ気で宿に戻ってくる。もし戻ってこない時は・・・。」


「街長のお屋敷までお迎えに上がります。」


「そうしてくれ。」


「なにも13月になってすぐ動かなくても良かったのでは?」


「この機を逃すと本気で行きたくなくなりそうなんでな、一応借りもあるし無碍にして後々取引に差し支えても困る。俺が犠牲になれば済む話だ。」


清酒造りに欠かせない水。


その水を手に入れる為に俺は港町の街長ポーラさんに借りを作った。


借りを返す時はデートでという約束だったので、こうして行商のついでに港町まで向かっているというわけだ。


しかし、名目上はデートだが別に恋人同士でも何でもないので、俺のやりたいことをやらせてもらうつもりでいる。


もちろん向こうがそれを許してくれればの話だが、ノーとは言わせない。


エリザも臨月に入り、いつ出産してもおかしくない状況での外出は出来るだけ避けたかったのが本音だが、さっきガレイにも言ったように今を逃すと益々行きたくなくなり、約束を果たせなくなりそうだった。


なのでこうやって重たい腰を持ち上げてここまで来たというわけだな。


これは行商、もしくは仕入れ。


ポーラさんは街長なんだから会うのは当然。


そう、当然だ。


そうやって自分を慰める俺を乗せ、船は静かに港へと接岸した。


タラップが降ろされ一日半ぶりの地上を踏みしめる。


「ようこそお越しくださいました、シロウ様。」


「街長がわざわざ出迎えなくても俺から屋敷に向かうぞ?」


「僕がしたくてやっている事ですから。」


「まぁ、それならいいんだけど。ガレイ、ドレイク船長に宜しく伝えてくれ。」


「わかりました、例の水についてもお伝えしておきます。」


「よろしく頼む。」


ポーラさんを待たせて最低限の指示を出しておく。


今回の輸出品の中には、廃鉱山から仕入れた魔力水が積み込まれている。


こっちで消費するよりもやはり向こうで売ったほうが高値で売れるのは間違いないようだ。


需要が多い品だけに出来るだけ高値で買ってくれる相手に売りたいのが商人の心情というもの。


向こうの事は向こうの人間に聞くのが一番、ってことで俺が持っているぞってことを伝えておくことにしたわけだ。


後は船長が向こうの商人に情報を流せば必然的に買い注文が入り、その中から一番高い相手に売れば利益確定。


他にもオークションで買い付けた品や、ルティエ達のアクセサリーなんかはイザベラに任せれば良いようにしてくれるだろう。


丸投げで俺にはお金が入ってくるんだから有難い話だよなぁ。


「悪い、待たせたな。」


「大丈夫です。」


「誘っておいてなんだが、今日は何をする?」


「出来ればシロウ様の仕事を見たいのですが・・・。」


「俺の仕事?」


「はい。」


今日のポーラさんははいつもと違って年相応の少女という雰囲気だ。


茶色の長いコートの下から大人しい目の紺色のスカートが覗いている。


普段はきりっとしたズボン姿が多いだけに少し新鮮な感じだ。


女性は服装で雰囲気がガラッと変わるからなぁ。


女豹と違って若さが前面に出ると街長には全く見えない。


もちろん本人の前でそんなこと言えるはずないのだが。


「別に構わないが、一応デートなんだろ?」


「そうです。」


「そんなのでいいのか?」


「どういう風にお仕事をされているか興味あるじゃないですか。」


「まぁ、俺からすれば有難い話だ。今日は西方の市が出ていたはずだな、まずはそっちから行くぞ。」


「はい!」


まずはシュウの所でグラスと新作をいくつか買い付け、その足でパック用の果物を大量に注文する。


後は露店を冷やかしながら売れそうな品を探すという地味なデートにもかかわらず、ポーラさんは俺の半歩右後ろに控えて、静かに買い付けを見守っているだけだった。


うーむ、いつもならもっとグイグイ来るんだが今日はずいぶんと大人しいなぁ。


拍子抜けというか、予想外というか。


時々後ろを振り返るも、本人はいたって楽しそうだ。


わからん。


その後もあちらこちらを動き回り、時間的にそろそろ戻ろうかという所で一件の露店が目に留まった。


「お?」


「どうしました?」


「見た事ない布が売ってる、ちょっと覗いてみるか。」


市の端っこの方は人影もまばらだ。


寒い上に客があまり来ないからか他の店は店主がいなかったが、そこだけは40代ぐらいのおばちゃんが分厚い布にくるまれたまま静かに目を閉じてうたたねをしている。


「寝ているところ悪いが、ちょっといいか。」


「え、あ!いらっしゃい。」


「珍しい柄だな、これも西方の品なのか?」


「そうさ、昔からアタイの村で織られているんだよ、綺麗だろ?」


「あぁ、手間がかかっていそうだ。見ていいか?」


「そこに出しているほかにも反物もあるよ、欲しけりゃいっとくれ。」


突然来た客にも物怖じすることなく接客してくれるあたり好感が持てる。


早速手前の布に手を伸ばしてみた。


絹の様な肌ざわり、目にも鮮やかな刺繍。


元の世界でいう西陣織とかそういう感じだろうか。


だがこれは織るだけではなく染めたり描いたりしているようにも思える。


手ぬぐいほどの短さだが、それでも目を引く鮮やかさだ。


『西方の織布。何種類もの色糸を匠の技で織り重ねて作られた逸品。その土地土地で模様や柄が違う為、同じ模様に出会うことはまずないと言われている。また、地域によっては織りだけでなく染めも施されており、類稀な技術が継承され続けている。最近の平均取引価格は銀貨30枚。最安値銀貨5枚、最高値金貨44枚、最終取引日は本日と記録されています。』


やはり織物だったか。


しかし見れば見るほど見事な仕上がりで、ただ単調に織っているだけでなく随所に刺繍が施されていて思わず見とれてしまう。


地域性の違いもあるみたいだし、これは買って損はないだろう。


「綺麗ですね。」


「あぁ、見事なものだ。これ、いくらだ?」


「そっちの短いのが銀貨10枚、長い方が銀貨20枚だよ。」


「ふむ、じゃあ短いのを全部くれ。」


「え、全部かい!?」


「長いのは5本程でいい、反物は柄次第で考えよう。」


「ちょ、ちょっと待っとくれ、すぐに準備するから!」


突然現れた上顧客に流石のおばちゃんも大慌てだ。


短いのは全部買うのでその中から良さげなものを一つ選んで、後ろで目を丸くしているポーラさんに手渡す。


「え、これは?」


「せっかくのデートなのに買い付けに付き合ってもらったお礼だ。中々綺麗だろ?」


「それは蝶の刺繍だね、お嬢ちゃんみたいにこれから羽ばたく子にはピッタリさ。」


「お嬢ちゃんですか。」


今日の格好からすれば十分お嬢ちゃんだと思うがなぁ。


残念ながら俺の守備範囲外、好意は有難く受け取るとしてもそれ以上の感情を持つことはありえない。


ましてや街長だぞ?


手を出したら最後、一気に自由がなくなるじゃないか。


「いらなかったか?」


「そんなことありません!有難うございます。」


「気に入ってもらって何よりだ。」


ハンドタオル程の織布を両手で大事そうに握りしめる。


まぁ気に入ってもらえたのなら何よりだ。


「お兄ちゃんこれなんてどうだい?このぐらいの柄ならこっちの服にも使えると思うけど。」


「あー、この模様ならいけるか。地味にし過ぎてもあれだし、西方風ってことでアレンジしてもらえば金持ちには流行るだろう。」


「それならこっちがお勧めだよ。」


「いいねぇ、じゃあコレとあと奥のを二本いや、三本貰おう全部でいくらになる?」


「ちょっと計算するから待っとくれよ。」


反物は王都に流してアルトリオの三兄妹に仕立ててもらうとしよう。


新しい素材に彼らも大喜びするに違いない。


西方と王都のデザインが癒合した服、売れるな。


「普段からこんなに買い付けるのですか?」


「ん?あぁ、そうだな。金になりそうなものがあれば大体こんな感じだ。」


「ざっと見積もっても金貨5枚は越えますよね。」


「おおよそ10枚って所だろう、安い物だ。」


「安い、ですか。」


「街を運営してたらこれぐらいの金額は右から左だろ?」


「街単位ではそうですが、シロウ様は商人ですよね。これだけの買い物をするとなると普通はもっと慎重になると思いますけど、流石です。」


いつもならもっとテンション高めにほめちぎってくるポーラさんなのだが、やっぱり今日は変な感じだ。


いや、これぐらいのテンションの方が俺にはありがたいのだが、こんな事ならもう少しデートっぽくしてあげた方が良かっただろうか。


なんだか罪悪感が沸いてくる。


「お待ちどう、全部で金貨10枚と銀貨12枚だけど10枚ぽっきりでいいよ。」


「銀貨か?」


「バカ言うんじゃないよ!」


「冗談だって、これ代金な。港にガレイって船長がいるから商品はあいつに渡しておいてくれ。」


「可愛い彼女さんじゃないか、泣かせるんじゃないよ。」


いや、そういう関係じゃないから。


彼女と言われた瞬間にパッと顔色が明るくなるポーラさん。


あぁ、やっぱりいつもの感じか。


あまりテンションが上がらないうちに市を離れ、残りの買い付けをするべく街の中心部へと戻った、その時だった。


「待ってましたわ!」


何処かで聞いた事のある声と共に、俺達の行く手を一人の女が遮る。


胸元に垂れた金髪のロングヘアーを右手でバサッとかきあげ、腰に手を当てて堂々と胸を張る女。


何処かで見たことあるんだが・・・。


誰だっけか。


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